五、連絡不通
俺と蒼空は、二日目も昨日とさして変わりはなく、水もまだ残っているし缶詰も何回かに分けて食べたので、獲物も水のありかも探さずに、「のんびり」過ごしていた。
「明日は帰るんだよな」
俺たちは砂浜で日光浴をしていた。
「そうだね」
「これってさ、結局サバイバルでもなんでもなかったな」
「唯一サバイバル的だったのは、屋根を造ったことだね」
「結局これも、必要なかったしな」
俺は手にしていたトランシーバーをかざした。
「もう陽も落ちるしね」
水平線には夕日が沈もうとしていた。
「さて、晩飯でも食って寝るか」
俺は起き上がり「テント」の方へ歩き出し、蒼空も俺に続いた。
迎えは明日のお昼の予定になっている。
「もうこの缶詰も食っちゃうか」
俺は残りの缶詰を手にした。
「そうだよね」
蒼空も最後の一缶を開けた。
こうして俺たちは、最後の缶詰を食べ、ほどなくして眠りについた。
翌朝、不運なことに雨が降っていた。
俺たちは急いでシートを外し、二人で被った。
「こんな雨で迎えに来てくれるのかな」
蒼空が不安そうに言った。
「来てくれないと困るぞ」
「訊いてみる?」
蒼空がトランシーバーを指した。
俺はそれを手にして、初めてスイッチを入れた。
「あのーもしもし、聴こえますか」
俺はボタンを押しながら、相手に問いかけた。
しかし返答はなかった。
「もしもし、もしもーし」
俺は再度、問いかけた。
「おかしいな」
「ちょっと僕に貸して」
蒼空はトランシーバーを俺から受け取った。
「応答せよ、こちらサバイバル高校生なり。応答せよ」
蒼空は半ば面白がってそう言った。
しかし一向に返事がない。
「あれかな、雨だし電波の感度が低下してるのかな」
蒼空が俺を見て言った。
「電波って雨とか関係あるのか?」
「さあ、どうなんだろね」
俺たちの頭には少しずつ不安がよぎっていた。
もし・・迎えが来なかったら、食べ物はもうないぞ。
まあ、一日くらいどうってことないけど・・
そして時間が経つごとに、雨は激しさを増していった。
するとシートの穴から水滴が流れてきて、もはや「傘」の意味をなくしていた。
「こりゃダメだな」
俺がそう言った。
「でもさ、雨宿りできる場所ってある?」
「あっ!飯島が言ってた洞窟に行ってみないか」
「それって、どこにあるかわかんないんだろ」
「でもここにいても、どうしようもないぞ」
「迎えが来たらどうするの?洞窟に行ってたらヤバイんじゃないの」
「そうなったらこれで連絡取ればいいさ」
俺はトランシーバーを見せた。
それから俺たちは山へ入り、洞窟を探した。
山へ入ると木々のおかげで、雨も幾分か避けることが出来た。
歩いては休み、歩いては休みを繰り返しながら、俺たちはどんどん奥へ入って行った。
「ここで飯島と会ったんだよ」
俺はその場所で立ち止まった。
「ってことは、この先を行けば辿り着けるんじゃない?」
俺たちは再び先へと進んだ。
「航太、もう一度レシーバーで連絡取ってみようよ」
蒼空の提案通り、俺はレシーバーのボタンを押した。
「もしもし、応答願います。聞こえますか」
ジーというノイズの音しか流れてこなかった。
「これって生きてんのかね」
俺はボタンを何度も押した。
「もしもしっ!応答ねがいます!誰かいませんか」
それでも応答はなかった。
「ダメみたいだね・・」
蒼空が落胆したように言った。
こうして俺たちはまた前に進み、たまにレシーバーで連絡を取ることを怠らなかった。
「航太」
「なに?」
「水ってどれくらい残ってる?」
「ああー・・ボトル半分くらいかな」
「そっか・・」
「蒼空は?」
「僕はもう残ってないよ」
「え・・マジか」
「だから、この雨水を溜めようと思うんだ」
蒼空はリュックからペットボトルを出し、ナイフで半分くらいの位置を切り始めた。
「こうでもしないと、溜まらないからね」
そこで木の枝からしたたり落ちて来る雨が溜まるまで、その場で休憩することにした。
「それにしてもさあ・・お腹空いたよね」
蒼空の言う通り、俺も腹が減っていた。
「昨日の缶詰、残しておくべきだったよな」
「まあ、水さえあればどうにかなるし」
蒼空はペットボトルに溜まる雨水を、じっと見ていた。
こんなことなら昨日、洞窟の場所を確かめておくべきだったな。
俺は、のんびりと遊んでいたことを後悔するのだった。