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蓮姫降臨  作者: Roppu
6/13

百花繚乱

静かな夜だった。


弓道場の一件以来、今のところ蓮姫はおとなしくしている。


特に宿題らしい宿題もない今夜は何気なしに、ネットでこの姫のことを検索していた


ー三位中将

ー当麻曼荼羅

ー二上山

ー後宮

ー二十五菩薩

ー白日昇天


私の日常からかけ離れた、言葉の数々。にわかには信じがたいが、1300年前に亡くなった伝説の姫は私の中で生きている。


(違うわ)

私の意識を読み取ったのか、蓮姫が語り出す。

(あの日、私は天に駆け上った。これは私の命の残照。最期に振り返った時、見たのよ)

私は何を?とは訊かない。

(私の意識が昇華するその寸前。見守る群衆の中にソレはいた)

陰鬱に歪んだオモイ。年若の女に憑依したソレは、明らかに笑っていた。

怨みと執着。私の消えた都で、ソレはその歪みきった永遠への渇望を満たすだろう。

意識が失われるその寸前、蓮姫は禁断の技に身を委ねた。意識を声に乗せて、群衆の一人に潜り込む。ササヤキ。太古の巫女のワザ。ワザワイを止めるため。そしてなにより、

蓮姫はソレの正体を知っていた。


(そして次の瞬間。私のほとんどは、この星の大気に散じた)


伝説の姫の昇天伝説。その真実の裏に隠された、昏い妖のストーリー。


いつしか軽い眠りに微睡む私の夢は、突然の叫びに遮られる。遠いがたしかな叫声。


(行くよ)

断りもなく体を乗っ取る蓮姫。

正倉から得た天平衣を詰め込んだ重量級のかばん3つ。

「もういいよ」

私はあえてツッコミを入れなかった。


索敵は容易だった。

蓮姫のミミはあの短い叫びから正確に位置を割り出していた。市街西方、西の京と呼ばれる地域。国道バイパス沿い、蓮姫は疾走する。

「蓮姫、私まだ制服」

さすがに真夜中に学生服の女子が疾走する様は珍奇が過ぎるだろう。

蓮姫は全力疾走のまま呟く。出し抜けに、夜空に跳躍すると同時に、色とりどりの天平衣が舞う。


緑青

螺鈿紫檀


古都に現出する蓮姫本来の舞装。

「蓮姫、まだ私、制服着てる」

(これでいい。私が仕立て直した)

(御門高校の制服に擬しているが、対クラガリ用の宝珠を縫いこんだ戦闘舞装だ)


おいおい


蓮姫の真舞装は、私の制服に上に構成されていた。よくできている、が。。。


魔法少女感がハンパない。


そして、軽舞装のまま息を切らせることなく、私の体は、西の京市街地に飛び込む。迷路のような独特の街路。中心部に近世の城郭があるこの地域は、外敵の侵入を阻むように設計されている。攻めるものに厳しい地形。蓮姫は躊躇しない。


2ツ目の交差点を曲がると同時に、私の体は上方に跳ね上がる。蓮姫が何かの攻撃をかわしたのだ。


目で追う先には高速移動する異形のモノ。童子のようだが、異様な伎楽面を被っている。白い衣はまるで鳥のようだ。


(サキガケ)

(クラガリの使い魔だ)


「であいつも触れるとヤバイの?」

(知らん)

(ただの雑魚だからな)


一体二体三体。

高速で襲いかかるサキガケをかわす蓮姫、いや違う。三体目を正拳で殴り飛ばした!

(金剛破っ)

いつしか両拳に纏った、緑の天平衣。籠手のように縫い上げたそれは、両肩に流れる羽衣のように舞装の第三層を成す。


機会な叫びをあげて蒸発するサキガケ。


殴り飛ばした勢いのまま、蓮姫はさらに天平衣を夜空に投げ上げる。


五色の長衣、追いかけるように跳躍し、蓮姫はその最外層を全身に縫い止める。


私は水面に映る蓮姫のー自分の姿に目を見張る。月明りに照らされた、太古の戦姫。舞い降りるように降る、真紅の帯を頭に縫い止める蓮姫。


1300年の時を超えて、現出するオリジナルの魔法少女。中世の闇に沈む前の魔女の力。太古の息吹と太陽の力を継ぐモノ。


「蓮姫降臨!」


私は絶句する。これが完全舞装。瞬間に縫い上げられたとは信じがたい、複雑な文様。


サキガケは凍りついた。その光に圧倒されるように。許しを請うように地面に平伏し、やがて黒い煙となって消失した。


そして闇から姿をあらわす敵。


同じ御門高校の制服。左手に携えた長弓。青い光に包まれながら、御門高校三年渡部璃子が静かに微笑んでいた。。。。














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