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第五章 (1)

 第五章スタートです。艦内の体制が一応整いました。主な登場人物も出揃いました。


 少しづつ、中心人物たちの紹介をお話の中に織り込んでいきます。


自 2011年5月27日

至 2011年6月4日


 艦内の生活面のリーダーシップは、軍の資材部にいたリーザ・カロルが引き受けていた。資材部にいただけあって物資の管理はお手のもので、少ない物資を見事にやりくりしていた。彼女の下にはワズのマーケットで商品流通と注文作業を担当していたセシル・フィールドとミリー・フランが入っている。

 食堂の管理をしているアルもリーザの配下である。調理担当には研究所の食堂にいたメンバーがそのまま組み込まれている。

 医療部門は軍医のペドロ・オルフェを中心として、現在はワズにあったセンター病院の医師らが、負傷者の治療に当たっている。医師を除く医療班のトップには軍にいたアンナ・ベインが立ち、軍の医療関係者の他、宇宙大学の学生で、夏休みを利用してセンター病院に研修に来ていたナスカ・アロウとカレン・オズマを、メンバーに加えた。二人とも総合医療科で学んでおり、看護学、薬学、救急医療について詳しいのだ。


 食堂は戦闘時以外は終日開いているが、食事をとれる時間帯は決まっている。それ以外は原則として飲み物だけだ。特例として食事の時間帯に戦闘が入り込んだ時のみ、時間をずらして食事が供給されることになっている。

 船の運用メンバーに選ばれなかった民間人は普段は総合倉庫で寝泊まりしており、戦闘時のみ食堂に避難する事になっていた。もともと軍艦であるため居住区の収容人数はそれ程多くないし、そのすべてが個室である。更に言うならば、各個室には緊急呼び出しシステムが取り付けられていて、戦闘時には全員に召集がかけられてしまうのである。そのため現在は運用を任されたメンバーに個室は割り当てられている。実戦経験の少ないものはストレスを溜めやすいので、できるだけゆっくり休めるようにとの配慮でもある。


 当直は機関部門(機関室)、通信部門(通信制御室)、レーダー部門(レーダー監視室)の三部門の他、メインブリッジでも行われている。敵に遭遇しない限り、船は目的の基地を目指して自動操縦で動いており、その間はパイロットを除くメンバーで当直をやりくりしている。パイロットを除くのは現在、この二人には交代要員がおらず、自動操縦が不可能な時は休みなしで働いてもらわなければならないからだ。

 この当直にはメインブリッジを担当する機関長、通信班長、レーダー技士長も含まれる。従って当然のことながら、彼らは各部門の方の当直には参加していない。各部門の当直は一名だが、メインブリッジは時間を半分ずつずらした形での二名編成である。

 最初の戦闘を何とかクリアして艦内の体制も、ようやく整って来た。最寄りの前線基地まではあとわずか。順調に行けば二日程で到着できるだろう。まあできることと言えば、負傷者を降ろし、物資の補給をするぐらいではあろうが…。


 メインブリッジではサラとミックが当直についていた。

「しばらくは何も起きそうにないわね」

「だと嬉しいんだがな」

「連盟はまだあきらめてないかしら」

「どうだろう。少なくとも一度は援軍を要請しているわけだし」

「今どういう状態かわかるといいのにね」

 実際、敵の動きはまるっきり見えない。追撃して来たあの大型艦がどうなったのかも、援軍が来たのかどうかも、今は知るすべもない。ワズから最寄りの前線基地までの間には、確かにいくつかの偵察衛星は存在する。だが、そこからの信号は現在は基地にのみ送られている。

 ワズの基地は壊滅してしまったから、信号が現在送られているのは、次の前線基地のみである。ならばそちらから情報をもらえばいいと思われるかも知れないが、事はそう単純には運ばない。

 偵察衛星の情報は軍の機密事項である。誰もがアクセスできるわけではない。軍艦や基地はそれぞれにアクセスコードを持っており、それによって衛星の情報にアクセスするわけだが、現在ファルコンは――まだ開発中だったこともあり――軍艦としては登録されておらず、当然のことながらアクセスコードはまだない。今、現在最寄りの基地との交信も一般回線で行っており、軍事情報は提供されないのだ。――この回線での通信は電波の届く範囲のすべての通信システムで傍受できてしまう――仮に暗号で通信したとしても、不特定多数の人間に傍受され得るということは、それだけ解読の可能性を高めることであり、そんな危険を犯すわけにはいかなかった。

「敵の動きが読めないのがどうにも痛いな」

「そうね。アクセスコードが必要なのよね、軍事情報を得るには…」

「ああそうだ。君も大分わかって来たようだな」

「たとえ肩書きは技術将校でも、お飾りになるつもりはないわ」

 技術将校としてもそうだが、軍人としても軍内でしっかりとした足場を作っているエリナや父の様になろうと、サラは思っている。何よりサラが軍人として足場を固めれば、エリナをその重責から解放してやることもできるだろう。長女だから責任があると思っている訳ではない。いや、ちょっとはそういう部分もあるかも知れないが、全体としては違う。他の姉弟たちも大抵みなそうなのであるが、サラはエリナが好きなのである。結構器用に色んなことをこなしてしまうくせに、生き方はどこか不器用で危なっかしくて見ていられない。人に甘えるのが下手で、意地を張って突っ張っているのに実は淋しがりやで、でもそこが妙に可愛くて愛おしくて――大学に入るまで側にいてやれなかった分――構ってやりたくてしょうがないのだ。

「成程な、君もあの妹みたいになるつもりか?」

 ミック自身はエリナが指揮を執っている場面をそうそう見た訳ではない。合流してからは、一技術部長に徹しているのだ。だが、ファルコンが発進する際、メインブリッジに居たミックは、総司令部からのエリナの通信をその場で聞いている。現状を把握した上での的確な指示は彼女の能力の高さを示していた。

「あそこまで昇り詰められるとは思わないけど、できるところまでは行くつもりよ」

 エリナほど器用ではないのはわかっている。でもエリナにできたのなら自分にだってできない筈はない。

 艦橋から見える宇宙空間へ遠い目を向ける。ミックもその視線を追う。出来のいい妹を持つのはどんなものなのだろう。口振りもそうだが、エリナに対する態度も、うらやんだりねたんだりしている感はない。むしろ可愛くてしょうがないという風である。

「君たちの彼女に対する態度ってのは、どこか普通と違う気がするんだが…。出来がいいからなのか?」

「えっ?」

 ミックの問いサラは驚く。そんな風に考えたことは一度もない。それはサラだけではなく、おそらく他の弟妹たちも。

「えっ…て、違うのか?」

「だって出来がいいとか思ったことなんてないわよ、私たち」

「そうなのか?」

「そりゃ確かにあの娘は中将にまでなってるけど、私たちとはそもそも立場が違ってるし…、技術面で言えばあの娘が一番っていうわけでもないし…」

 実際、学問的な部分で言えば、自分たちとエリナとは同等である。あとは適性の違いであろうと思っている。軍での階級に違いがあるのは在籍していた期間が違うのだから当然なのだ。

「そうね、確かに私たち四人とエリナとはちょっと違うけど…。私たちは子供時代を一緒に過ごしているけど、あの娘だけ別だったからじゃないかしら」

「別々に暮らしてたってことかい?」

「ええ、エリナは両親と一緒に各地を転々としていたから。その頃は数える程しか会えなかったわ」

 ああ成程とミックは思った。ランドルフ博士の死を知った時、サラ達が妙にエリナを構っていたのは、この為だったのだと。

「エリナ中将が一番、ランドルフ中将に近かったんだね。それで君達は…」

「ええ、その通りよ。しかもあの娘は自分の母親も既に亡くしているわ。それなのに今度は父親まで…、目の前で死んだのよ」

 本当にそれはどんな思いなのだろうと思う。目の前で肉親の命が奪われるという事は…。軍人であればこそ、気丈に報告をしていたが、そうでもなければ泣き崩れていてもおかしくはなかったのだ。

「でも数える程しか会ってない割には、仲が良い様だけど?」

「そうね、それは私たちもちょっと不思議だわ。でもあの娘はどこに行っても友達を作っちゃう様な娘だから、私達との関係もそれに近いのかも知れないわ」

 確かに大学に入るまでは数える程しか会っていなかった筈なのに、会う時はいつも昨日別れたばかりの様な気がするのだ。多分それはエリナが持つ強い印象とブランクを感じさせない話術とに由来するのだろう。

 もう一つの原因はバーディにあるのかも知れない。バーディは小学校の確か5、6年の頃、ちょっと訳ありでエリナと共に暮らしていたことがある。期間は一年半ぐらいだったが、そこから帰って来た時にはすっかりエリナの崇拝者になっていて、事あるごとにエリナの話をする様になっていた。こまめに手紙のやり取りもしていた様だった。エリナがブランクを感じさせない話ができるのは、そうやってバーディから最近の情報を入手できるという事情もあったのだろうと思う。

 一方、この話を聞いたミックは各部門のメンバーを決める時のエリナの助言を思い出す。まるで分野の違う様々な友人関係、その幅の広さには舌を巻く。そしてその付き合いの深さにも…。話を聞く限り、そうしょっちゅう会っているわけではないらしいのだが…、その内容は濃い。相手の心を一瞬で鷲掴みにしてしまうことが、エリナにはどうやらできるらしい。

「あとね、私達の目から見て、エリナが一番苦労してる様に見えるから…。まっ本人は否定するでしょうけどね。私達はエリナに対してちょっと負い目を感じてる部分もあるわ。それが多分、外から見ると普通っぽくなくなっちゃう理由かも…」

 エリナの事を語るサラの話は放っとくといつまでも続きそうだった。それだけエリナはサラに好かれているのだろう。ちょっとうらやましいかも…と思う。誰かにそういう風に想われるのはほんとうに…うらやましいと…。



 お気に入り登録者はいなくなってしまいましたが、ユニークが300人を越えました。たくさんの方に読んでいただけて感激しています。


 ファルコンは次の前線基地を目指して進んでいます。艦内は緊張感はあるものの、それなりに人々の暮らしが続いています。このあともそんな日々を綴っていきます。


入力 2012年7月16日

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