37 全国二位の鈴木さん
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「なぁ、お前何でコスプレしてんだ?」
「いやコスプレじゃなくてちゃんとした武器です」
「それならなおのこと問題だろうが!何でショッピングモールなんかに武器を持ち込んでんだ?」
一般人がそう思うのも当たり前だ。気分が上がってあまり考えていなかったがこの格好…主に腰付近。剣なんて持っているのはおかしいに決まっている。
「あぁ…。仕事で持ち歩くようにしてるんですよ。ほら警備員の警棒みたいな」
文字通りの相棒だった警棒から思い付いた言い訳を口にしてみた。だけど僕が逆の立場だったのなら正直苦し紛れの言い訳にしか思えない。
「ふーん、そうか。まっ、街中で着物着て剣背負ってる奴とか、真っ赤なドレスで白い細剣差した奴も見たことあるし、そこまで変じゃねぇのか」
「そ、そうですね~」
まさかその変な二人と知り合いなんて思いもしないんだろうなぁ。
「でも、真剣なんて持ち歩いていいのか?さつに職質されんじゃねえの?」
「大丈夫です。この剣は切れないので」
そう言って燈香は剣を抜き、近くにあった観葉植物を撫でるように切りつけた。勿論植物は傷一つ無い。
「おっ、ほんとだな。ちょっと触るぞ」
「えっ、どうぞ」
男が燕子花に触れると急に燈香の五感が冴え渡った。その意味を燈香は瞬時に悟った。
「あなた…もしかして返り人ですか?」
「あ?そうだ。お前何で気付いたんだ?」
「僕の能力です。返り人に触れるとその返り人の能力に干渉することができる能力を獲得する能力です」
この説明何度やっても上手く伝わる気がしない。目の前の男なんて黒目を上に向け、考えこんでいる。
「つまりは返り人に適応した能力を得るってとこか」
「そうです。次からその説明文貰います。それよりあなたは何の能力何ですか?」
「そりゃー…。秘密だ。それに今は俺のことはどうでもいいだろ。事態の終息が優先だ」
「まあ、そうですね」
男の僅かな沈黙に引っ掛かりはするがここで仲良く返り人談義に花を咲かていれるほどの余裕は無い。僕の同意を切っ掛けに男は現状について話し始めた。
「さっきの奴をやった割には静かだよな」
「はい、アナウンスもしくは増援が来てもおかしくない頃合いですしね」
もし僕が向こう側なら人質を使い、反抗的な人間を捕まえる。僕じゃなくてもそうするだろう。しかし今こうして僕とこの男が無事にたどり着いた事から管理人室で何かあったと考えるべきだ。
「もしかしたら僕の仲間が管理人室を落としているかもしれないですね」
「そして、びくびくしている俺らを監視カメラでにやけた顔して嘲笑ってんだろ」
「嘲笑ってはないと思います。ニヤニヤは…若干一名否定できません」
まさかこんな状況では無いとは思うが見られてはいそう。
僕たちは第一関門の非常階段にさしかかった。ゆっくりと音がしないように扉を開き、階段を降りる。爪先から足を付けば足音もかなり静かだった。
上から下を覗き込むと男が言ってた通り見張りがいた。さてどうするか。すると男が静かに耳打ちした。
「こんなときの見本を見せてやる」
そう言って男は手摺からぶら下がり、足を真下の敵の首に回し締め上げた。敵はあっという間に顔色が悪くなり、痙攣して倒れた。
「なっ?鮮やかだろ?」
「ホントにあなたは何者なんですか!?」
「あっ、そう言えば名乗ってなかったな。うーん、そうだな佐藤だ」
佐藤ってあまり僕の中では好感度の高くない名前だな。今は懐かしきバラシ屋の名字と同じだし…。
「知人に同じ名字の人が居て、えも言えぬ気持ちになりました」
「そうか。なら紛らわしいから鈴木でいいぞ」
「もしかしてさっきの名前って適当に言いました?」
「この際分かればいいんだよ。俺の本名なんて覚えにくいし、言いにくいぞ。だから鈴木でいいだろ。全国二位だぞ」
いや、日本人の名字の人口ランキングは今どうでもいいから。でも本人がいいなら別に問題ないか。
「分かりました。鈴木さん。ぼくは芹生です。今さらですけどよろしくお願いします」
「今さらだな」
何故かこの人といると気分が楽になる。決して状況は芳しくないのにも関わらず、楽観的に物事を運べるのは鈴木の性格あってこそだろう。そして、その行為全てが上手くいっていることも大きい。
そんなこんなでいつの間にか壁に埋め込まれるように作られた扉の前にいた。管理人室へ続く扉だ。可能性としてはこの扉の向こうに武器を構えた敵がいるほうが高いのだが、鈴木は即断で扉を開けた。
案の定僕たち二人は銃を突きつけられていた。ただ予想外だったのは突き付けられていた銃は、黒と赤の見覚えのある銃だった。
「京香さん!」
「燈香くん!」
部屋から押し出されんばかりの勢いで抱き付いてくる京香。それをかわすことが出来ず地面に叩きつけられる燈香。そして不満げな顔をする結菜とニヤケ面で見下ろす鈴木。これが四人が合流した瞬間だった。
「京香さん!燈香から離れて!一般人もいるでしょ!」
「えー、感動の再開なのに!あれだったら結菜も試してみる?結構安心するよ」
「…ならちょっとだけ」
「えっ?」
僕が京香に引き上げられ立ち上がると結菜から優しくハグされた。その感覚は京香に言われたように安心に満ち溢れていた。
「良かった。無事で」
「結菜も元気そうで良かったよ」
この二人は何だかんだ言っても危険な可能性はあった。もし敵が行動するタイミングにその場所にいたら結菜の能力は間に合わない。そうなれば結菜は少し力の強い女の子だし、京香も…まぁ、一応似たようなもんだし。
腕の中で感じる温もりが二人の生存を確かめさせてくれた。それだけで僕は満足した。
「ふー、熱いねぇ!」
「鈴木さん、そんなんじゃないですよ」
「そっ、そうよ。勘違いしないで」
「おいおいそこは、男冥利に尽きるだろ。でお前は、他ならぬ私に抱かれているんだからっ。じゃねぇのかよ」
余計なことを口走った鈴木は結菜の容赦ないローキックで脛を蹴られた。その蹴りは少なくとも一般人に向けていいレベルの物でないことぐらいは武道未経験の僕でも分かった。
「いてぇよ。嬢ちゃん。一般人に暴力は振るなよ」
そう言う鈴木は何事もなかったのような表情だ。逆に蹴った方の結菜が足を押さえていた。
彼の能力が関係しているかは分からないが見かけによらず鈴木は頑丈らしい。
「そんなことより鈴木さん?外は危険ですのであなたはここに居てください」
京香が珍しく正論を言った。まあ、一応はこの中で一番年長だし、場馴れしているのだろう。
「悪いな、ねぇちゃん。俺は腹へったし適当に飯食って帰るわ。それまでに事態終息させてくれよ」
「ちょっと!」
「分かりました」
僕は鈴木を止めようとした左手で京香を制した。その理由は上手く説明できないけれど短いなりの付き合いはある。だからこの人なら問題ないと思う。
「物わかりがよくて助かる。じゃあな。早く俺のショッピングモールを自由にしてくれよ!」
「はい。任せてください十分で終わらせます」
鈴木は頷いた後、この部屋から出ていった。
「あれだけ言うのなら作戦はあるんでしょうね」
「その前に色々と話を聞かせてください」
天岩戸の逆転への兆しを探し僕は頭を回転させる。




