第三章 (3)
あと一話で第三章が終わる予定です。
第三章では登場人物はあまり多くないですが、話自体は大きく動いていると思います。
自 2011年5月10日
至 2011年5月10日
外宇宙でのドッグファイトは、確かにリチャードの言う通り、あきらかに味方の方が分が悪かった。操船技術に差があり過ぎるのだ。敵を追撃している筈が、あっという間に背後に回り込まれてしまったりするのだ。結果、エンジンをやられてしまい、それこそ操縦不能になり、地表めがけて墜落ということになってしまう。大部分のものはそのまま地表に激突した様だが、何機かはかろうじて不時着に成功し、激突前に何とか脱出できたものもいた。しかし、それはまさにほんの一握りだったのだ。
地表にそうして戦闘機が落ちてくる状態であったので、士官候補生たちは軍基地の地下通路を通ってシェルターへ向かった。この時点ではまだ地表まで敵は来ておらず、外宇宙での激しいドッグファイトがまだ続いていた。艦載機の実地テストは既に終わり、バーディも無事研究所に引き上げていた。
地下シェルターで民間人と合流した士官候補生たちは、研究所からの指示に従って、シェルターから更に、一階層下に降りる。ここに研究所への移動手段が用意されていた。何とメトロである。
確かに安全に大量の人間を輸送するのにこれ程適したものはないが、一階層降りてそこに長大なプラットフォームを目にした時は、皆一様に驚いて目を見張ったものである。そこへ轟音とともに列車が現れたのである。
「お待たせしました。皆様にはより安全な研究所内にこれから移動して頂きます。今のところまだ、地上への攻撃は始まっていませんので、落ち着いて行動して下さい」
研究所からやって来た下士官が民間人を車両に誘導する。その隙に士官候補生たちは少し離れたところへ集められた。士官候補生のリーダー格のミックが口を開く。
「それで私たちは何をすれば良いのでしょうか」
「実は、この脱出ルートは作られてから今まで一度も使用されたことがない。それはつまり、今まで地上への攻撃が行われたことがなかったからだが、従ってこの地下通路の外部からの攻撃に対する耐久度はわからない。何が起こるか予測がつかないので、君たちには各車両に別れて乗って民間人のパニックを防いでもらいたい」
実際、攻撃を受けたことはないのだから、本当に何が起こるかわからないのだ。場合によっては車両が分断されることも考えられる。その際、民間人しか乗っていない車両が孤立でもしたら、何らかのパニックが起きる可能性は高い。
その点、士官候補生クラスの軍人ならば、パニック状態に陥らない様に訓練を受けているし、パニックになった民間人をなだめることもできるのである。
全員が乗り組んだことを確認して列車は出発した。運転システム自体は自動操縦なので、スイッチを押せば列車は動き出す。あとは周囲に気を配るだけだ。ここからは外宇宙の戦闘はおろか、地上の様子さえわからない。ある意味あとは運に任せるしかないのだ。
既にこの時、外宇宙での戦闘は収束しつつあった。戦闘能力では劣らない機体を持ちながらも、その操船技術や攻撃の正確さという点で劣る味方側の機は、次々と落とされて行く。今も一機が研究所の方へ黒煙をあげて迫って来た。が、どうやら操縦士は腕の良い方だったらしく、機体は何とか不時着した。
「至急、彼を研究所内に…」
エリナの指示で、前線司令室から兵が飛び出して行く。セキュリティーの関係で、登録された人間以外、外からは開けられない仕組みになっているのだ。救助するためには中から開けてやらねばならない。
「敵、中型艦降下します!」
偵察部隊の中型艦二体が、ゆっくりと動き出した。敵の本隊ももうワズ上空まで到達している。
「いよいよ、お出ましかよ」
リチャードの言葉に前線司令室内に緊張が走る。
「総員、第一級戦闘配置!」
エリナの指示が飛ぶ。メインの建物内に第一級戦闘配置を知らせるサイレンが鳴り響いた。建物の正面に主砲、並びに副砲がせり出してくる。後方の格納庫内に配置されている小型戦闘機にも、次々と乗員が乗り組み、発進の指示を待っている。
もっとも敵はまだこちらへ来る気配はなく、現在は軍基地を攻撃中だ。だがパワーの差はいかんともしがたく、いくらもたたないうちに軍基地の砲は沈黙してしまった。「全滅…かな」
「まだわからないわ。基地に呼びかけて生存者がいるようなら、地下シェルターに移動させて」
「OK、ただどのくらい生き残っているか…」
二人顔を見合わせる。戦争である以上、それは仕方がないのだが、人の死というものに慣れてしまうことはできない。いや中にはそういう者もいるだろうが、エリナもリチャードもそういうタイプの人間ではないのだ。自然、声も沈みがちになる。
「総司令! 軍基地の生存者を地下シェルターへ移動させます。救出をお願いします」
総司令部へ指示を出す。――まあ生存者がいて…こそだけど――軍基地が沈黙したのを見て、敵は攻撃目標を市街地へと変える。どうみても普通の居住区にしか見えないと思うが、向こうにしてみれば、万が一何か重要な施設があったらと思うのだろう。その心理は同じ軍人として理解できる。
「地下シェルターの民間人の移動はもう終わったのかしら」
「ここからじゃモニタリングできないが、まだ多分移動中だと思うぜ」
「とすると、軍基地に生存者がいたとしても、彼らの輸送はかなり遅れるわね」
脱出ルートが単線のメトロというのは既に確認済みだ。となれば今使っている車両が研究所に着いてから、折り返し次の救出に向かわざるを得ないのだ。
「地上攻撃のタイミングとどう合わせられるか…だな」
「メトロの経路を上からたどれると思う?」
「レーダーにどう引っかかるか…。そもそもそっちの目くらましをかけてあるかもわからねえし」
「経路をたどれた場合、地上への爆撃にどれだけ耐えられるかも…よね」
「ああ、シールドがあるかどうかさえ定かじゃねえし」
「まあどっちにしても、ここでやきもきしてても始まらないんだけどね」
「それより、第二陣がお出ましだぜ」
市街地への爆撃はまだ続いていたが、その向こうから、敵の本隊の中型艦が地表に降下してくるのが見える。本隊の方の大型艦は今のところ、まだ宇宙空間で待機中である。当面、その必要はないと思っているのであろう。研究所への攻撃を始めたら必要ありと思うかも知れない。少なくとも一筋縄でいかないことは確かだ。
そもそもエリナにしたってリチャードにしたって、そう易々とやられてしまうつもりはない。相手の戦力を見れば、楽にいかないことはわかる。いや、それどころか、やられてしまいかねないことも…。それなりの実戦経験があるからこそ、現在の状況もかなり正確に分析できる。そして自分たちの力を過信しすぎてしまうことの危険も承知している。
それでも、いやそれだからこそ、しっぽを巻いて逃げ出すわけにはいかない。まだここで為すべきことがあるうちは…。
入力 2012年6月17日
校正 2012年7月3日




