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龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
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第3話

雨が降っている。

ざあざあと音をたてて、雨が降っている。

ひどく鬱陶しい。頬を打つ雨が煩わしくなって、俺は目覚めた。


夢……か……。ひどい夢だ。妹が死んで、俺が死んで、そこには何も残っていなかった。

悪夢だ。両親が死んだ時も、こんな夢は見なかったのに……


頭が上手く機能しない。ボーっとしたまま、真っ白で、真っ暗なまま。

頬を打つ雨だけが、やけに鬱陶しい。

頬を打つ雨が。

頬を……打つ……雨……?


バッと体を起して周りを見渡す。


「……外?」


自分の声がやけに大きく感じた。

周りを見渡せば、いつも通りの光景が目に映る。

井戸も見える。薪も置いてある。振り返れば、家もある。

いつも通りだ。そう、いつも通りさ。

ただ少し、寝ぼけていただけ。そうだろ?


「っ!!」


雨が鬱陶しくて、髪をかき上げようとして、気付いた。気付いてしまった。

俺が右手に持っているものは……ナンダ?

紙?布?違う……袖だ。服の、袖だ。ひどく見覚えがある。

俺が作って、プレゼントしたものだ。

妹が……着ていた。


そこまで考えて、時間が止まった。

振り返るのに、どれくらいの時間がかかっただろうか。

ゆっくりゆっくり振り返って、家の中を見て、家に飛び込んだ。

寝室に駆け込む。これが夢なら、いつものように妹が寝ているはずだ。

寝るのがすきだから、幸せそうな顔して寝ているはずだ。

もうちょっとーなんて言いながら布団を被り直すから、ほら起きなって笑いながら、起こすんだ。そうだろ?


寝室に妹はいなかった。

寝室だけじゃない。台所にも、お風呂にも、家のどこにもいない。

外に出る。地面に落ちている。服を拾う。

服以外はなにも落ちていない。


今まで気付かなかった。服の下には、地面には、血が滲んでいた。

妹はどこにもいなかった。その亡骸さえも。

尋常ではない。普通はこんなことありえない。

だけど……俺は知っている。

人間がいなくて、服だけが残るという現象を、俺は知っている。

一年前に両親が死んだ時も着ていた服だけが残った。


魔素の喪失


両親を殺した病に似た何かが今度は、妹を殺した。そう感じた。

少なくとも、妹は通常における人間の死を与えられなかった。

あんなに優しかった妹が、塵になって、死んだ?


「ぐっ!」


そこまで考えた時両親の死に様が脳内に蘇った。

ズキンと頭が痛み、その場に崩れ落ちる。

苦しそうに死んで逝った両親と同じ痛みを、妹も受けたのか?


そこまで考えて、俺は吐いた。

目からはとめどなく涙が溢れ、口からは嗚咽が漏れた。

嘘だ。嘘だ!

妹が死ぬはずがない。誰も救わずに、何も言わずに、俺を残して妹が死ぬはずがない。


「あっああああああああああああ!!!!!!!!!!」


叫びは誰にも届かなかった。



丸1日、俺は泣き続けた。

食事もせず、水すら飲まず、寝ることもしなかった。

そのあと、泥のように眠った。

目が覚めるといつも通りの光景が目の前に広がっていて、妹だけがいなかった。

近くにあった材料で簡単な料理を作って、一人で食べる。

どんなに辛くても悲しくても、眠たくなるし腹も減る。


「はは、笑える」


いつもなら妹を起こして一緒に食べて、おいしいねーなんて笑う妹を俺も笑いながら見ていたはずだった。


ポタポタと涙が落ちる。

笑った顔、怒った顔、泣いた顔。

色々な思い出が脳裏に浮かんでは消えていく。


握りしめた木の棒がボキリと折れる。

これは東に広がる大陸に伝わる、箸と云うもので、妹が文献で見つけて、俺が木を削って作ったものだ。


うわー難しいねって笑いながらポロポロとおかずを零す妹を笑いながら、ポロポロとおかずを零す俺を妹が笑っていた。両親が死んで色々大変だったけれど、毎日が楽しかった。


自殺しようと思った。両親も妹も死んで、俺には何もなくなってしまったから。

だけど、妹の最後の言葉が、生きろという言葉が、俺に呪詛のように突き刺さる。

生きる意味もなく、死ぬこともできない。


「ははは」


俺は力なく笑うだけだった。



次に俺を襲ったのは強烈な殺意だった。

家を襲った奴らが誰だかは分からない。

だが、人間だったのは間違いない。

しかもとびきり強い人間だ。さぞ名のある人間に違いない。

そして、おそらく、アレに命令したものがいるはずだ。

ただの人間が何の目的もなくこの場所に訪れて、何の目的もなく、俺と妹を殺そうとするとは考えにくい。

じゃあ誰が?

考える。分からない。わからない解らない判らないワカラナイ。


「くっククク、ハハハハハハ!!」


そもそも俺は考えるのはあまり得意じゃないんだ。

分からないならそれっぽい奴を全員殺してしまえばいい。

復讐だ。妹を殺したやつ、命令したやつ、それにかかわる全ての生物に、等しく死を与えてやる。


淡々と考えて、自分の中の何かが壊れてしまったことに気付いたのだった。



そのためには強くならなくてはいけない。


あの黒鎧。アレは怪物だ。

剣を構えてから突き出す動作、それが異常なほどに滑らかだった。

まるでそう在るのが当たり前かのように。

俺は自分に向かってくる剣を知覚していたはずなのに、ただじっと見ているだけで、気付いた時にはすでに刺されていた。


恐らくは達人とか、そんな域にいるのだろう。


なら俺はそいつらよりも強く、強くならなければならない。


妹の敵を討つために。


幸いにして、俺には宛てがある。


西の森の奥の奥。

聳える魔の山の麓。

闇を飲む穴。


以前父が言っていた。

西の森の洞窟は魔を産む、と。


父は狩りをしていた帰りに突然の雨に降られ、たまたまあった洞窟に駆け込んだらしい。


そこで見たのは、まるで壁から産まれるように湧き出てくる異形。


何度殺しても生き返る魔物から、命からがら逃げ帰ったそうだ。


そこなら……。

何年かかってもいい。そこに出る魔物を殺し尽くした時、俺は力を手に入れられるはずだ。



俺は服や木の棒を持って外に出た。

なんの因果か、旅立ちの準備は整っている。


家はこのままにしておこう。


失うには、この家は思い出が多すぎる。


少し目を瞑る。

スゥっと息を吸い込んで吐く。

そして俺は歩き出した。

目指すは西の森。

名前もない洞窟。


周りには誰もいない。

俺は独りだった。


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