第四章 (3)
ドカンと登場人物が増えますが、当面無視して大丈夫です。
戦闘場面は(色々調べてはいますが)かなり適当なので、つたないところはお許し下さい。
自 2011年5月18日
至 2011年5月26日
ファルコンはゆっくりと無限の宇宙空間を進んでいる。今のところ周囲に敵の姿はない。だが、まだまだ安心はできない。最寄りの基地までまだ数日はかかるのだ。人の住む星はその手前にも実はいくつか存在するが、どれも民間人しかいない小さな植民惑星で、敵の追撃を受ける可能性のある今、そこに逃げ込むわけにはいかない。
厳密に言えば、最寄りの基地まで辿り着いたところで、そこで艦内の民間人を降ろしたり、船の軍人の補充をしたりということができるとは思えない。せいぜい負傷者を降ろすぐらいが関の山であろう。一番近い基地はワズの様な小規模の基地でしかないのだ。当然この船にいる大量の民間人を引き受ける様な余力はない。更にこの船が新造艦であり、現時点では軍の機密事項に関わっていることを考えれば、それに触れた民間人をうかつな場所で解放してしまう訳にはいかないという事情もある。
敵がまだ現れないこの時間を利用して、各部門とも自身の構成員を決めている。責任者だけで艦を動かせる筈はないのだ。どうしたって手足となって動く人員が必要になってくるのだ。
バーディは研究所の防衛隊で生き残っていた戦闘機乗りを全部チームに組み込んだが、それでも尚充分な人員を確保できず、エリナの進言によってダイナースのメンバーだったオットー・ゲイル、サダ・ランド、トニー・タダ、アーサー・ボルドーの四人をまず組み込んだ。断られるかと思ったが、エリナの名を出すと至極あっさりと引き受けたのには驚いた。あと一人、民間人からはフロル・バドークがメンバーに入った。フロルは小型高速艇の開発部門でテスト・パイロットをしていた経験が買われての参加で、実はこの情報もエリナからもたらされたものだった。
マリーは士官候補生の残り二人、アレック・ポトフとケン・ダストをまずチームに加え、更に研究所の前線司令室付の砲術士――彼らは全員無傷で退避していた――を全員組み込み、更に射撃を趣味にしていた管制官のロッド・サカキと私大の学生で射撃部に所属していたモリ・ドアンをメンバーに入れた。
モリは通信部門を預かったリオの弟である。兄とはまったく別の事情でワズに滞在しており、脱出時に地下シェルターで再会して互いに驚いたというエピソードがある。再会して驚いたというのは実はもう一組あり、それは副艦長に任命されたミックとダイナースのリーダーだったオットーで、こちらも兄弟である。
エドナーは研究所の研究員を何人か機関部にメンバーとして引き込んだ。副機関長にはデュオ・インディを正式に任命し、他に私大で機械工学を専攻していた学生、クロード・ダレルを機関助手として採用した。
ロッド、モリ、クロードに関しても実はエリナの口利きによるもので、三人ともどうやらエリナの友人らしかった。
そのエリナは弟のデビーを副部長に任命し、マック・リゴロを筆頭とする研究所員の何人かをメンバーに加えた。それ以外に私大の学生だったカムリ・マラキと、行政府でデータ処理を担当していたロフス・シンディを組み込んだ。後の二人もどうやらエリナの友人関係らしく、仕事効率を考えて親しいメンバーで固めたのだろうと思われた。
ちなみに前線司令室でエリナの副官を務めていたリチャード・ヤングはエリナに頼まれてバーディの副官を引き受けている。いくらバーディの腕がいいといっても実戦経験はないのだ。姉としてもまた軍人としても心配だろう。歴戦のベテランを補佐としてつけたくなるのは当然である。
通信部門とレーダー部門は研究所の二つの司令室にいたオペレーター達を適性で分けて組み込んだ。彼らもある意味、歴戦のプロなので、安心して仕事を任せられる。
これだけたくさん書くと決定までに時間がかかった様に思われるかも知れないが、実際は各部門ごとに平行して作業を進めていたので、半日もかかってはいない。いつ敵が来て攻撃されるかわからない状況ではゆっくり作業する余裕などないのである。だが、これだけ早く作業を終えることができたのはエリナあってのことだったのだ。エリナの広い交友関係がここでは大いに役立った。誰がどういう能力を持っているかを良く知っていた上に、彼らの信頼も厚かったから、エリナが頼むと皆二つ返事で引き受けてくれたのだ。これはまさにエリナの才能のおかげと言えた。
「後方より接近する大型艦を発見!」
カールが報告する。メインブリッジに緊張が走った。この辺りで味方の大型艦を見出す可能性は皆無に近い。となればこれは敵とみなして良い。艦内に警報が鳴り響いた。休憩中だったものもみな持ち場につく。人数がぎりぎりに近い以上、緊急時には全員が臨戦体制に入るしかないのである。
チームに選ばれていない民間人は皆食堂に集まっている。ここは艦の中央部分にあり、一番攻撃を受けにくい場所なのだ。安全を考えるなら戦闘中はここにいるのが一番良いということである。
「間違いありません。敵です」
「第一級戦闘配置!」
カールの報告を聞き、マルコフ艦長が指示を飛ばす。とは言え、現在メインブリッジの半数は民間人か軍事訓練を受けていない技術将校である。実戦に入った時にどこまでちゃんと機能できるかは定かではない。まあ、主砲・副砲の方はほとんどがそれなりに実戦経験のある実力者揃いだし、戦闘機隊の方も戦術面ではリチャードが中心になってくれるだろうから、隊長のバーディに実戦経験がなくてもさほど心配することはないだろう。それに不安材料があったとしても、その中でできるだけのベストの選択をしたのだ。これでこの局面を乗り切れないのなら、どのみち全滅はまぬがれない。
「戦闘機隊発進! 敵艦載機の動きに注意せよ」
「主砲、副砲発射準備!」
「機関部門にダブルシールドを!」
ショウ、マリー、エリナの指示が矢継ぎ早に飛ぶ。
「メインエンジン停止。出力エネルギーを主砲とシールドに回せ!」
既に戦闘機隊と敵艦載機との間でドッグファイトは始まっている。
「主砲エネルギー出力値最大。発射します」
主砲のエネルギービームが敵戦艦の中央部を直撃するが、まだ距離があるのでこちらのエネルギーの減衰値が高いのか、向こうのシールド防御値が高いのか定かではないが、損傷を与えることはできなかった。
「主砲はもうちょい距離を詰めてからにしよう。サブエンジンを使って微速前進」
ミックが指示を出す。どうやらマルコフ艦長は将来を考えて、出来るだけミックに指揮を執らせるつもりの様だ。エリナもまた技術部長に徹して、戦術面に関しては口をつぐんでいる。いくら経験があっても自分が口出ししてしまうと指揮系統の混乱を招くと良くわかっているのだ。無論、意見を求められれば発言はしようが、それもあくまでもアドバイザーの立場での意見にとどめるだろう。強権を発動するのは収拾がつかなくなった時で良いのだ。
「敵エネルギービーム来ます!」
「左30°転回、仰角8°。加速して回避!」
「サブエンジン2基稼働!」
カールの報告を受けて、ミックがベンとエルに指示を出し、エドナーは機関部へと指示を飛ばす。敵ビームはわずかにファルコンをかすめて後方へ流れた。
「シールドの損傷状況を報告。敵エネルギービームの出力値を計測」
サブブリッジはエリナの指示に従い、データの分析や確認にメンバーが走り回り、メインブリッジへ報告をあげる。
「シールドの損傷はありませんが、敵ビームの直撃を受けた場合、30%程度の損傷が予想されます」
「シールドの強化に必要なエネルギー量を計算。現在の機関出力で可能かどうかも併せて報告」
サブブリッジとメインブリッジの間でシールドに関するやり取りが続く。この間ももちろん戦闘は続いている。既に味方の艦載機も数機やられて、まだ死者は出ていないものの、機体は使えなくなっていた。それでもこちら側に死者が出ていないのは奇跡とも言えた。まあ確かにこのファルコンに載せている新型の艦載機は、旧型のものに比べてシールドも強化してあるし、乗員の安全の為の機能も充実してはいるが、それにしても…である。
一方主砲の方も艦を相手側に寄せた事が効を奏したのか、敵艦の機関部を直撃することができ、敵艦の動きは止まっている。内部でいくつか小規模の爆発も続いた様で、その為か主砲も副砲もさっきから沈黙したままである。このチャンスを生かして逃げることにしたミックは艦載機をすべて収容すると、更に敵のレーダーを破壊した上で、艦を発進させた。
航跡をくらますため、予定したコースとは大きくずれた方向に一度踏み出す。ひとしきりその方へ進んだ後、ぐるっと大回りをして元のルートへ戻り先を急ぐ。追撃して来た敵はこれで何とか振り切れるだろうが、援軍についてはわからない。
エリナがワズを脱出する際、受信した敵の援軍要請に応えがあったかどうかはわかっていないのだ。あの時点では無事に脱出することを優先するしかなく、情報収集にエネルギーを割く余裕はなかった。
いくつかの正当な理由から、エリナは死ぬわけにはいかなかったのである。業務的には父の代わりに開発の指揮を執らねばならなかった。ハード面ではほぼ完成しているとは言え、ソフト面ではまだまだ未完なのである。心情面においても、エリナを残し先に逝かねばならなかった両親の生きて欲しいという願いがあった。そしてもう一つ、システムの中枢に関わるある特殊な事情から、生きていなければならないという理由があった。
まあもっとも巷で噂されているように、エリナたち姉弟があのザルドゥであるならば、銀河統一に遥かに遠いこの時点で、誰かが欠けてしまう事はないだろうが…。噂はあくまでも噂でしかないし、エリナ自身は自分がそのザルドゥだなんて、これっぽっちも信じてはいない。とは言え、どうやらザルドゥ伝説自体は信じているらしい。元々幼い頃から冒険を夢見る少女ではあったのだ。それだけにその頃出会った伝説に魅せられてしまったのだろう。
あと一話で第四章が終わります。
執筆速度より更新速度の方が何だか速いような気がします。ストックがなくなったら、一気に更新速度が落ちそうです。
入力 2012年7月9日
校正 2012年9月16日