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家庭科部

孤高のクールビューティーは動き出す。探偵助手はお供する。おいしそうなにおいにつられて入った先には、同じくにおいにつられた犬がいた。

 放課後、僕と舞子(まいこ)は家庭科室に向かった。

 昼休みにディスカッションをし、放課後は足を使う。それがミステリ研のやり方だ。


 明石(あかし)会長が足を使うことはない。「……する必要がある」とか言うだけで自分で調べたりはしない。

 いや――調べることもあるのだがそれは自ら調べたいと思ったことだけだ。

 しかもそう思うと他人にはそれを明かさないから明石会長が今何を調べているのか誰も知らない。


 明石さんがいると聞き込みもまともにできなくなるから、いない方が好都合だ。

 そしてまた山縣(やまがた)さんもいない方が手に入る情報がある。パパラッチには明かせない秘密とか、口下手や引っ込み思案の聞き込み対象から情報を引き出すのに山縣さんは向いていなかった。


 ということで――今日は僕と舞子実里(まいこみのり)だけだ。


 放課後のまだ下校する生徒でにぎわう時間帯に僕と舞子は校内を移動した。


 舞子に視線が集まる。中等部の二年生三年生なら例外なく舞子に頭を下げ「ごきげんよう」と挨拶していく。

 舞子は気づかないふりで真っ直ぐ前を向いたまま歩き続ける。

 まさにクールビューティー。かつての輝きを失ったとはいえ「中等部の女王」は健在だ。


 僕は舞子の半歩後ろを歩いた。


 かつての舞子を知らない高等部入学生でさえ立ち止まって舞子の姿に見惚(みと)れる。

 舞子はそれを不愉快に思っていて「いそぐよ、芦屋(あしや)君」と僕に声をかけた。


 良い匂いがする。菓子を焼いているのだろうか。

 放課後の家庭科実習室を使用しているのは家庭科部だった。


「失礼します」


 舞子が抑揚のない声をかけると、手の()いていた中等部の女子生徒が歓迎の笑顔を見せた。


「いらっしゃいませ、会長さま」

「もう会長ではないわよ」

「あら」と女子生徒は口許に手をあてたがすぐに笑みを取り戻した。「また高等部に上がったらよろしくお願いしますね」

「もう私が生徒会に関わることはないわ」


 冷たく聞こえるが家庭科部女子生徒たちは気にしない。「ささ――どうぞ」と僕たちを迎え入れた。僕はオマケだったが。


 室内には高等部の先輩女子もいたが、家庭科部の女子はおとなしくお(しと)やかなひとが多い。特に調理部門は。

 これが服飾部門だとまた異なる。コスプレ衣裳をデザインしたり派手だ。

 同じ部の中で特徴の異なる部員がいるのはどこも同じだ。なお服飾部門はミシンが並んだ別の実習室で活動していた。


「クッキーを焼いていましたの。紅茶を入れますので舞子さんもいかがでしょうか?」

「ありがとう」


 優雅な空気が流れる。これが伝統的な御堂藤(みどうふじ)学園だ。僕も中等部三年間でどうにかその空気に馴染(なじ)んだ。


 丸椅子に腰を下ろした舞子がふと顔をしかめた。その視線の先に高等部先輩女子からクッキーの歓待を受ける中等部男子生徒がいた。

 その男子生徒は美人の先輩たちに囲まれていい気(・・・)になっていて、舞子が来たことに気づかなかったようだ。入口に背中を向けていたし、気づかぬのも仕方がない。

 しかしさすがに舞子の視線を感じたのだろう。おもむろに振り返った。


「あ――親分(・・)だ! おやぶーん!!!」


 その男子生徒は目を輝かせて駆けてきた。そう――まさに(あるじ)に飛びつく飼い犬だ。


「その呼び方――やめなさい」

「ごめんよ――ボス(・・)」同じようなものではないか。


 舞子は諦めたような顔をして彼の口にクッキーを差し込んだ。

 まさに餌付け。振っている尻尾が見えるようだ。


「匂いに釣られたな――大地(だいち)

「鼻が利くもので」

「まるで落ちている大量の米粒に群がる鳩だな」舞子は聞こえるように言って周囲を見渡した。

「片付けは手伝うよ」

「いつもおこぼれをもらっているのだからそのくらいしないとな」


 そういう舞子もお菓子とお茶を頻回にご馳走してもらっているだろう。

 舞子の場合はもてなされているのだが。


「米ばらまき事件について調べているのですね?」

「事件というものではない」

「新聞部のSNSでリアルタイム更新されてますよ」


 舞子(まいこ)は頭を抱えた。山縣(やまがた)さんが(あお)っているのだ。これでは隠密行動はできないな。


 彼は樋笠大地(ひがさだいち)。中等部三年生――僕と舞子の一年下だった。演劇部、演芸部で活躍する陽キャだ。他にも吹奏楽部とかにも入っていた気がするが演奏会では見かけなくなった。

 お調子者キャラだがルックスは僕よりもずっとイケてる。アイドルグループの三枚目キャラといったところだ。

 そしてこれでも学年で十位以内の好成績。中等部は百五十名で高等部の三百名に比べたら半分だがずっと十位以内を維持するのは凄いことだ。


 こうして家庭科部にお邪魔して試食で歓待されるのだから先輩女子たちの人気も高い。目立たない僕とは大違いだ。


「少しお話をうかがいたいのですが……」舞子は丁寧な口調で言った。


 そばにいた中等部女子が高等部の先輩女子に知らせに行った。


「お手伝いしますよ――ボス」樋笠(ひがさ)はさらに目を輝かせた。


時:米ばらまきがあった日の翌日放課後

場所:家庭科室


ここの登場人物

舞子実里まいこ みのり ミステリー研究会会員

芦屋憲勇あしや けんゆう ミステリー研究会会員

樋笠大地ひがさ だいち 中等部三年生 舞子の配下


その他家庭科部女子部員たち

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