三十一、移動
「それにしても、ここって、捕まえられた人たちが奴隷として働いてるのかな」
蒼空が訊いた。
「そうみたいだな。直也の他に智博ってやつもいるんだけど、そいつは直也の友達みたいだぞ」
「そうなんだ・・」
「直也たちは、三か月前、ここに連れて来られたらしいぞ」
「ええっ!三ヶ月・・って。そんなに長く・・」
「まったく、酷い話だよな」
蒼空は自分たちも同じ目に遭うのではないかと、不安に思っている風だった。
「僕たち、見つかったら殺されるのかな・・」
「それはわからない。でも無事でないことは確かな気がする」
「だよね・・」
ガラガラ・・
そこに直也が戻ってきた。
「た・・大変や・・」
直也は悲壮な表情で、俺たちに近づいてきた。
「直也・・どうしたんだ」
俺が訊いた。
「あれって・・じぶんらの友達ちゃうんか・・」
「え・・どういうことだ」
「さっきな・・男子二人が縄で縛られて連れて来られてたんやけど、その場所いうんが・・」
「な・・なんだよ、言ってくれ」
「あ・・うん。拷問されるところに・・」
「ごっ・・拷問っ!」
「う・・嘘・・。それって飯島くんたちなのかな・・」
蒼空は震えていた。
「直也、その二人って、一人は太ってたか?」
「うん。太ってた。ほんで一人は細身やけど、頭がよさそうな・・」
「マジかよ・・」
まさに飯島と田地じゃないか。
あいつら捕まってしまったんだ・・
それにしても、拷問部屋って・・あり得ない・・
「直也、なんとか助けられないのか」
「助けるいうてもやな・・それは無理や・・」
「そんな・・」
どうすればいいんだ・・
拷問なんて・・あいつらに耐えられるはずがない。
俺だって無理だ。
でも・・このままだと、とんでもないことになる。
取り返しがつかないうちに、なんとかしないと・・
「どうする・・?どうするの、航太・・」
「どうするって・・」
「ただ一つな・・」
直也がポツリと言った。
「なんだ、ただ一つって」
「あの子らが、まったく逆らわんとラムダの命令に従ったら拷問は免れるかも知れん・・」
「そっ・・そうなのか!」
「俺もな、ここへ来た時、あの部屋へ連れて行かれたんや。でも逃げずにここで働くことを約束したら拷問されずに済んだ。果たしてあの子らが命令を聞くかどうかやねん」
「そうなのか・・」
「飯島くんは賢いから受け入れると思うよ。でも田地くんは・・」
蒼空が言った。
「そうだな・・。あいつどうするかな・・」
「石竹、池垣。とりあえずテントへ行こ」
直也が荷車に乗るよう、促した。
「わかった」
そして俺と蒼空は荷車に乗り、シーツで隠された。
「ええか、行くで」
ガラガラ・・
扉が開く音がして、荷車は外に出た。
「おい、どこへ行くんだ」
直ぐに男が声をかけてきた。
「あ、これ、明日、運びやすいように準備しとこと思いまして・・」
直也は頼りなく答えていた。
「ふーん」
「ほな、失礼します・・」
「ちょっと待て」
そこで男が引き止めた。
ダメだ・・心臓がバクバクする・・
頼む・・見逃してくれ・・
蒼空は目を瞑って、震えていた。
「な・・なんですか・・」
「お前、その言葉、直せないのか」
「え・・」
「変な方言をだ」
「はぁ・・」
「標準語で喋れ」
「は・・はい・・」
「よし、行け」
ガラガラ・・
再び荷車は動き始めた。
よ・・よかった・・
「ちょっと待て」
また男が引き止めた。
「なんですか・・」
直也は動きを止めて言った。
「そのシーツ、なんなんだ」
「あ、これはちょっと汚れたんで、水道で洗ったんですわ。それで干すついでに・・」
「それは洗濯係りの仕事だろう!」
「はい・・」
「与えられたこと以外はするなと言ってあるはずだ!」
「すみません・・」
シーツは俺たちに、直接掛けられているわけではなかった。
荷車の両端に被せる状態で掛けてあるので、荷物・・つまり俺たちが乗っていることはバレてなかった。
「よし、行け」
ガラガラ・・
「まったく・・うるさいっちゅうねん」
直也がボソッと呟いた。
ということは・・男は去って行ったんだな。
ああ・・肝を冷やした・・
やがて荷車は止まった。
「ええか・・ゆっくり下りて来るんやで・・」
直也が小さな声でそう言った。
俺たちは這うようにして、荷車から下りた。
「今や。誰もいてへん」
直也はテントの入口を開け、入れという風に合図をした。
俺と蒼空は急いで中へ入った。
テントは設置型で、例えるなら、モンゴルのゲルのような造りになっていた。
もちろんゲルほど立派でもないし、大きくもないが、少なくとも簡易テントよりは上等だった。
「はぁ・・やれやれやな・・」
直也はシーツをたたみ、その場に座った。
「どこでもええで、座り」
俺たちもその場に座った。
「ここって・・バレないの・・」
蒼空が訊いた。
「うん。なにかない限り、滅多に来んよ」
「そうなんだ・・よかった」
「でも、いざという時のために、隠れるところが必要やな」
直也はベッドの下を覗きこんでいた。
「ここしかないか・・」
そう呟いて、「この下に潜り込んで、見えんように上から布団で隠すわな」と言った。
「直也・・色々と、面倒かけて済まない・・」
俺は直也に詫びた。
「なに言うてんねん。さっきも言うたけど、石竹たちは希望の星みたいなもんや。絶対に俺はここから出る!」
俺は直也に感謝しつつも、飯島と田地が気がかりでならなかった。




