七、バカな田地
飯島に連れられて奥へ入ると、ほんのりと灯りが見えた。
え・・なんで灯りが。
「あれって、なんの灯りなんだ」
俺は飯島にそう訊いた。
「懐中電灯だよ」
「え・・」
「まあ、これもルール違反だけどね」
そう言って飯島は笑った。
「素朴な疑問なんだけど、飯島くんって、ここになにしに来たの?」
蒼空が訊いた。
「なにしにって・・。そうだなあ、無人島なら誰もいないしゆっくり読書もできるしね」
「え・・それなら別にここじゃなくても、避暑地とか行けばよかったんじゃないの」
「いや、あれこれ考えるのが面倒だったんだよ。で、たまたま塾のチラシを見たからね」
「もしかして・・他にも何か持ってる?」
そうこう話しているうちに、飯島たちが居たであろう場所に着いた。
「他にって、特にはないよ」
「そうなんだ」
「で、この先、どうする?」
俺は荷物を置き、その場に座った。
「まあ、僕の意見としては、連絡があるまでここでいるのがいいと思うよ」
飯島もその場に座った。
「僕、お腹空いたよ~!」
田地はドスンと座りながら、相変わらずわがままを言っていた。
「田地くんは、黙っててよ」
蒼空が田地に向かって怒っていた。
「なんだよ~、黙ってろって。酷いんじゃないの」
「みんなお腹空いてるの。田地くんだけじゃないの」
「だったら、なにか獲って来てよ~!」
「自分で行けばいいだろ!」
「まあまあ、蒼空」
俺は蒼空を制した。
「ここから先へは行ってないんだな」
暗くてよく見えなかったが、まだ奥に続いている様子はわかったので俺が飯島に訊いた。
「うん、ここまで」
「そっか」
「行っても多分、行き止まりじゃないかな」
「そうなんだ」
「そうじゃないとしても、島の向こう側に出るだけだよ」
「ああ・・なるほど」
「ところでさ~!連絡してよ」
田地が俺にそう言った。
「さっき見ただろ。なんの応答もないんだよ」
「それでも繋がるかも知れないだろ。やってみてよ」
「ったく・・」
俺は仕方なくレシーバーを手にした。
「もしもし、聴こえますか。応答願います」
「ジー」
「ほら、ノイズだけだよ」
「もう~、ちょっと貸して!」
田地は俺の手から、無理やりレシーバーを奪った。
「なにするんだよ!」
「あっあー、もしもし!ねぇ!誰かいるの?添乗員さん!いたら返事して」
「ジー」
「添乗員さんってば!」
「ジー」
「僕たちを迎えに来ないつもり?ちょっと!」
「ジー」
「なんだよもう!」
バシーン!
あっ!田地のやつ、バカか!
あろうことか田地は、レシーバーを地面に叩きつけたのだ。
「なにやってるんだ!」
俺は怒鳴った。飯島も蒼空も呆れて言葉を失っていた。
「こんなの何の役にもたたないよ!」
「バカじゃないのか!今はダメかもだけど、そのうち応答があるかも知れないだろ!」
「知るもんか」
なんなんだ・・こいつは。
まるっきり子供みたいだ。
田地はまた、ドスンドスンと激しく音を鳴らして、外へ出て行った。
「飯島・・あいつ、ほんとに高校生なのか」
「うん」
「何年生?」
「三年生」
げ・・俺たちよりも年上なのか・・
「飯島も三年なのか」
「そうだよ。きみたちは?」
「俺たち、二年」
「え・・そうなんだ。同級生かと思ってたよ」
蒼空はレシーバーを拾っていた。
「ダメだ・・壊れてる」
「マジか・・」
飯島もそれを見て驚いていた。
「きみたち、これ直せる?」
飯島がそう言った。
「まさか。できないよ」
「俺もムリ」
「僕もムリだよ」
マジか・・飯島、頭良さそうなのに。
「どうするの?連絡取れなくなったよ」
蒼空が言った。
「どうするかなあ。こうなったら浜辺で待つしかないかな」
俺がそう言った。
「それより、食べ物みつけないと」
飯島がそう言った。
「ここは島だし、出来ることといえば魚を獲るか、野生動物を捕まえるかだよね」
蒼空はそう言うが、例え捕まえたとしても、生で食うのか?
まさか・・だよな。
「それなら、やっぱり火おこししないと」
俺がそう提案した。
「今更、火おこし?」
「だってさ、捕まえたところで生で食うつもりか?」
「あ・・ああ、そうだよね。確かにそうだ」
蒼空は苦笑いした。
「あははは!」
そこで田地が、なにを狂ったのか笑いながら戻ってきた。
俺は少し恐ろしくなった。
「これ見て!見て~~!」
田地が手にしていたものは、野ウサギだった。