日曜日 ワンゲル部部室
捕り物のあとは感想戦だ。
僕たちは揃ってワンゲル部部室に移動した。
ワンゲル部部員は三人。四人目はワインセラー持ち出しのための助っ人らしい。
結果的に部室強制監査を行うことになった生徒会側は書紀の松前さん、中等部生徒会から東矢会長、渋谷副会長、新聞部から山縣さん、須磨――この二人はミステリ研でもある。
そしてミステリ研から明石会長、舞子そして記録係の僕――芦屋憲勇だった。
結構な大所帯となった。それでもどうにか全員入れるかと思ったがそうならなかった。
「随分とエントロピーが増大しているな」
明石さんが言った。散らかっている――という意味だろう。
「荷物が多すぎて人が入る余地がない。整理整頓には頭脳と労力が必要だ。何も考えず無造作に楽なところにものを置いていくと乱雑に積み上げられジャングルとなる。ほったらかすと散らかる。これをエントロピーが増大したという。この法則は全ての場面で適用できる。ものは拡散し、混じり合う。これに対抗できるのは重力だとか磁力といった場の力のみだ。ヒトが逆らうためには力を発揮しなければならない」
「君のうんちくは良いから」松前さんが遮った。
「――それにしても、ものが多すぎるわね。ろくな活動をしてこなかったくせに」
先輩がいても容赦がない。
「置くだけでなく、捨てることも必要よ。それにこんなにいろいろなもの――届けを出していたの?」
「俺たちが入部した頃からこんな感じだ」三年生男子が答えた。「先輩が置いたものだ。簡単に捨てて良いかわからなかった」
鉄アレイとかは筋力トレーニング用だろうか。ホコリをかぶっているが。それに中に何が入っているかわからない、大きさにバラエティがあるリュックの山積み。奥には冷蔵庫もあった。
「冷蔵庫も許可とってる? 電気代は学校持ちなのよ。このたこ足配線――火事起こしたらただでは済まないからね」
問題のワインセラーがあったと思われるスペースが見つかった。結構奥だ。
といって――乱雑な荷物で塞がっていなければ入ってすぐの距離なのだが。
「ここにワインセラーがあったのね」
「ああ」
「そして中には」
「知らなかったがペットボトルが入っていた。中身は米だ。昔学校で飯盒炊さんの練習をしていたと聞いたからその時の米かもしれない」
なるほど確かに飯盒炊さんのセットもたくさんあった。古めかしい。
「練習なのか、単に腹減った時の食料だったのか定かではないけど」
別の部員が語った。
「炊飯器は置いていないみたいね」
「飯ごうと固形燃料で炊いていたのだろう。おいしく炊く練習だな、たぶん」
「俺達はもうやってなかったし」
「存在すら知らなかったな」
「それがどうして?」その存在を知ったのだろう。
「月曜日の米騒動の後、たまたま部室を訪れた部員が、部室が荒らされていることを発見した」
「この状態でどうして荒らされたかわかるのよ!?」
「古いものと新しいものがごっちゃになってたらわかるだろ」
「え? わかるの?」
「几帳面な松前嬢には理解できないようだから教えて進ぜよう」
明石会長だ。
「――超整理法の一つのかたちだ。世の中には机の上がものだらけで乱雑にしている人種がいる。それでは必要なものを探すのに苦労するだろうと思うかもしれないが机の持ち主は何でもかんでもすぐに見つけ出す。どのあたりに何があるか把握しているからだ。本棚の場合、読んだ本をいつも手前に置く。それを繰り返していれば読む頻度の少ない本が奥へと行き、たびたび読み返す本が手前になる。机の場合は最近扱ったものが上にきて、随分前に扱ったものほど下に埋もれているというわけだ」
ああ確かに僕の机もそんな感じだ。
「わ、わかったわ。とにかく部屋の主様なら誰かが侵入して荒らしたかどうかわかると言うわけね」
松前さんはワンゲル部員に先を促した。明石さんの解説はほどほどが良い。
「月曜日の昼休み、物の位置が大幅に変わっていた。それでみんなで確認したところ、奥にあったワインセラーが開けられた形跡があった。ワインセラーの手前に空間があったのだ」
いつもは扉の前にものが置かれて開けられない状態だったのだな。
「俺達は開けた。中にペットボトルが三本入っていた。ペットボトルの中に米が詰まっていた。そしてもう一つわかったこと。そこには本来米が詰まったペットボトルが四本あったということだ」
「ん? どういうこと?」
「米が詰まったペットボトルが入っていることを知っている部員がいたんだ」
「俺だよ」
別の部員が手を挙げた。
「――昔、中を見たことがあったんだ。その時は米入りのペットボトルが四本あった。間違いない。いつの米かわからないから食べようとは思わなかったけれど処分するのも面倒だし放置していたんだ」
「――いつか捨てようとは思っていたよ」
いつでもできると思うとできないものだ。
「一本、米入りのペットボトルがない。そして朝、米がばら撒かれて騒動になっている。俺たちは焦ったね」
「すぐに生徒会やら先生やらに言えば良かったのだわ」
「ここにはワインセラーやら何やら無届けで置いてそうなものがたくさんあった。生徒会はそういうのに容赦がないだろ? それに俺たちワンゲル部は同好会への格下げ危機があった。部員がギリギリだし――」
「三人しかいなさそうね」
「活動もたまにハイキングに行く程度だし――」
「活動報告もほとんどなかったわね」
「言えなかったんだよ」
なるほど。
「誰かがこの部室に侵入してペットボトル一本持ち出し、渡り廊下に撒いたんだよ」
「何のために?」
「知るかよ」
「その撒いた人はどうしてこの部室にワインセラーがあって、しかも米を保管していると知っていたのかしら?」
「知るかよ」
「何でもかんでも――知らないのね」
「実に面白い」明石会長だ。「この天井にも百の目のうちの一つや二つがあったのだろう。あるいは黒いヒバリがここを訪れ米があることを仲間のヒバリに伝えたかもしれない。やがてそれを聞きつけた座敷童子がここに侵入して米を持ち出しばら撒いたというわけだ」
何とも言えない空気が流れた。
時:二度目の米ばらまきがあった日の二日後――日曜日早朝
場所:ワンゲル部部室
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員 高等部二年生
松前理世 生徒会書記 高等部二年生
東矢泉月 中等部生徒会長
渋谷恭平 中等部生徒会副会長
須磨入鹿 新聞部・写真部部員・ミステリー研究会会員
明石透 ミステリー研究会会長
その他ワンゲル部男子部員など




