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第8話 盗賊団討伐作戦 中編

ここは移動までの中間になります。

そして、力持ちのボクっ子が登場するんですが、彼女の頭のアレ、団子でいいんですよね? 原作ではあるキャラに春巻きと称されてましたが……。

出撃前からハラハラするような騒動がありはしたものの、それもひとまずは事無きを得て、全ての準備も終了していたので出撃までに大した時間を取られる事もなく、零治達は現在、盗賊団討伐のため騎馬隊の軍勢とともに、果てしない荒野を移動している。



「思っていたより、速度はそこまで早くないんだな?」


「ええ。いつもの行軍より少し早いぐらいですかね?」



二人がそんな事を言ってる中、秋蘭が馬を横に着けてきて話しかけてくる。



「二人とも、だいぶ乗馬が様になってきたみたいだな」


「まだ完全には慣れてないがな……」


「ええ。それに……あの二人の方が遥かに上手ですよ」



亜弥がそう言うと、三人はすぐ横に居る、奈々瑠と臥々瑠の方に視線を向ける。



「「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」」


「二人揃って鼻歌なんか歌いやがって。余裕かましてくれるぜ……」


「仕方ありませんよ。あの二人に動物に関する事で敵う訳ありませんから」


「う~む……お前達二人もそうだが、なぜ奈々瑠達は、ああも短期間で馬を乗りこなせるようになったのだ?」


「ああ、彼女達は動物と意思疎通ができますから。そのおかげでしょう」


「動物と意思疎通……? あの二人はそんな事が出来るのか?」


「ああ。アイツらの身体は、半分は獣だからな」


「獣……?」



秋蘭は怪訝な表情になり首を傾げる。まあ今の説明では誰も理解する事はまず出来ないだろうから当然の反応といえるだろう。



「まっ、詳しい説明は今度時間が有る時にでもしてやるよ。それにしても……なんか凄い事になったな」


「うむ……」


「おや? 噂をすれば……来ましたよ、零治」


「……来たか、桂花」


「な……っ! アンタ、何で……っ!」


「華琳から聞いてるだろ? オレ達は、お前の事を真名で呼ぶと」


「聞いたけど覚える気にもならなかったわ!」


「……軍師のセリフとは思えんな」


「それに、古参の夏侯淵はともかくとして、何でアンタなんかに真名で呼ばれなきゃならないのよ! 私の大切な真名をアンタなんかに犯させてたまるもんですか! 訂正なさい!」


(こんのクソガキがぁ……!)



桂花の高飛車な態度に零治は苛立ちを露わにし、米神がピクピクと痙攣する。



(あぁ、あれは相当キてますねぇ……。流石に放ってはおけませんか)



喧嘩になるとマズイと判断し、亜弥が話題を逸らしに入る。



「そんな事よりも桂花。あんな無茶を言って大丈夫なんですか?」


「そんな事じゃないわよ……」


「華琳様の命だ。諦めて受け入れるのだな」



桂花は不満を露わにするが、秋蘭にまでそう言われては、無理にでも納得するしかないだろう。

桂花はやむを得ず亜弥の持ちかけた話題に話を合わせる。



「っ……。で、何が無茶な事ですって?」


「フッ……諦めたか。……何って糧食を半分で済ます事さ」


「別に無茶でも何でもないわよ。今の曹操様の軍の実力なら、これくらい出来て当たり前なんだから」


「そうなんですか、秋蘭?」


「華琳様は知にも勇にも優れたお方だが、それを頼んで無茶な攻めを強いるお方ではないからな……。正直、こういう強行軍を実戦で試すのは初めてだ」


「ここしばらくの訓練や討伐の報告書、今回の兵数を把握した上での計算よ。これでも余裕を持たせてあるのだから、安心なさいな」


「まあ、その辺の手並みはおいおい見せてもらうとしよう。……しかしあのやり取りは肝が冷えたぞ」


「なぜあんな無茶なやり方をした? 能力に自信があるなら、軍師として志願すれば済む話だろ」


「ああ……それはだな」


「軍師として志願出来たなら、していたわよ」


「してなかったのかよ?」


「……ふん」



桂花は軽く鼻を鳴らし、秋蘭の方を見る。



「零治。軍師の募集はしていなかったんですよ」


「そうなのか?」


「って、何で試験官じゃない貴方が知ってるのよ!?」


「確かに私は試験官ではありませんでしたが、裏で秋蘭の補佐はしてましたので」


「ああ、そういやそんな事を言ってたな」


「うむ。あの時はおかげで随分と楽が出来た。感謝してるぞ、亜弥」


「いえいえ。あれぐらいお安いご用ですよ」


(武官をやって文官をやって、おまけに新人の面接官まで……どんだけ多忙なんだよ秋蘭の奴)



零治はそう思うも、冷静に考えれば当然と言えるだろう。

根っからの武人の春蘭に事務的な仕事をこなせるわけがないのだから仕方ないとしか言いようがない。



「で? 何で軍師は募集してなかったんだ?」


「経歴を偽って申告する輩も多いのでな。個の武勇なら姉者あたりが揉んでやればだいたい分かるのだが……文官はよほど名の通った輩でない限り、使ってみないと判断がつかん」


「だから、一刻も早く曹操様の眼に留まる働きをして、召し上げていただこうと思ったのだけれど……その機が思ったより早く来て、良かったわ」


(だからってあんな無茶をするのはどうかと思うが……)


「で、華琳様はどうだったのだ?」


「思った通り、素晴らしいお方だったわ……。あのお方こそ、私が命を懸けてお仕えするに相応しいお方だわ!」


「……えらく心酔してるな」


「……ふっ。アンタのような木偶の坊には分からないのでしょうね。可哀想に」



桂花は零治にバカにしたような視線を向けながら言う。

その態度に零治の怒りの沸点がふつふつと上昇し始めるのでなんとか自制心を働かせ我慢こそするが、内心では毒づいてしまう。

というか、そうでもしないと内に抱えてる怒りが爆発してしまいかねないと自覚してるのだから。



(あぁ……今すぐこのガキをシバキあげてやりたい気分だ……)


「ちょっと、アンタ……」



それまで横で話を黙って聞いていた奈々瑠が零治達の会話に割って入ってくる。



「な、何よ……?」


「さっきから黙って聞いてれば、兄さんに対して随分な口を利いてくれてるじゃないの。私達の兄さんをバカにするのも大概にしなさいよ……」


「…………」



臥々瑠は何も言わないが、その眼つきは明らかに穏やかなものではなかった。

しかし、それに気圧される事無く桂花も負けじと言い返す。



「フンッ! 何よ、アンタ達コイツの妹なの? こんな盆暗の妹だなんて、アンタ達二人も救われないわね」


「何ですってぇ!? アンタぁ!! 二度とそんな口が利けないように、今すぐこの場でその喉笛を噛み千切ってやろうかぁ!!」


「がるるるるるる!!」



奈々瑠と臥々瑠は桂花の言葉に対して、怒りを露わにし牙を剝き出す。臥々瑠に至っては、野獣のような唸り声をあげる有様である。



「ひっ!?」



桂花は二人の凄まじい迫力に気圧され、思わず落馬しそうになる。

見かねた秋蘭が仲裁に入るが、完全に頭に血が上った奈々瑠と臥々瑠はそれを全く聞き入れようとしない。



「お、おい! 二人ともよさないか! ……音無! 黙ってないでお前からも言ってやってくれっ!!」


「はぁ……。二人ともやめるんだ……」


「止めないでください、兄さん! この女、今すぐ八つ裂きにしてやります!!」


「そうだよ! あんな事を言われて黙ってなんかいられないよっ!!」


「奈々瑠、臥々瑠……オレの言う事が聞けないのか……?」



零治は二人に冷ややかな視線を向け、威圧するように言う。



「くっ……! 分かりました……」


「は~い……」



二人はしぶしぶ零治の言葉に従う。



「フ、フンッ! 二人して野蛮な奴ね! これも野蛮な兄に育てられたせいかしら?」


「…………桂花」


「何よ? ……っ!?」



零治に呼ばれ、桂花が視線を向けた先には、冷酷な視線を桂花に向ける零治の姿があった。

日の光を背後から浴びているせいなのか、その顔には大きな影が差して表情はよく分からないが、澄み切った蒼の瞳だけがハッキリと見えており、その姿から放たれる異様な威圧感に周りのメンバーは押し黙る事しかできなかった。



「桂花。お前がオレの事をどうこう言うのは別に構わんさ。ムカつくけどな。だがな……奈々瑠達に対する侮辱的な発言は控えてもらおうか……」


「…………」


「今度コイツらの事を悪く言ってみろ。二度と朝日を拝めなくしてやるからな……」


(うぅ……。私ホント、いつか胃に穴が開くかも……っ!)


「…………」



亜弥はストレスで胃がキリキリと痛みだすので、苦悶の表情で胸を抑えている。

その表情を秋蘭は観察するようにジッと伺う。その時、前方の春蘭がやって来る。



「おお、貴様ら、こんな所に居たのか……って、どうかしたのか?」



春蘭はその場に漂う異様な空気を感じ取り、怪訝な表情で周りに尋ねるが、誰も何も言おうとしないので秋蘭が誤魔化すように答える。



「いや、何でもない……。それより、どうした、姉者。急ぎか?」


「うむ。前方に何やら大人数の集団が居るらしい。華琳様がお呼びだ。すぐに来い」


「分かった。奈々瑠、臥々瑠、ついて来い」


「はい」


「は~い♪」



零治は奈々瑠達を連れ立って移動を始める。



「ん? どうした、秋蘭。来ないのか?」


「ああ、私は亜弥と一緒に行くから、姉者は桂花と先に行っててくれ」


「そうか、遅れるなよ。……行くぞ、桂花」


「え、えぇ……」



春蘭は桂花とその場を後にし、秋蘭と亜弥がその場に残る。



「亜弥……」


「何ですか……?」


「お前も……随分と苦労してるのだな……」


「……分かりますか?」


「うむ。お前の先程の表情を見れば、だいたいの察しが付く……」


「あぁ……そう言ってくれたのは貴方が初めてですよ、秋蘭……。そういう貴方も大変なんでしょう?」


「まあな……」


「お互い苦労が絶えませんねぇ……」


「そうだな……」


「……行きますか?」


「ああ」



二人は胸の内の苦労を簡単に明かしながら意気投合し、華琳達の所に移動を開始する。


………


……



「……遅くなりました」


「ちょうど偵察が帰って来た所よ。報告を」



華琳に報告を促され、偵察から戻って来た兵士の一人が姿勢を正し、報告する。



「はっ! 行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗が無いため所属は不明ですが、格好がまちまちな所から、どこかの野盗か山賊だと思われます」


「……様子を見るべきかしら」



華琳は顎に手を当てながら考えるが、桂花が首を横に振りそれを否定。もう一度偵察するように提案をする。



「もう一度、偵察隊を出しましょう。夏侯惇、音無、貴方達が指揮を執って」


「おう」


「分かった」


「ついでに、夏侯惇の抑え役も頼むわね」


「……不本意だが引き受けよう」


「おい、それはどういう意味だ!? それではまるで、私が敵と見ればすぐ突撃するようではないか!」



そう言われては流石の春蘭も我慢出来ないのか、声を荒げて反論するが……。



「違うの?」


「違うのか?」


「違わないでしょう?」


「うう、華琳様までぇ~……」



華琳にまでそう言われてしまい春蘭は涙目になる。おまけにこれが紛れもない事実なのだからフォローのしようも無いというものだ。



「では春蘭、零治。すぐに出撃なさい」


………


……



春蘭の隊をまるまる偵察部隊に割り振り、零治達は華琳の本隊から離れ、先行し移動を始めている。



「まったく。先行部隊の指揮など、私一人で十分だというのに……」



零治と組まされた事がよほど不服なのか、春蘭は馬上で一人ブツブツと文句をブータレている。



「偵察も兼ねてるんだ。通りすがりの傭兵隊とかだったら、突っ込むなよ?」



零治が釘を刺すように言うが、春蘭は不満を露わにして反論する。



「貴様なんぞに言われるまでもないわ。そこまで私も迂闊ではないぞ」


(その迂闊が大いにあり得るからオレが付けれたんだろうが……)



零治がそう思っていた時、目的地が見えたようで、兵士の一人が前方を指差しながら声を張り上げる。



「夏侯惇様! 見えました!」


「ご苦労!」


「あれか。しかし……見たところ行軍してる感じじゃないな……?」


「何かと戦ってるようだな」



その時、零治達が見てる集団の中からナニかが、遥か上空に吹き飛ばされる。



「ん……? おい……今、吹っ飛んだのって……人じゃないのか……!?」


「なんだ、あれは!」


「誰かが戦ってるようです! その数……一人! それも子供の様子!」


「なんだと!?」



その報告を聞くや否や、春蘭は馬に鞭を振り、一気に加速させる。



「って、おいっ!? 春蘭!! ああ、クソッ!!」



零治も春蘭の後を追うために、馬を一気に加速させた。


………


……



「でえええええいっ!」


「ぐはぁっ!」



野盗の集団を相手に一人大立ち回りをしてる少女は、手に持ってるけん玉の先に付いてる巨大な鉄球を振り回し、野盗の一人を吹き飛ばした。



「まだまだぁっ! でやあああああっ!」


「がは……っ!」


「ええい、テメェら、ガキ一人に何を手こずって! 数でいけ、数で!」


「「「おおぉぉ!」」」



リーダー格の男が指示に従った野盗達は少女を取り囲みだす。



「はぁ……はぁ……はぁ………。もぅ、こんなに沢山……多すぎるよぅ……!」


「だらぁぁぁぁっ!」


「げふぅっ!」



そこへ駆けつけた春蘭が、すかさず野盗の一人を渾身の一太刀を浴びせ、野盗は苦悶の断末魔を上げながら地面に崩れ落ちる。



「……えっ?」


「大丈夫か! 勇敢な少女よ!」


「え……? あ…………はいっ!」


「な、何だっ!? 新手か!?」


「フッ……。後ろがガラ空きだぞ」



零治は音も無く一人の野盗の背後を取り、その無防備の背中に叢雲を突き刺す。



「ぐがぁっ!?」



突き立てられた叢雲の刃は野盗の胸部を刺し貫き、野盗の男は口から大量の血を吐いて、自分の胸から飛び出した叢雲の刃を驚愕の眼で見つめながら息絶える。



「貴様らぁっ! 子供一人によってたかって……卑怯と言うにも生温いわ!」


「ほお。珍しいな。お前と意見が合うとは」


「うわぁ………っ! 退却! 退却ーーーーっ!」



野盗達は自分達の不利を悟り、脱兎の如く逃げ出した。



「逃がすか! 全員、叩き斬ってくれるわ!」


「おい、春蘭。オレ達の仕事は偵察だぞ。その子を助けるために戦うのは良いとして、敵を全滅させてどうするんだ……」


「ふんっ。敵の戦力を削って何が悪い!」


「まあ、お前の言ってる事も理解できるが、それより残った敵を追跡して、本拠地の場所を掴んだ方が効率的だと思わないか?」


「……おお、それは良い考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」


「……もう何人かに指示は出してある」


「むぅぅ、貴様にしては中々やるな」


(はぁ……。考え無しにも程があるだろ……)


「あ、あの……」



そこへ、先程まで野盗達に一人で戦ってた少女が零治達におずおずと話しかけてくる。



「おお、怪我はないか? 少女よ」


「はいっ。ありがとうございます! おかげで助かりました!」


「それは何よりだ。しかし、なぜこんな所で一人で戦っていたのだ?」


「はい、それは……」



少女が春蘭の問いかけに答えようとした時、そこへ華琳達の本隊が零治達の所にやって来る。



「来たか……」



華琳達本隊を目にした少女は先程までの大人しそうな雰囲気とは一変し、殺気を放ちながら険しい表情になる。



「…………っ!」


(ん? 殺気だと……?)



零治はその殺気を感じ取り、疑問に思ったが、華琳が話しかけてきたので報告を始める。



「零治。謎の集団とやらはどうしたの? 戦闘があったという報告は聞いたけれど……」


「連中はオレ達の勢いに負けて逃げたよ。何人かを尾行に付けてるから、本拠地が見つかるのも時間の問題だろ」


「ふふ。上出来ね」


「そりゃどうも」


「あ、あなた……!」


「ん? この子は?」


「お兄さん、もしかして、国の軍隊……っ!?」


「ん? 一応、そうなるの……うおっ!?」



少女は零治の返答を聞く前に、持っている鉄球をいきなり振り回してきたので、零治は素早くバックステップしてソレを避ける。



「……何の真似だ」


「国の軍隊なんか信用できるもんか! ボク達を守ってもくれないクセに税金ばっかり持っていって!」


「なるほど。一人で戦っていた理由はソレか……」


「そうだよ! ボクが村で一番強いんだから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ!盗賊からも、お前達……役人からもっ!」



少女はその胸中に抱く怒りを鉄球に込めて、零治に更に攻撃を仕掛ける。



「くっ……! その鉄球、マジで怖いんだが……っ!」


「桂花。これは一体どういう事なんですか? 華琳程の人物があの子が言ってるような悪政を働くとは思えないんですが……」


「この辺りの街は、曹操様の治める土地ではないのよ。だから盗賊追跡の名目で遠征して来てはいるけれど……その政策に、曹操様は口出しできないの」


「なるほど。そう言う訳ですか……」



事情を理解した亜弥は、ふと自分の居た世界とこの世界の情勢を照らし合わせ、吐き捨てるように胸の内で呟く。



(やれやれ。いつの世、いつの時代も政治が腐敗してるのは変わらない訳ですか……)


「…………」



華琳は悲壮感が漂う面持ちで、零治に挑む少女を見つめる。



「華琳様」



その心中を察するように秋蘭が華琳の名を呼ぶ。



「でえええええええええいっ!」



少女は零治に向かって最大の一撃を放つ。



(くっ! この子は悪政の被害者なんだ。叢雲を使う訳にはいかないか……ならばっ!!)



自身い飛来してくる鉄球を前にして零治はとんでもない行動に出る。



「うおおおおおっ!!」



零治は裂帛の気合いとともに、左手を突き出してに向かってくる鉄球を掴み取ってみせた。



「なっ!?」


「えっ!?」


「くぅ……! 今のは……結構痛かったぞ……!」



少女の放った一撃の衝撃が零治の左手から腕全体に走り、零治は苦悶の声を出す。



「「兄さんっ!!」」


「また……なんて無茶を……」


「あの巨大な鉄球を素手で……それも片手で受け止めるとは……!」


「アイツ……ホントに人間か……!?」



零治は鉄球を掴んだまま少女に静かに問いかけるが、少女はどうしていいか分からずうろたえてしまう。



「……気は済んだか?」


「あ、あの……」


「二人とも、そこまでよ!」



今まで戦いを傍観していた華琳が二人を一喝する。



「剣を引きなさい! そこの娘も、零治も!」


「いや……オレ抜いてねぇし。……とりあえず、この鉄球は放していいんだな……?」



零治は鉄球から手を放し、鉄球は激しい轟音を立て地面を陥没させた。



(地面が陥没したんだが……。この小さな身体でよくあんなに振り回せたな。……っつぅ! ちと無茶しすぎたか……)



零治は左手に走る痛みを無理やり押さえつけるようにギュッと手を握りしめ、ズボンのポケットに左手を押し込む。



「……零治。この子の名は?」


「……訊いてない。ってか、そんな余裕なかったし……」


「き……許緒と言います」


「そう……」


(こういう威圧感の有る相手を前にするのは初めてなんだろうな。完全に空気に呑まれてるぜ)


「許緒、ごめんなさい」


「……え?」



華琳は許緒と名乗った少女に頭を下げ謝罪し、それを見た許緒は怪訝な表情で華琳を見つめる。



「曹操、様……?」


「何と……」


「あ、あの……っ!」


「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の街で、刺史をしている者よ」


「山向こうの……? あ……それじゃっ!? ご、ごめんなさいっ!」



許緒は自分が誤解していたと知り、慌てて頭を下げ謝罪する。



「な……?」


「山向こうの街の噂は聞いてます! 向こうの刺史様は凄く立派な人で、悪い事はしないし、税金も安くなったし、盗賊も凄く少なくなったって! そんな人に、ボク……ボク……!」


「構わないわ。今の国が腐敗してるのは、刺史の私が一番よく知ってるもの。官と聞いて許緒が憤るのも、当たり前の話だわ」


「で、でも……」


「だから許緒。貴方の勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」


「え……? ボクの、力を……?」


「私はいずれこの大陸の王となる。けれど、今の私の力はあまりにも少なすぎるわ。だから……村の皆を守るために振るった貴方の勇気と力。この私に貸してほしい」


「曹操様が、王に……?」


「ええ」


「あ……あの……。曹操様が王になったら……ボク達の村も守ってくれますか? 盗賊も、やっつけてくれますか?」


「約束するわ。陳留だけでなく、貴方達の村だけでなく……この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの」


「この大陸の……みんなが……」



その時、偵察が戻って来た事を桂花が報告する。



「曹操様、偵察の兵が戻りました! 盗賊団の本拠地は、すぐそこです!」


「判ったわ。……ねぇ、許緒」


「は、はい!」


「まず、貴方の村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、貴方の力を貸してくれるかしら?」


「はい! それなら、いくらでも!」


「ふふっ、ありがとう……。春蘭、秋蘭。許緒はひとまず、貴方達の下に付ける。分からない事は教えてあげなさい」


「はっ」


「了解です!」



話を終えた華琳が、今度は零治に歩み寄る。



「零治。左手を見せなさい」


「なんで?」


「いいから見せなさいっ!!」



華琳は有無を言わさずに零治の左手をグイッとズボンのポケットの中から無理やり引っ張り出す。



「いっつぅ……!」


「やっぱり……貴方、血が出てるじゃない!」


「えっ……? あっ!」



華琳の言う通り、零治の左手の親指と人差し指の間に大きな切り傷があり、かなりの勢いで血が流れ出ている。おそらく鉄球を受け止めたときに、鉄球に付いてる棘で切ったのだろう。

おかげで零治の掌は血で真っ赤になっていた。



「この程度、傷のうちにも入らねぇよ。すぐ治る」


「黙りなさいっ! 零治、私の目の前で、今後あんな無茶な真似をする事は許さないわよっ!!」



華琳は凄まじい剣幕で先程の零治の行動を咎める。

その凄まじい迫力に気圧され、流石の零治も反論は出来なかった。



「…………」


「返事はっ!!」


「分かったよ。だからそんなに怒鳴るなって……」


「まったく……。秋蘭、衛生兵をここに」


「その必要はありませんよ。私が手当てをしますから」



いつの間にか、包帯を手に持った亜弥がそこに居た。



「そう。なら、お願いするわね」


「ええ。お任せを。……零治、左手をこっちに」


「ん……」



亜弥は零治の左手の傷口を手早く止血して、慣れた手つきで包帯を巻き付けていく。



「まったく、貴方は……。いくら神器ディバイン・アームズのおかげで身体能力が強化されてるとはいえ、無茶しすぎですよ……」


「別にあんなのどうって事ないだろ……」


「よく言いますよ。常人なら腕の骨が砕けてますよ。もう少し自分の身体を大事にしてください」


「ったく、相変わらず口うるさい奴だなぁ。お前はオレの母親かよ……?」


「私はこんなバカ息子を持った憶えはないですよ……」


「あ、あの……」



そこへ、許緒がおずおずと零治に話しかけてくる。



「ん? どうした?」


「その……さっきはごめんなさいっ! ボクのせいで、お兄さん、手にケガを……」


「あぁ、その事は気にするな。お前は何も悪くない」


「でも……!」


「許緒、でしたね? 彼の言う通り貴方は悪くないですよ。悪いのはこのバカ男ですから」


「おい。それがケガ人に対して言う言葉か……? そんなんだからお前はいつまで経っても彼氏が居ないんだよ……」


「ほぁ……?」



零治のその言葉を聞いた亜弥はスゥッと眼を細め、いきなり零治の左手に巻いてる包帯をギュッときつく縛り上げたので、ズキンと走る痛みに零治は堪らず悲痛の叫び声を上げる。



「いっっってええええええええっ!!」


「おっと失礼。手が滑っちゃいました」


「お前……今の絶対ワザとやっただろ……っ!」



零治は左手を抑え、亜弥に恨めしげな視線を向けながら言うが、亜弥は知らぬ態度を決め込む。



「華琳。こっちは済みましたよ」


「無視すんなっ!!」



そのやり取りがよっぽど可笑しいのか、華琳は鼻で軽く笑いながら零治に言う。



「ふふ。それだけ怒鳴る元気が有るなら、当然まだ戦えるわよね?」


「はぁ……。当然だろ。まだ戦えるさ」


「よろしい。……では総員、行軍を再開するわ! 騎乗!」


「総員! 騎乗! 騎乗っ!」



秋蘭の号令とともに、騎馬隊の軍勢が再び慌ただしく動き出す。



「零治。私達も……」


「ああ」


「あの、お兄さん」


「ん? なんだ?」


「お兄さん、名前は何て言うの?」


「ああ、姓は音無、名は零治だ。真名は無い。好きに呼んでいいぞ」


「えっと、それじゃあ、兄ちゃんって呼んでいい?」


「兄ちゃん?」


「ダメ?」


「フッ……。好きにしな」


「ありがとうっ! じゃあ、ボクの事は季衣って呼んでね」


「ああ。よろしくな、季衣」


「うん! こっちこそ、よろしく!」



許緒という新たな仲間を加え、華琳の軍勢は盗賊団の本拠地を目指し、移動を再開した。

零治「さて、今回のお題は?」


作者「悪い、何も考えてない」


亜弥「貴方という人は……」


奈々瑠「以前の時も似たような状況じゃありませんでしたか……?」


臥々瑠「だったね。まあどういう内容だったかまでは言わないけどさ……」


作者「HAHAHA。あれは若気の至りというやつだよ」


零治「笑って誤魔化すな」


作者「はい。すんません……」

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