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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第四章 マッチョ令嬢、土に埋められるも筋肉でねじ伏せる
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第31話 麗しき人形のようなマッチョ令嬢の妹


 コマンゾネスの家族には母、亡き父のあとを継いだ兄、妹がいるが、4歳下の妹であるロマンジーナはかれんな少女であった。

 髪こそきらびやかな黄金色の長髪で同じだったが、目も顔もくりんと丸く、小柄でほっそりしていたことからずっと「お人形さんのよう」とほめそやされてきた子で、コマンゾネスとはまったく似ていなかった。


 というより、コマンゾネスのような筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)とした体躯(たいく)は父方の祖父のみで、ほかの家族はみな常人なみの肉体しかもっていなかった。

 コマンゾネスの意思の強さをあらわすキリリとした双眸(そうぼう)は父にそっくりであったが、母の柔和(にゅうわ)な容姿を濃く継いだ兄などは「おれもコマぐらいとは言わないまでも、もう少し強そうに見えたらなめられないのになぁ」とこぼすことがあった(兄は家ではコマンゾネスを「コマ」と呼んでいた)。


 妹であるロマンジーナが、12歳となった記念の誕生パーティーの日に、とある事件が勃発(ぼっぱつ)したことがある。

 ある商売があたりうまくコネをつくったことで最近陞爵(しょうしゃく)したとある男性伯爵が、はじめて公爵家のパーティーにお呼ばれしたことで有頂天(うちょうてん)となっていたのであろう、だいぶん泥酔してコマンゾネスに絡んできたのであった。


「まことにロマンジーナさまはお美しい! 12歳でこれなら4年後の成人のころには引く手あまたでしょうなぁ。貴族とはかくあるべしと、私の娘にも口をすっぱくして言い聞かせ、美容には金を惜しまなくてよろしいと日夜はげませております」


 とペラペラと話し、口ヒゲをなでながらひとり高らかに笑っている。

 コマンゾネスはおやと思いつつ優雅にほほえむ。


「身にあまるお言葉、痛み入りますわ。でもご息女のニーナさまも十分美しくあらせられます。将来が楽しみだと我が家でもたびたび話題にのぼりますのよ」


 これはパーティー前に出席者の情報を頭にたたきこんできたコマンゾネスの世辞(せじ)にすぎないのだが、娘の名まえまで知ってもらえていたこと、しかもほめてもらえたことにいたく(じょう)きげんとなった伯爵は、彼女を見あげながら言った。


「ほっほ、コマンゾネスさまも妹君に万分の一でも似ておられたら、女性としての幸せがあったでしょうになぁ」


 ひとの笑顔のなかに、ほがらかな言葉のなかに、ナイフがひそんでいることがある。

 口に出してしまった動揺も邪気もないにこやかな眼前の紳士(ヽヽ)に、肋骨のあいだをぬってすらりと(やいば)を突き立てられたような痛みを味わいながら、コマンゾネスは笑顔を一切くずさなかった。


「わたくしも、そう思いますわ」


 だいじょうぶ、なれている、そう言い聞かせながら、ゆっくり息を吐く。

 すると、そのとなりから勢いよく水が飛んでいって、まるで頬をはたくように伯爵の顔をぬらした。


「酔いはおさめになりました? だれに似ていなくとも、お姉さまにはひとりの人間としての尊厳があり、幸福があります。それどころか、わたくしに万分の一でも似てしまったらこの至高(しこう)の肉体美を毀損(きそん)することになる……。わたくしの愛する家族をこれ以上侮辱(ぶじょく)するおつもりならば、ぶちころがしますわよ」


 妹のロマンジーナが、空になったコップを手に青すじを立てながら笑みを浮かべている。

 ロマンジーナはそのうるわしい見た目に反して少々口がわるく、伯爵は「ヒャア」と小さく悲鳴をあげながら逃げていった。


 あやうく大問題になりかけたものの、先方がしらふに戻っておのれの失言(しつげん)を平謝りしてきたことや、爵位の違いもあったことからどうにかことなきを得た。

 が──


「貴族たるもの、感情をコントロールする(すべ)や、せめて問題になりにくくなるような婉曲(えんきょく)表現を学びなさい。わたくしが言えたものでもないですが、あんな言葉づかいはとてもほめられたものではありませんよ」


 とコマンゾネスはそのあとロマンジーナを叱った。

 ロマンジーナは「だって」とぷくっとその人形のような頬をふくらませている。

 そこでふっと表情をやわらげ、


「でも……ありがとう。わたくしのために怒ってくれた、あなたのその気もちだけは、うれしいわ」


 と心をこめてお礼を伝えると、


「そんなの当然よ! わたくしが世界一大好きなお姉さまのすばらしさがわからないバカどもは、たとえ国王だってぶちころがしてやるんだから!」


 と突撃してコマンゾネスに強く抱きつき、頬をこすりつけてくる。

 コマンゾネスは「あなた反省してないでしょ!」と建前上さらに叱らざるを得なかった。


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