see you some day
待ち合わせた訳でもなく、自然と同じ時間になった。
夕日が差し込む下駄箱。靴を履き替えようとして、名前を呼ぶ声に顔を上げる。
髪を揺らして振り返ると、学生鞄の他、両手に沢山の荷物を抱えて、やわらかく笑う君。
「ずいぶん大荷物だねぇ」
「あー。餞別とか、いろいろな。先にロッカーの教科書片付けといて良かったよ」
寄せ書きや、小さな花束、紙袋に見えるのはどうやら手作りのお菓子っぽい。可愛くリボンでラッピングされた包みは、きっと女の子からのもの。
下級生にも、モテてたものね。
「お前は今帰り? 遅いじゃん」
「図書室寄ってたから」
大きな世界地図を広げて。
小さな島国の向こう、海を越え、これから君が住む街を、探していた。
紙の上ではたった数十センチの距離。
それが、子どもの私には遠くて、
せつない。
言葉にはしなくても何となく、わかっていた。
彼の方でもそうだって、わかっていた。
――あなたが私のただ一人のひと。
きっと、このまま近くにいれば自然と寄り添っていただろう、私たち。
だけど、そうはならなくて。
君は明日、遠くの街へ行く。
カタリカタリ、靴を履き替える静かな音が、下駄箱に響く。
上履きをしまわず、そのまま手提げの紙袋に入れて、ロッカーの名札を抜き取る君をただ見ていた。
「明日、晴れるといいねぇ」
「俺、飛行機初めてなんだよな……乗りたくねぇー」
憂鬱そうな顔をする、君がおかしくて笑った。
春の遠足、ジェットコースターに乗ったときもそんな顔をしていたっけ。
臆病者と呼べ! なんて開き直って二度は乗らなかった。
小さいとき上った木から落ちて以来、高いところは苦手になった、なんて言っていたけれど。
もう私より高いところに目線があるのに、変だよね?
これからもっと、背も伸びて成長してゆく君を、傍で見ていたかった。
これからもっと、綺麗になって成長してゆく私を、傍で見ていてほしかった。
だけど。
半分閉められた校門を前に、同時にふたりの足が止まった。
グラウンドに長く伸びる、影。ひとつになって、離れて。
初めて触れた唇から、気持ちが交差する。
「……じゃあな」
「うん、元気でね」
荷物を抱えた君は手を振れないから、代わりに肩と肩をぶつけてアイサツ。
さよならは言わない。
少し先の、明日のはなし。
いつかどこかの街角で、知らず、すれ違う大人になった私たち。
ふと足を止めて、振り返る。
目があって、認めて、微笑んだら――きっとまた、そこから始まるから。
今は。
「――またね」
笑顔で、お互いの道を行こう。
fin.
2011/04/22 ブログSS
やるせない気持ちを抱えつつ、
なんか切ないけど前向きなお別れの話を書きたかったもの。