89話 この世界で
最終話です。
………………。
…………。
……。
ピー……ピー……。
ここは……どこだっけ……。
この音……。
病院……。
嗚呼、確か、トラックに、轢かれたんだっけ……。
なんだか、長い夢を見てたなぁ……。
変な夢……。
「モモウィグ」のサブヒロインと、変な世界で旅する夢。
瞼が上がったけど、眼球は動かそうとも動かない。
……っと。
神経かなにか、ビリビリといった感覚がするけど、少し無理をして、動かせるようになった。
うーん……。
周りに誰か、座ってる……?
眼鏡がないから、誰かは分からないな……。
お母さんか、弟の直也かな。
輪郭がぼやけて分からない。
髪が長いから、お母さんかな……。
「―――」
声は出ない。
腕も動かそうとしたけど、動いていない気がする。
「―――!」
どうやら、周りの人が声か腕かに気づいて、こちらに話掛けて来た。
耳も、ホワイトノイズが掛かったように、その音を理解できていなかった。
眼球を無理やり動かせたみたいに、集中したら聞こえるかな……。
「――君!—丈夫!?」
聞こえそうだな……。
もう少し、頑張ってみるか……。
「尚人君!分かる!?私、胡桃だよ!」
……これも、夢かなぁ。
その声は、夢で出てきたサブヒロインの声に似ていた。
……寝よ。
「ちょっと!?寝ないで!」
そう言って、夢の中の住人は、自らの腕を掴んで、より近くに近寄って来た。
顔も少しぼやけているけど、認識し始めた。
前の夢で出てきたサブヒロインの名前を名乗っていた人と、同じ顔だ。
掴まれた腕が痛い……。
痛い?
これ、夢じゃない?
「んん……うぅん……」
「本当に大丈夫?」
「これが現実かどうか分からない……」
「私が夢を見てないなら現実だけど……」
あ、声出た。
どうやら、金縛りの類のものではないらしい。
そうか……現実、か……。
記憶の中の混濁したものが明瞭になっていき、そしてそれぞれがパーツのような部品に分かれた形状のようになり、さらにそれらがパズルが合わさっていくように纏まっていく。
「胡桃……さん……」
「なんでさん付けなの……?」
「いや……こっちとしては、長い間寝ていたような気がするから……」
「寝ていた……というか、トラックに轢かれて気を失っていたのは大体半日くらいなんだけど……」
トラックに、轢かれた……?
ああ、そうか……。
あの「神みたいな存在」と別れて現実世界に戻って来て、停止はしきれなかったけど、減速しつつあったトラックに轢かれたんだっけ……。
「他の家族は……?」
「夜だからって、連絡が付かないって、病院の人が言ってた」
「そか……」
それは仕方ないか。
はぁ……起き上がるか……、起き上がれるかな?
「よいしょ……っと」
「だ、大丈夫?かなりの数、打撲してたって聞いたけど……。無理はしないでね?」
「麻痺してるのか分からないけど、感覚としては大丈夫……ふぅ」
疲労感はあるけど。
「どれくらい入院するか、聞いてる?」
「打撲自体の数は多いけどそれほど深刻じゃないらしいから経過を1日見て、それからまた判断するって。お医者さんは2日くらいになるかなって」
「そう……胡桃の戸籍とかのヤツ……時間が掛かったら面倒なことになりそうだから、面倒を掛けます……」
「今はそんなこと考えなくていいから!とにかく休んで、回復して」
「この世界でも、魔法とか、使えたら良かったんだけどね……」
「……一応、試してはみたけど、ダメだったよ……」
試したの?
まあ、そうだな……回復しないことには、胡桃の戸籍とかの問題、解決できなさそうだからなぁ……。
「回復しないと私の戸籍の問題が解決しないとか考えたでしょ?」
「バレた……」
「とにかく、考えなくていいから、今は寝るなりして休んで。もう疲れてるでしょ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「うん、おやすみ。」
そう言って再び病床に伏し、目を瞑り、体の倦怠感が与える微睡みに身を委ねるのであった。
●
ホーホーホッホー、ホーホーホッホー。
鳩が鳴いている。
朝だ。
ここは一人暮らししている借りアパート。
「おはよ、尚人君。朝ごはん、できてるよ」
「おはよう。胡桃、ありがとう」
あれから、数か月が経った。
今まで一人暮らししていたアパートには、居候が1人、増えていた。
あの後色々あって、胡桃は自分の部屋で居候しながら、アルバイトをすることになっていた。
地毛ではあるけど、全日制の学校では問題が起きそうという配慮の末だ。
昼間はアルバイトをして、夜や休日は通信制の課題をやっている、という感じだ。
だから、一応学生ではある。
「はーい。朝ごはんでーす。いただきまーす」
「いただきます」
戸籍の問題も、自分の家族が理解を示してくれて、協力もしてくれた。
これまでのことを振り返ってみると、色々な人の協力と、奇跡的なほどの運の良さで、ここまでこれたな。
勿論、自分たち自身の努力もなければ無事に帰って来れなかったと思うけど、周りの環境もかなり助けになってもらった。
「そろそろ、学校に行く時間じゃない?」
「あれ、本当だ」
「忘れ物、しないようにね」
「もう用意してたから大丈夫。それじゃ、行ってきます」
「私も少ししたらバイトに行くね。いってらっしゃい」
色々な人の助けとキセキを無駄にしないよう、頑張っていこう。
「あ、忘れ物」
「え?なにかあったっけ―――」
チュッ
「これで大丈夫。改めて、いってらっしゃい」
「……行ってきます」
寄り添ってくれる不遇だった彼女を、二度と不幸にさせないためにも。
完
Twitterや活動報告で書いた通り、これらは「こういうの読みたいな~」という感情で書いたコンセプトモデルといった感じの作品です。所謂「言いだしっぺの法則」という奴です。
もし誰か書いていただけるなら読みたいと思います。
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