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本物のおうじとひめの物語  作者: ぬりえ


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1/3

文化祭の準備にて

 高校二年、夏から秋に変わる頃。

 今年の夏も暑かった。春と秋がなくなるとか言われているけど、今年はちゃんと秋があるみたいで、なんとなく涼しくなってきた。

 それでクラスメイトたちは長袖のジャージだったりブラウスにワイシャツ姿。

 でも、ジャージの袖をまくっているし、カーディガンとかの上着を着ている人は見受けられない。


「ちょっとー、ペンキ足りないんだけど!」

「剥がせるシールってどこ?」

「誰だよこれ、置きっぱなの!」


 がやがやがやがや……


 なんかものすごい騒がしいのは、もうすぐ文化祭があるから。

 それで動き回ってて、体温上がっているわけで。ま、そういうこと。


 各クラスの出し物は、食べ物は禁止なんだけど、あとはだいたいなんでもできる。

 それこそ、よくありそうなお化け屋敷とか、食べ物の実物なしで写真にした男装女装カフェとか、演奏だったりとか。


 で、うちのクラスは、


「アート!」


 だそうで。

 今時映え(・・)が大切。

 ってことで、芸術テーマで進んでる。芸術の秋ですもんねぇ。

 それよりは、写真撮りにたくさん人が来てくれればいいわけ。


 天井に青のごみ袋を切って貼って空に見立て、傘とか風鈴とか飾って。よくあるやつ。

 美術部と写真部の人が、マジックアートを書いて。

 チョークの絵を描いている人もいて。黒板アートっていうんだっけ?

 人間がそのまま、考える人の恰好で座ってたりして。

 もうなんでもありなんだなぁ。

 ま、楽しそうでなにより。



 みんなは。



 わたしは、そんなに楽しくない。動いてないから、この熱のなかでもカーディガン羽織ってるのはわたしだけなんじゃない?

 暇な時間ってけっこう辛いもんなのよ。


「あー、悪いんだけどさ、王子さん」

「はい」

「このへんの片付けとか……」

「はい、やっておきます」


「王子さん、」 飲み物買ってきてほしい。

「えっと、王子、さん?」 先生に外出許可証を出してくれる、ます、か?

「あのさ、王子さんさ」 そのぉ、足りないものリスト作ってほしいんだけどぉ……。


 と、いいように、でも遠慮がちに使われてるわたしは、もう二年になって、だいたいクラス全体が馴染んで、文化祭のテーマも準備も始まって進んできた頃に引っ越してきた、王子です。


 はい、王子です。苗字です。


 女子ですけど、王子です。


 ぜんっぜん城に見えない、王子が住んでるっぽくない、普通にある空き家に引っ越してきました。


 引っ越しのおかげでわたしも、文化祭のおかげでクラスのみんなも、とにかく忙しくて、ろくに話もできず。おかげってか、せい、だよね。


 前の学校は女子高だった。共学に来て、男子のいる久々の感覚についおどおどしちゃって、わたしは陰キャ扱いとなりましたとさ。


 いや、別に陰キャでいいし、陽キャでもないし、なんでもいいんだけど。

 で、とにかくどう接すればいいのかわかんないクラスメイトたちは、わたしをなにかの係に入れる暇もなくて、手の足りないところに使ってるかんじ。ま、教えるとかも大変だからね~。

 いい、それがいい。十分。


「王子、どう? うちのクラス」

「先生」

 王子が苗字なんだけど、こっちに来てからなんか王子様になったみたいな感覚するのはなんでだろ。

「忙しい時期で、面倒も見られなくてごめんな。イベントのおかげで逆に混ざれるかと思ったんだけど」

 それは難しそうです、先生。

「まぁ、これでうちの学校の雰囲気は学べると思うよ」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 先生は、けっこう気にかけてくれてる。多分。


「ちょっと男子! 美術室で描いてた絵ができたらしいから、運ぶの手伝って!」

 学級委員長、男子に命令。

「「えー」」 男子、嫌そうな声。

「全員!」 委員長、威圧すごい。ちなみに、委員長は女子です。

「女子もやれよ!」 男子、がんばって反抗。

「か弱い女子に重いモン持たせんな!」 抵抗も虚しく終わり。委員長、たしかにそうですが。

「どこがか弱いんだよ!」 んー、それよね、女子のほうがなんか、ある意味、強い。

「こっちは写真持ってくんの! 大量に!」

 なんか写真貼って、絵にするやつを作ってるみたい。小さい紙がたくさん、って、たしかにそれも重いよね。

 忙しいのに、と言いながらも、みんな係を外れて指示に従ってる。この学級委員長、すごいな。


 はい、ただいま、誰もいなくなったところです。

 一緒に行ってもいいけど、今のうちにこの汚い教室きれいにしたいもん。気ぃ遣わせちゃうしね。


 床にちらばったビニール袋とかシールとかを集めて、使える物と使えない物に分別してごみ箱へ。ペンキの汚れを見つけたらすぐに拭き。

 カラの飲み物の容器は捨てる。新しいものを教壇に置かせてもらって。

 使いかけのなにかを動かすと怖いからそのままに、明らかに使い終わった缶とかテープもきれいにする。


 ふぅ。

 これが雑用ってやつですな。

 先生が見回りに来るまでに、教室の外の掃除もしておかなきゃ。


 ってなかんじで、ちゃんと働いてます、仕事のできる王子です。

 じゃないと、後がなんか、怖い気がする。

 この歳になっていじめとか子供っぽいことないだろうけど、ずっとクラスの腫物じゃぁねぇ。


「うわ、明日オレ、筋肉痛だわ」

「こんなに大きいとは」

「紙って重いんだね」

「これを貼るのも大変だよ」

 帰って来たみんなが、色々動き始める。わたしは端っこで壁のしみに扮しておく。


 ぴーんぽーんぱーんぽーん


 学校によって、チャイムって違うんだな。前の学校は違った。

 放送が流れ始める。


『文化祭の準備で忙しいところ、失礼いたします。今年の後夜祭イベントのテーマが決まりました』

 しーん、と一気に静かになった校内。

 え? なに?


 なんだろ、参加する? どきどきなんだけど! 

 ってかんじの会話が小さく聞こえるけど…… イベントってなに?


『今年は、劇です!』


 えー劇?!


 ざわざわしてる。

 条件なんだろー、って聞こえたけど、なにそれ。え? 条件って?


『条件はみっつ、クラス全員が登場すること、ダンスか歌があること、そして、』


『オリジナル作品であることです!!』


 えー?!


 ってなった。一瞬しーんとしてた校内が、一気にうるさくなった。隣のクラス以外からも同じような声響いてる。

 待って、状況がわからない。なに? どうなってんの?


『では、参加をご希望のクラスは、明日までに参加申込書を生徒会室にお持ちください、以上!』


 と終わった。放送。


「参加だね!」

「え、全員参加の劇とか、やりたくねー」

 たしかに、目立ちたくない人もいるし、苦手な人もいるし、わかるわかる。

「でもこれでポイント稼げるんだよ!」


 なんか聞こえた話によると、それぞれのクラスでポイントとやらがあるみたい。先生とか、来てくれたお客さんとかがつけたポイント。それを競うんだって。

 で、この後夜祭イベントが、一番ポイントを稼げるらしい。へぇ。

 ねぇ、ポイント稼ぐとお金とかもらえるかんじ?


「やるよ!!」


 なんか、クラス別の内容は被らないようになってるんだって。テーマが被ったらじゃんけんで決めるみたいで。

 で、おばけ屋敷希望で他のクラスと被った我がクラスは、結果、このアートとなったという。

 アートでいいと思うんだけど。素敵だよ。

 へんな危ないアトラクション作るより楽そうだし。


 でも、やっぱこう、芸術っぽいのって人が寄らないみたいね。


「今年は一位! 優勝! のためにも!!」

「参加しかない!」

「「おー!!」」

 ほんと、この委員長、すごいな。


 ってことで。

 え? なぜ、委員長がなぜかわたしのところに。


「あ、あのさぁ王子さん」

「申込書ですね、今から書いて提出してきます」

「助かります! 神~」

 こちらこそ、やることくれて神ですあなた。

 参加をするための申込書を書く。


 おっと待って、生徒会室ってどこだっけ?


 聞こうと思ったのにもう委員長はいろんな係にいったりきたり。どうしよう。


「生徒会室?」

 声をかけてくれたのはひとりの男子。名前は知らない。

 ごめんなさい、まだ覚えられてないです。名前を聞いたことあっても、顔と一致しないんだよね。

「あ、はい」

 持ってるペンキ、乾いちゃうよ~。

「四階の、まんなかあたりの部屋。看板あるから行けばわかると思う」

「あ、ありがとうございます」

 親切な人だなぁ。……って、ほんと、この人誰だっけ。


 あとでわかった、ヒメさんだ。


「ちょっと比米(ひめ)! 話なんてしてないで手伝ってよ」

「わかったけど、さっきので疲れた」

「さすがお姫様は体力ないなぁ」

 って聞こえたから。


 姫って漢字使った人、いたっけな。調べたら、比米って出てきた。

「うちのクラスに王子と姫の両方そろったな!」

 わははは、と楽しそう。きっとあの比米さんは嫌な顔してるんだろうな。

 わたしは王子でOKです。



 四階へ。あ、あった。ほんとだ、看板ある。

「失礼します、二年四組です」

「参加申し込みですか」

「はい。お願いします」

「たしかに受け取りました」

 この人が生徒会長かな? 生徒会長って、勝手に男子のイメージしてた。かわいいけどぴしっとした女性。小さいけどなんかかっこかわいい!

「なにか?」

「いえ、生徒会長がこんなにかわいらしい方とは思わなくてつい」

 かぁぁぁ、赤くなってる、かわいい! かわいいんだけど!

 こほん、と生徒会長、わかりやすく咳をする。頬は赤らめたままです。かわいい。

 かっこかわいい訂正! かわいい!!

「条件についても、きちんとお願いします」

「はい」 もちろんです! かわいい会長!

「半分以上のクラスが申し込むと思います。励むように」

「はい」

 なんか先生みたい。ギャップが! うわー! かわいい!

 

 ただ、浮かれてちゃだめで、

「お尋ねしたいのですが」

 そ、訊いておきたいことが。

「どうぞ」

「劇はオリジナル作品とのことですが、童話をアレンジしたものはオリジナルになりますか」

 そこ、気になる。最初から作るだなんて、さすがに時間がないからさ。作ってって言われたらを考えると、確認しておきたいもん。

「さすがですね」

 そこまで尋ねてくる人、いなかったんだって。忙しいからね、頭まわんなくても仕方ない。

「OKです」

「全員参加というのは、どのように確認するのでしょうか」

「担任の先生にチェックしていただきます。人数は生徒会で把握していますが、さすがに顔まではわからないので」

 なるほど。

「生徒会の方々の好みを教えてください」

「それを使うと?」

「はい。好みというものは少なからず、ポイントに反映されますので」

 生徒会室の周囲から、わたしロマンチックなの! 僕はコメディ! 俺ラッキースケベ! うちはダークなやつ! とかなんとか聞こえてきた。

 素直だな、なるほど。

 ってかけっこうノリいい生徒会だな。

「ご意見ありがとうございました。質問がありましたら、また伺います」

「よろしい」





「ってことなんですが」

 数人の人だかりになってる写真アートのところにいた委員長に報告したら、

「さっすがー! 演劇部の子がさぁ、はりきってるんだけど、すぐには難しいって言うから」

「そうなの!」

 あ、この人が演劇部の人かぁ。

「オリジナルって、鬼かよ」

「じゃ、童話をアレンジする?」

「それがてっとりばやいよね」

「好みも聞いてきました」

 と、これもご報告。

「なんか色々だね」

「価値観はそれぞれだから」


「なら、全部混ぜればいいのでは?」


「え?」

「アレンジするんですし、ロマンチックなのはダンスで、コメディは演出で笑いをとればいいですし、ラッキースケベは男子が男子にでもいいですし、逆もありですよね。あ、女性が男装してもあり。ダークなのは童話では当たり前ですから、ほら、シンデレラのお姉さんたち足を切り落とすし、そんなかんじで」

「演出って、たとえばどんな?」

 おお、なんか演劇部さんぐいぐいくる。

「えーと、そういうのに参加したくない人もいると思うので、黒子? みたいにいなって、モノローグ? の看板持つとか? ついでにクラス番号書いておくと、生徒会のかたがたはわかりやすいかもです」

 それで良い印象になったらさらに良し。

「すっごい!」


「じゃ、王子さん、あなたは劇の準備、部長とよろしく!」

「へっ」


 ってことで、なんかわたし、劇の準備になりました。

 この演劇部さん、部長だったんだ!


「聞いてねー」

 演劇部長が話す。みんな手は動かしたまま、耳を傾けてる。偉い! けっこうまとまってるな、このクラス。

「これから劇の物語作るんだけど、役として出たい人!」

「どういうやつ?」

「欧風の童話!」

 あ、欧風になったんだ。日本昔話は、あ、さすがにロマンが少ないんかな?

 パス、出る、やりたい、など返事はそれぞれで、

「主役は二人必要なんだけど!」

「なんで?」

「物語にヒーローとヒロインは不可欠でしょ!」

 たしかに。

「それじゃ、比米がヒーローだな」

「えっ」

 ヒメさんがヒーロー、ヒメなのに。ちょっと笑える。

「あ、ヒロインがよかった?」

「たしかに男女逆転劇もいいけど、クラスの出し物でどっかが男装女装するからねぇ、ここはベタにいきたい」

「そっか、たしかに」

「じゃ、比米はヒーローね」

「はーい」

 返事をするのはヒメさんでない人たち。

「いやオレ、賛成してないから」

 ほら。

「はい、では比米がヒーロー決定ね」

「オレに拒否権ないの?!」

 ないね、この様子。

「じゃ、ヒロインは?」

 あたし! 私! うち! と比米がやるなら相手になりたいとたくさん手が上がった。すご。

 ヒメさん、人気なんだなぁ。


 ってなわけで。くじびきになりました。

「はーい、運動能力ばっちりの、彼女になりました!」

 紹介されて万歳する女の子。体育会系なのにすらっとした体躯がうらやましい。

 運動ばっちりなら、ダンスもできるね。

「ダンスシーン、生で演奏したらよくない?」

「いいね! 誰かピアノとかバイオリンとかできる人、いない?」

「オレ、弾ける」

 坊主頭の男子、手を挙げた。

「うそマジ?!」

「のだめにはまって、簡単なのなら」

 あー! あれね!

「メロディーラインできれば十分!」

「この坊主頭の見た目でバイオリンとか、これはギャップ萌えで見栄えするね!」

「褒めてる?」

「よっしゃ、あとは役ほしくない人は、直接言いに来てね~」


 と、なんかとんとん決まっていく。劇かぁ。

「わたし、木の役とかでお願いします」

「王子なのに、なんか残念」

 ヒメさんと一緒な扱いですね。ま、王子だからね。前もそうだった。

「ははは」

 ここは誤魔化すに限る。


 で、原稿用紙を机に置いた演劇部長さん、ものすごい勢いで書き出した。アナログなんだ!


 委員長がそこで入る。

「でもダンスねぇ。社交ダンスみたいのでしょ? できるの?」

「練習すれば……」

 ヒロイン役がちょっと心配そうだけど、


「そんなに難しくないと思います」

 うん、できますよ。

 え、とお顔がこちらを向く。おっと、つい。


「え?」

「え?」

「もしかして、王子さんできるの?!」

 おーっとぉ! 委員長、こっちもぐいぐいだな!

「あ、え、はぁ、少しなら」

「教えて! 役の人に!!」

 でもどこで?

「音楽室あいてるよ」

 吹奏楽部の人が言った。

「なんで! 公演の練習しないの?」

「こんなこともあろうかと、鍵持っといた」

「さすが副部長!」 

 え、貸し切りいいの? それに副部長! このクラス、なんかかっけぇな!


 とにかく、ヒーローとヒロインを連れて、吹奏楽部副部長さんと四人で音楽室に。今はバイオリンないから、坊主頭君は次回から。

「曲は?」

「美女と野獣?」

「猫の恩返し?」

 まぁ、三拍子ならなんでもいっか。


「えっと、では、比米さん、広瀬さんをこんなかんじに」

 遅ればせながら、ご紹介。ヒロインは広瀬さんといいます。会話からお名前認識しました。

 わたしはパントマイムみたいに体勢をとる。

「で、広瀬さんはこんなかんじに」

 同じく。

「いや無理だって!」「もっとよく見せてくれないと」

「じゃぁ男役やるので、副部長さん、女役お願いしてもよろしいですか?」

「えっ」

「失礼します」

 するりと腰に手をまわす。あれ、副部長さん赤面!

 適当に流したスマホの音楽に乗せて動く。

「こんなかんじで、一緒にやるのでまねてください」

 ヒーローヒロインに伝えると、

「なんでオレがこんなことを……」

 比米さん嫌そう…… レディが目の前にいるのになんてことを言う!

「時間ないからがんばろ」


 って始めてみても、だめだこの二人、特に比米さんが恥ずかしがってて動き固い!

 広瀬さんばっちりがんばってるのに!

 しっかりしろよ男だろ!


「副部長さん、比米さんをお願いしてもよろしいですか」

「え? うん」

「さっきと同じように自分が動けるようにしてもらってください」

「はーい」

 副部長さんも頼もしいなぁ。


「では広瀬さん、失礼ながら、わたしを比米さんだと思ってください」

「うん。王子だもんね、王子さん!」

 駄洒落かな? うん、もう慣れた。

「失礼します」


 するり。


「わっ」


 くるり。


「ターンして、」

「広がったら手は美しくやわらかぁく伸ばして」

「戻ったときはヒーローを見つめておいてくださいね」

「ぎ、いたっ」

 これはわたしの声ね、足を踏まれたのよ。

「ごめん!」

「最初はそんなものです」

 そうそう、最初から完璧とかありえない。ってか今の状態ですごいって。

「ごめんね」

「いえ。美しいヒロインをヒーローから横取りなんて、わたしはなんと幸運なのでしょう」


「?!」


 あ、しまった。

 ここのみんな、といっても他三人だけど、固まった。

 そして広瀬さん、赤面。


「ねぇ王子さん、なんでダンスできるの?」

 話を変えてくれてありがとうございます。

「えーと」

「劇の案も、たくさん出てきたしさ、」

「うーん」

「そもそも、今踊ってるのって男性のパート? だよね?」

「はい……」


 じぃ。


「劇団に参加していたことがありまして。わたし、男役だったんです」

「えっ!」


「本物の王子じゃん!」


 本物の王子ですけど?


「やばい、男装させたい!」

「あ、それはいいと思います、劇に入れてみたらどうでしょう」

「??」


「とにかく、そういうわけで、その、すみません」

「いやいや、すっごいね! ヅカじゃん!」

「はまって、ほんとに行った人、います」

「写真とかないの?」

「いえ、ははは」

「ちょっと、オレを置き去りにしないでくれる?」


「どうですか副部長、比米さんのデキは」

「ぜんぜん。王子さんのほうがよっぽどよかった」

「うーむ、広瀬さんはとても優雅に動いていますので、すぐに飲み込めると思います。さすが運動が得意な方ですね」

「きゃぁっ」

 きゃぁ。この反応なんか懐かしいな。かっこいい人って、女子高だとモテるのよ。本物の男子より。


「では、わたしが女性役しますので、はい」

 比米さんに手を伸ばす。

「はいって?」

「どうぞ」

 ほら、さっさとやって。

「え」


 おずおずと手をとってくる。嫌がってたけど、任せられたらちゃんとやるんだなこの人。


「ちがーう、次は足、こっち。もっと手でサイン出して」

「あ、そうですそうです、上手!」

「足反対、ヒロインを抱くんですから、もっとお顔も見てください、恋に落ちるって演劇部長さん言ってましたよ」

「もっと顔、近くにして」


 ってなかんじで、毎日やってる。


 あのね、台本、書き始めたあの日の次の日に仕上がったの! すごい!

 わたしが提案したやつ、すぐに入れてくれたし! すごい!


「王子さーん、さすがぁ!」

「このへんのモノローグは、手書きがいいのでは。味があって。ダンボールの残りを使いますか?」

「いい仕上がりになりそう!」

「台本覚えられないぃぃぃ」

「そこは頭でがんばって」

「忘れちゃったら、こっそり教えるから!」

「うん」

「でもなんで比米のほうは声なしなの? 全部モノローグじゃん」

「そのほうが楽しいかなって。これもコメディになるじゃん?」

「うん。心の声を、別の人間が、別の声と字で演じる! なんかこう、合ってない感じがよくない?」

「それに、あいつ絶対嫌がるもんね」

「それが一番だね」

「あいつなら、一回読んだだけで全部覚えると思うけど」

「多分そうだけど」

 あ、あの人そういう人種なんだな。ほら、見て聞いて覚えちゃう的な。

「顔よし頭脳よし、運動よし」

「三拍子そろってるぅ」

「わぁ、ダンスですな」

「悪いのは愛想がないとこだね!」

 わはははは


 あれ? 練習のときは普通に表情あったけどな。


 次話、劇の台本!! どんなものに?!

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