↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍は死してなお死なず  作者: とんかつ
PR
4/69

第4話

森の中の空気は澄んでいて、木々の間から漏れる光が美しい。

西の森は百歩歩くごとに魔物と遭遇すると父が言っていたが、何故一匹も見かけないのだろうか?


歩く音と息遣いだけが聞こえてくる。

よく考えると鳥や虫の声すらしない。


長い間森に囲まれて生きてきたが、こんなことは初めてだ。


不思議に思いなからも、森の中を歩く。


村を出て2つは時を刻んだだろう。


世界でも類をみないほど巨大な山の麓。


そこに大きな穴が空いているのを発見した。


危険だといわれるにも拘わらず、どこか神聖さすら感じるこの場所において、闇を飲むように口を開くその洞窟はひどく禍々しく感じる。


「ここが……」


思わず声が漏れる。


ここが父の言っていた洞窟。

なるほど、父が近付くなと言ったのが納得できる。


まるで死そのものだ。


目的さえなければ近付くのさえ躊躇われる。


気がつけば体はカタカタと震え、汗すら流れている。


ゴクリと唾を飲む。息が続かない。


ふと、刺された箇所に手を触れる。

刺されたハズのそこには、傷跡こそ付いているものの、何の異常もなかった。


いや、何も異常がないことこそが異常だ。


心臓を一突き。確かに刺された。そして、死んだハズだった。


体が冷たくなる感覚も、意識が闇に飲まれる感触も、最期に妹が見せた微笑みも、全部覚えている。


もう一度、洞窟を見る。

真黒い死が口を開けている。


死。死……か。


そこまで考えて思う。どうせ一度死んだ身だ。何を恐れるものがあるのだろうか。


一歩踏み出す。

体の震えは止まる。

もう一歩踏み出す。

何故か笑みが零れる。可笑しくて仕方がない。


手持ちは僅かな食糧と、木の棒のみ。


「はは、ハハハハハハ」


俺が死んだって誰も気付かない。何も残らない。誰も悲しまない。


両親が死んで、妹が消えて、住んでいた場所さえ捨てて。もう俺には何もない。

元からなかったのかもしれない。


だが、皮肉なことだ。

生きる意味と目的ができた。


「クヒ、ヒヒ、ヒャハハ」


妹は言っていた。信じる者は救われるんだよって。

だけど裏切られた。何にかは分からない。でも確かに裏切られた。


妹は最後まで、救いがあると信じ続けたハズだ。

妹が信じるから、俺も信じていた。


だけど何かは、俺たちの足元だけを掬って嘲るように消えて行った。


救いなんてものはない。あるのはただ……


「ハハハハハハハハハハハハ」


こんな時なのに笑いは止まらない。心底可笑しくて仕方がない。


俺は嗤いながら洞窟に足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。