はじまりは朝の渡り廊下
物語は唐突に始まる。
その語りは独白的というより映像的だ。
観客はだまってそれを観る。
朝の日が差し込む西の渡り廊下。早朝まだ予鈴も鳴らない時刻にこれほど人が集まることはない。
そこは登校してきた生徒が教室へ向かうのに最も縁遠い道だからだ。
にもかかわらずふだんなら考えられないほど多くの人影があった。
生徒会役員、美化風紀委員、教職員が数名。彼らは本来朝の巡視のため校門に立っていたところ――騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた。
いつもいない場所に人が多くいると不思議に思ってやって来る野次馬もどんどん増える。
何だ? 何だ? 何があった?
何があったかわからないまま――こうしてひとは集まってくる。
西の渡り廊下は朝日から最も遠い位置にあるが、開けた中庭が朝の光を通していた。
人の視線は下に向けられる。
そこに踏み入っていた者たちの足元には散乱した大量の白い粒が光を反射していた――きらきらと。
その輝きに刺激されたのか多くの小鳥が舞い降り戯れていた。
よく見ると、すでに小鳥の落とし物が白い粒の隙間を埋め尽くそうとしていた。
「なんてことかしら」ひときわ通る女子の声。
ヒソヒソぶつぶつつぶやく声々の中にあってその女子の声は耳についた。
「糞害まで発生しているではないの」
「憤慨しているな」男の声も響く。
「授業が始まるわ。せめて掃き掃除だけでもしてしまいましょう」
制服姿に生徒会の腕章をつけた女子は美化風紀委員の下級生に指示を出した。
下級生の一部は掃除具を取りに行く。
代わりに新聞部の腕章をつけた男女が駆けつけた。女子はメモ帳とペン、男子は一眼レフカメラを構えた。
「遅いではないか」早くからいた男が新聞部に言う。
「取材の準備があったのよ」新聞部女子が答えた。
「よし――現場検証だ」
取り仕切ろうとする男のひと声に生徒会女子が片眉を上げた。
「明石君――何様のつもりですか?」
「見ればわかるだろう。事件の現場検証だ」
明石と呼ばれた男は答えた。
朝日を背にした身長百八十超えの美貌の男は口許にわずかな微笑をたたえた。
導入部の情報
時:早朝
場所:学園の西の渡り廊下
登場人物:生徒会女子、美化風紀委員、新聞部員、明石と呼ばれた男




