表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷ぐちた
最終章 マッチョ令嬢、星の災いに見舞われるもすべてのバッドエンドを筋肉でねじ伏せる
63/63

最終話 マッチョ令嬢 vs 第五王子


 コマンゾネスが隕石を破壊してから、一カ月がたった。


 死人はおろか、ケガや後遺症が残った人すらも出なかった一連の事件であるが、様子のおかしくなったハンサムたちを多数の生徒が目撃しており、また取り壊し予定であったとはいえ寄宿舎や旧校舎の損壊(そんかい)があったことはごまかしようもない。

 そこで「王国崩壊をたくらむ悪魔が暴れ、コマンゾネスたちが制圧した」ことだけが公表され、詳細については関係者の胸のうちにとどめられることとなった。


 この件で、コマンゾネスは「マッチョ令嬢」の異名のみならず、「星砕きのコマンゾネス」という異名が新たにささやかれることとなった。


 しかし、この由来となったできごとは一部のものしか知らぬため、「星砕きはさすがに話盛りすぎ」と陰でゲラゲラ笑うものが大ぜい出たのだが、コマンゾネスはそれが真実であることをだれにも主張しなかった。

 そんな主張をしたところで、自身の筋肉がパンプアップされるわけではなく、筋トレにはげんだほうが有意義であると考えたためだ。


 この日、コマンゾネスは、婚約破棄の書類にサインをするために登城(とじょう)したのであった。


(これで、正式にわたくしたちの関係は終了する……)


 一抹(いちまつ)の、いや、隠さずにいえばかかえることができないほどのさみしさをかかえ、コマンゾネスはふっと口もとをゆるめた。

 物心がついたころには婚約を決められ、ともに歩んできたと思っていた、アレクシスとの十数年にわたる思い出が胸をゆらす。


 サインを終えると、聖女ベネクトリックスと第一王子アレクシスとが、ふたりでならんで立ち、深く、深く頭をさげる。

 しばしののち、ようやく顔をあげたベネクトリックスは、


「コマンゾネスさま。あなたには、本当にお詫びのしようもございません。せめて私は、今後、この国のため、またあなたのために、私情を(はい)して全身全霊で聖女としての役割をまっとうすることを、あなたに誓います」


 と清明(せいめい)な光をひとみに宿して告げた。


 婚約破棄は、アレクシスのわがままで決められた、という経緯が貴族間にも市井(しせい)の人々のあいだにもすでに流布(るふ)されていた。

 すでに口さがない人々からは「バカ王子」と言われており、不必要なまでに今後に影響をおよぼすのもよくないのではとコマンゾネスが口を出そうとすると、


「事実なんだから、どんな罵倒(ばとう)をされようと、どんなに冷遇(れいぐう)されようと、すべて背負って生きていくよ。ここは、きみが、命を()してつくってくれた明日なんだから」


 とアレクシスもまた、吹っ切れたようなすがすがしい顔つきで答えた。


 コマンゾネスはそれを受けとめ、それぞれにうなずいてふたりと少し話したあと、別れて城の中庭にまで出る。


(さーて、これからどうしようかな)


 とのびをしていると、


「やあやあコマンゾネスくん。婚約破棄は無事に成立したようだね。ではちょっとおれの屋敷まで……」


 と火のハンサムオーランドが出てきて、


「いえ、暑苦しいフィレムロイ家の屋敷より、わがウォラグレイブ家の屋敷のほうがひんやりして居心地がいいと思いますので……」


 と水のハンサムルミエールがそのとなりでクイッとメガネをあげる。


 土のハンサムヴィクトアはうしろで黙然(もくねん)と腕を組んでいたが、ひとつの人影に気づくと、


「おまえら、ちょっとは空気を読め」


 とふたりの首ねっこをひっつかんでズルズルと移動していった。


「ど、どうしたのかしら……」


 コマンゾネスがとまどっていると、柱のかげから、もじもじとした様子でマクシミリアンが出てくる。


「あ、あの、コマンゾネスさま……」


 凛然(りんぜん)たるふるまいを見せていたあの数日がウソのように、指を落ちつきなく組み合わせている。


「ぼ、ぼぼぼ、ぼくと」


 どもりながらもお辞儀(じぎ)をしつつ手をさし出す。


「ぼくと結婚してくださいッ!!」


 コマンゾネスはふうと息をつくと、膝をつき、少年と目線をあわせた。


「あなたがわたくしを慕ってくださること、すごくありがたく思っています。でもあなたは12歳ですから、まだ結婚はできませんわね」


「成人したらすぐにッ!」


「ふふ、ありがとうございます。でもね、あなたはこれから思春期に入って、その数年間で、心もからだも信じられないほど大きく変わります。あの数日でさえ、あなたは立派に成長してみせました。あなたほど頼りになる人はいないと、思ったほど……。でも、これからの数年で、それさえもしのぐほどの変化がいやおうなく訪れます。そうしてあなたの価値観や、その……好きな相手のタイプだって、きっと大きく変わるでしょう。だから……」


 コマンゾネスのその説諭(せつゆ)を聞いた少年は、丸いひとみをさらに丸くして、ふしぎそうに首をかたむけた。


「コマンゾネスさま、あの寄宿舎の火事のとき、ぼくが頭をポンポンしたら『相手のことをよく見なさい』と教えてくださったでしょう。『100人の女の子がいて、99人の女の子がよろこんだとしても、自分の好きなたった1人がよろこばないならその行為は意味がない』というようなことを……」


「そうですね、たしかに、言いました」


「では、思春期を経て、100人の男の子のうち99人が変わってしまうのだとしても、ぼくというたった1人がもし変わらずにいることができるなら、その『きっと価値観や好きなタイプが変わる』というお話は意味をなさないのではありませんか?」


「それは……」


「あのときのコマンゾネスさまの話を聞いて、ぼくは、目のまえのあなたではなくあやふやな『女の子像』とでもいうべき情報をうのみにしすぎたことを、たしかに後悔したんです。だからぼくは、これから、あなたというひとりの人間を見て、話を聞いて、もっともっと知っていきたいと思っています。だからコマンゾネスさまにも……ぼくのことを、ぼくというひとりの人間のことを、見てほしい。ほかの『思春期をむかえて変わってしまっただれか』じゃなく、ぼくのことを」


 マクシミリアンはいつか両足をひらき、しっかりとコマンゾネスに向き合うように立っていた。


「いまのぼくが幼いのは事実です。これから思春期をむかえることもまた事実です。でも、ぼくは、ぼく自身によって『あなたへの想いが変わらないこと』を証明してみせます。物心ついたときからずっと見つづけてきたあなたを、これからも見つづけることを、愛しつづけることをこの生涯をかけて証明してみせます。大人になったそのとき、きっと、あなたを迎えに行きます。それまで──待っていてもらえませんか」


 射抜(いぬ)くような、真剣な視線だった。

 あの聖剣すらも比較にならぬほど鋭利(えいり)で、どこまでも貫いていきそうな、まっすぐなひとみ──

 目のまえにいるのは、自分がずっとこども扱いしてきた、こどもだとばかり思っていた少年ではない──


 コマンゾネスは、どきまぎと自分の胸が高鳴りはじめたことにひどくとまどった。


「あなたを愛しています、コマンゾネスさま。ぼく以上に、あなたを愛せる人など存在しません。だから、ぼくと──結婚してください」


「あ、あの、はい、よろしく、おねがい、します……」


 気づいたら押されて、マクシミリアンののばす手を、とっていた。


「やったぁ!!」


 その瞬間、また年相応のこどもにもどって無邪気によろこぶマクシミリアンに、コマンゾネスは思わず笑ってしまった。


 興奮したマクシミリアンが、タックルするような勢いでコマンゾネスの首に飛びついてくる。

 コマンゾネスはふんぬと首の筋肉だけでそれを受けとめ、そのまま軽々(かるがる)ともちあげてみせると、マクシミリアンはふりおとされまいとしがみついてキャッキャとはしゃいだ。


 その裏で、視界に入らぬようふたりの会話を聞いていたオーランドたちは「あーあ」と笑い合い、またアレクシスたちも出てきて、みなパチパチとあたたかな拍手をしてふたりを祝福する。

 遠くから、「お姉さまァ!」と笑い、さけびながら、ロマンジーナとアンヌがやってくるのが見えた。


 中庭には鳥がやってきてこの世の春を歌う。

 草木が風に揺られてささやかに葉を寄せ合う。

 お城で働く人々の声や音がひびいている。

 城下の人々は、きょうも呼吸をして、生活をしている。


 あふれる生命がいまもここにある(ヽヽヽヽヽ)ことを、コマンゾネスはひとり胸中で誇った。


 異世界の太陽が、中天(ちゅうてん)で、ひときわ高く美しく輝いている。


〈完〉


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すんごい面白かったです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ