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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
来宮青海
9/49

もう逃げない

 十七年の人生の中でこんなにも全力で走るのは初めてだった。


「はあ……はあ……………っ」

 立ち止まると同時に、敦の体にどっと疲れが押し寄せてくる。まともに呼吸もできず、少しでも気を緩ませば倒れてしまいそうだった。

「……っ」

 だが敦は歯を食いしばり、背筋をピンと伸ばした。そして、人指す指を前に伸ばした。

「……はい、どちらさまでしょう……え?」

 チャイムが鳴ってから十秒ほどで、玄関口から会いたかった人物が現れた。来宮青海は何の前触れもなく訪れた敦に対し、キョトンとした顔になった。

「十島くん、いったいどうしたんですか……?」

 未だまともに呼吸ができない敦に、青海は心配そうな顔になった。

「お前に……言いたいことが……あってきた……」

 ようやく喋れるくらいまで体力が回復した敦は、姿勢を正して、正面から青海を見据えた。

「……俺の勧めたラノベ、読んでくれたんだな……」

 違う意味で動悸が激しくなる。敦はまずそう切り出した。

「え? は、はい! 月並な言い方ですけど、すごく面白かったです!」

 唐突な問いかけに、青海は驚くもすぐにいい顔で笑った。

「……元気に、なったか?」

 敦の質問の意図をすぐに理解した青海は、こくんとうなずいた。

「はい、だいぶ、持ち直したところはあります。でも……十島くんが元気が無いようなので、悲しいです……。あの……私、何か気に障るようなこと、したでしょうか?」

 上目遣いで、青海は申し訳無さそうに言った。

「お前は何も悪く無い。ただ……」

 たった二文字を口にして伝えるだけ。頭では分かっていても敦は中々その一言が発せなかった。

「十島……くん?」


「――今度さ、一緒に本屋に行かないか」


「え?」

「最近、ラノベ以外も『好き』になってきて、もっと来宮が普段読むような小説、『好き』になりたいんだ。だから、『お前が好き』な本、読んでみたい」

 

 会話の中に混ぜるようにして、敦は三回、自分の気持ちを伝えた。


 それはとてもちっぽけで、逃げるような告白だった。


 だけど今の敦にとってそれが精一杯の告白だった。


「……はい、一緒に行きましょう」

 気付いたのかどうかは分からない。だけど青海は嬉しそうに応えてくれた。


「ありがとう」


 

 全身にまとわりついていた泥がすべて落とされたかのような、開放感だった。


 結果的には、何も解決はしていない。


 だが互いに好きなものを共有し合える……今の敦にはそれで十分だった。

 ここで「来宮青海」は終わりです


 想像以上に固っ苦しい話や文章になってしまいました


 なので次のヒロインに移る前に、軽い幕間を書こうと思います


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