日曜日早朝 それぞれの語り
そしてそれぞれが語り始める。
「ワインセラーだ。小型だな。六本くらいしか入らないぞ」
明石さんの一言に松前さんがキレる。
「部室でワイン飲んでいたのね!」
「違う!」
集まっていたワンゲル部四人が声をそろえた。
「中は空っぽね。ワインの瓶はどこに廃棄したの?」
「だから違うって」
「ワインセラーは何もワインを保管するものでもないです」と言ったのは舞子だった。
「クワガタの菌糸ビンを保管することもあるな」明石さんの口出しだ。
「クワガタ飼育してたの!?」
松前さんの思考はどうやら短絡的だ。興奮しているからなのか?
「米をペットボトルに詰めて保存していたのですよね」
舞子が優しく語りかけるように言った。
座り込んでいるワンゲル部員に合わせて舞子も腰をかがめていた。まさに寄り添いの姿勢。
他の面々が何かと濃いから舞子が優しくなるしかない。やるときはやるヤツだ。
「やはりそうか。あの米をばら撒いたのは君たちだな。座敷童子の仕業に見せかけて」
何でそこで座敷童子?
「ていうか、何で明石君がここにいるの?」
松前さんは初めてそのことに気づいたようだ。
僕も不思議に思う。舞子もそんな顔をしていた。
「天井の百の目が見る、黒いヒバリは囀る、そして座敷童子は石を運ぶ……」
何ですか――それ?
「裏サイトで今日七不思議が語られるとあったから。――それにしても太陽が眩しいではないか」
松前さんがため息をついた。言葉を失っている。
「いいんです、わかりました」舞子が言った。「私たちの仕掛けを読み取ったみたいです。さすがは明石会長」
上下関係をわきまえる舞子は先輩をたてる。
「生徒会がすぐにでも強制監査を仕掛けるという情報をいくつかのかたちで流しました。直接的に部室訪問して荷物をチェックするとか、それに加えて――その……比喩的表現も多く入れて、中には学園七不思議みたいな書き込みも」
なるほどそれでやましいところがあったワンゲル部と、七不思議にご執心の明石さんが釣れたわけだ。
「そんなにうまくいくものなの?」
松前さんの疑問は当然だろう。
「それは金曜日の米バラマキも裏サイトに踊らされて動いたからでしょう。違いますか?」
「それもあったな」ワンゲル部の三年生が答えた。
「裏サイト情報だけだったら眉唾だと思ったけれど校内でそういう話を耳にしたからな」
「誰がそのようなことを? 生徒会の人間ですか?」
「違うよ」
「トイレとか」
「階段踊り場とか」
「あちこちで耳にした」
「黒いヒバリはあちこちで囀る」
明石会長がのたまう。
「誰が喋っていたか、わからないのですか?」
「姿は見えない。聞こえてきただけだ。『米をばら撒いたヤツをつきとめるためにあちこち強制検査するらしいぜ』『そんな権限ないだろう』『いや今の生徒会ならやるかもな』『自由な学園生活。生徒会にも自由があってしかるべき』とかなんとか……」
「黒いヒバリは何羽もいるのか」
明石さんが興奮している。
「そもそも最初のばら撒き――」月曜日朝、西の渡り廊下でばら撒かれた件だ。「――俺たちワンゲル部の部室にあった米がばら撒かれた。俺たちのあずかり知らぬところで」
「は?」松前さんが目を剥く。「この期に及んで最初の件は知らないと?」
「だって」
「知らないし」
「ワンゲル部は関係ない」
「ここはどうだね、腰を落ち着けてゆっくり話を聞いてみては?」
明石会長が仕切るように提案した。
「そうね――じっくり聞かせてもらいましょう」
松前さんは落ち着いても怖かった。
時:二度目の米ばらまきがあった日の二日後――日曜日早朝
場所:校内グラウンド
ここの登場人物
舞子実里 ミステリー研究会会員
芦屋憲勇 ミステリー研究会会員 僕 語り手
山縣杏菜 新聞部部員・ミステリー研究会会員 高等部二年生
松前理世 生徒会書記 高等部二年生
東矢泉月 中等部生徒会長
渋谷恭平 中等部生徒会副会長
須磨入鹿 新聞部・写真部部員・ミステリー研究会会員
明石透 ミステリー研究会会長
その他ワンゲル部男子部員など




