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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
スズキと佐藤
10/49

噂は形作られる

幕間です


「高校どこにするんだ?」

 佐藤はスズキに尋ねた。

「前にも言わなかったっけ?」

 スズキは問題集から顔を上げずに呆れた声を出した。

「確認みたいなもんだよ。ちなみに俺は七高」

「僕もそうだよ。というか、大丈夫なの?」

「何が?」

「七菱、来年は倍率高いって話だよ。そんな余裕こいていていいの?」

「はは、面白いこと聞くなあ。俺に『問題』なんてあるわけないだろ」

 佐藤は自信満々に言った。

「……ああ、そうだったね」

「知ってるくせにぃ!」

「ふん、せいぜい落第しないように気をつけることだね」

 悔しいが、スズキはそんな嫌味を返すしかできなかった。

「でも残念だよなあ。俺、あの人と一緒にできると思っていたのに」

「ああ、そう言えばそんなこと言ってたね。……まさかの展開だったよね」

 スズキは数ヶ月前に拡散されたある動画のことを思い出す。あの衝撃的な出来事は、この地域のみならず、一時はSNSのトレンドに入り込んだくらいだ。

「男……いや、漢だよなあ」

「うん。中々できることじゃないよ」

 あれだけでもすごいのに、あの人は他の女子にも好かれていたというから、とても生半可な精神だとは思えなかった。

「……でもその中には、自傷行為に走った人もいたらしいね」

「らしいな。噂じゃ笑ってたらしいぜ」

「そ、そういえば、佐藤はあの人と、会ったことあるの?」

 背筋がぞくりとした。スズキは慌てて話題を変えた。

「ああ。中学の頃、同じクラブでやってたんだよ。当時からめっちゃ面倒見のいい先輩でよ、俺だけじゃなくてみんな慕ってたよ」

「まるで恋する乙女だね」

「茶化すな。……でも、まあ、あながち間違いでもねえかな。あの人のプレーは、本当に魅力的だし」

「本当にいるんだね、あんな漫画みたいな人……」

「だからなおさら残念だぜ……そういやさ、お前は何なの?」

「スズキだよ。下の名前は言いたくない」

「気が合うな。俺もだ。……って、そういうボケじゃなくて、お前は何で七菱行こうとしてるんだ? 去年、家から一番近い車海老に行くとか言ってなかったか?」

「…………進学に有利そうだからね」

「偏差値大して変わらねえだろ。倍率的に、七菱の方が不利じゃね?」

「制服が……」

「同じ学ランだろ」

「学食が……」

「車海老の学食、県下一って言われているぞ?」

「――高校の名前が気に入ったんだ」

「それは無理があるだろ」

「…………」

「ま、深くは追求しねえよ。俺としては一緒の高校に行けて嬉しいしな」

「そうだね。僕が受かればの話だけどね」

「卑屈になるなって。どれ、勉強を見てやろう」

「本当に嫌味な男だな君は……!」

 推薦じゃなくても、試験で余裕で入れる頭を持つ佐藤は、スズキに勉強を教え始めた。悔しいが、めちゃくちゃ分かりやすかった。

「なあ」

「ん?」

「……女か?」

「ぶっ!」

 問題集がつばだらけになった。書き込んだペンがにじみだす。

「やっぱそうか。」

 油断したところに、佐藤はぶっこんできた。

「……そうだよ」

 もしかしたら、聞いてほしかったのかもしれない。スズキは観念し、志望理由を話し始めた。

 


「いらっしゃーい!」

 去年の七菱高校文化祭。野球部の出店に向かったスズキを待っていたのは、ほんわかとした女子だった。

「君中学生? いい体してるねー、ぜひとも七菱に入ってよ!」

 女子はそんなお世辞を言って、ほほえみながらスズキにたこ焼きを渡す。

「はい」 

 スズキは即答した。これが、きっかけだった。 



「――というわけなんだ」

「……それ、冗談だよな?」

「だから言いたくなかったんだよ。悪いかよ」

 スズキはふてくされたように顔をそらす。

「ごめんごめん! いやいいと思うぜ、そういう淡い感じのきっかけ。再会した時、めっちゃロマンチックじゃん!」

 ほとんど無理やりな慰め方だった。

「そうかな?」

 しかし効果は絶大だった。スズキは照れくさそうに笑った。

「そうそう! ちなみにその人の名前、覚えているか?」

「もちろん。胸元に『飯原』って刺繍があったし」

「……飯原?」

「うん。どうかした?」


「……スズキ、残念なことがある」


 佐藤は重々しい声を出した。

「――分かっているよ。彼氏がいるとかでしょ。そんな可能性、ここ一年間ずっと考えていたよ。そんなことは些末なことなんだ。僕はあの人の近くにいられさえすれば――」

「それについては多分大丈夫だとは思うんだけど……」

 佐藤は口をまごまごさせながらも、親友のために、事実を述べた。





「その人、今年三年生だぞ」


次から新章「飯原八重子」です

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