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その悪役令嬢はあまりにもマッチョすぎた  作者: 七谷こへ
第三章 マッチョ令嬢、凍らされて氷の像となりかけるも筋肉でねじ伏せる
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第19話 マッチョ令嬢、朝からスクワットにいそしむ


「お嬢さまァ! ヤケドを治していただいたばかりだというのに、なにをなさっているんですかァ!」


 朝からメイドのアンヌの絶叫が室内にとどろく。

 マッチョ令嬢こと公爵令嬢コマンゾネスは、特製の400キロバーベルをその肩に負って108回目のスクワットをしているところであった。


「わたくしに、もっと、もっと筋肉があれば、あれしきの危険は楽にしりぞけられた……。ベネクトリックスさまと約束した集合時間まで、おのれの筋肉を追いこんでいるのよ」

「お嬢さまァ……」


 アンヌが悄然(しょうぜん)と口をつぐむ。

 コマンゾネスは昨夜の自分のふがいなさへの怒り、そして疲れきっていたとはいえ、悪口への傷心によって泣いているところを6歳も下の弟のように思っているマクシミリアンに見せてしまった恥ずかしさがいまさら湧いてきて、それらを霧消(むしょう)させるために筋トレにいそしんでいるのであった。


 軸として世界樹の枝を採用していることもあってか、コマンゾネス愛用のバーベルはあれほどの大火(たいか)にあっても燃えつきることなく、寄宿舎の焼けあとにそのまま残存していた。

 寄宿舎はちょうど建て替えが計画されており、本来ならば来月の新入生用にと建設していた新宿舎のほうへと、住まっていた生徒たちは急遽(きゅうきょ)うつることとなった。


 あのとき寄宿舎のなかにいた生徒はやはり29名であり、コマンゾネスはひとり残らず救い出すことに成功していた。

 死者はなく、ほとんどの生徒が軽重(けいちょう)問わずヤケドを負っていたものの、聖女であるベネクトリックスの治癒魔法によりあとを残すことなく完治している。

 コマンゾネスが状況を見に行ったときには、みなベネクトリックスのもとへ集まり多大な感謝を告げているところであった。

 そうしてコマンゾネスも、ベネクトリックスの魔法によって、ひたいと両手を治してもらうことができた。


「こんなひどい状態なら、もっと早くいらしてください!」


 そうベネクトリックスに怒られたとき、その叱責(しっせき)にやさしさが含まれているのを感じて、コマンゾネスはなぜだか少し笑ってしまった。

 あまりにも強くなってしまった代償(だいしょう)なのか、身内以外にこうした気づかいを向けてもらえた経験が久しくなかったためである。


「コマンゾネスくん……本当にすまなかった」


 気絶から目をさました火のハンサムオーランドは、コマンゾネスのもとへやってくるとまずそう言って端然(たんぜん)と頭をさげた。


「頭が痛くて、どうも記憶がふたしかなんだが、おれがキミに無礼な発言をし、危険きわまる行動をしたことは、おぼえている。謝ってゆるされるようなことではないが、まずは詫びさせてほしい」


 結果として、人命にかかわる被害は発生しなかったし、寄宿舎については学園に、生徒の負傷については本人たちに謝罪してもらえれば、自分のことは気にしなくていいということをコマンゾネスが伝えると、しばし神妙な顔で会話したあと、ふと晴れやかな表情になったオーランドが言った。


「しかし、悪魔に自分の実力以上のものを引き出されてもなお、キミには完膚(かんぷ)なきまでに負けてしまったな。完敗だ。『相手が女性だったから』などとみっともない言いわけを自分にゆるし、まわりにもふれまわっていた自分のおろかさ……いまは心から恥じている。キミは、ひとりの人間として……おれなんかよりずっと強い」


 そう手をさし出すオーランドは、はじめて、自分という人間と正面からむきあってくれているように、コマンゾネスは感じた。

 そのまっすぐな視線から目をそらさず、癒やしてもらったばかりのてのひらで、力強く握手に応じる。


「戦ったときは強がりましたが、わたくし、あのとき本当はすごくダメージを負っていたんですのよ……。もう少し攻撃がつづいていたら、耐えられなかったかもしれません」


 一瞬キョトンとしたあと、オーランドはほがらかな声で笑った。


「そうか、キミはやさしいな……。その筋肉だけでなく、心までも大きな人だ。キミみたいな人は、いままでまわりにいなかったな……。おれの目はどうやら本当にふしあなだったようだ。おれはもっともっと鍛錬し、強くなるよ。キミに、少しでも近づけるように……」


 目をほそめたオーランドの宝石のような赤いひとみに、いままでになかった熱が(とも)ったことを見とめた第五王子マクシミリアンが、彼女の屈強なふくらはぎにしがみつきながらぷくっと頬をふくらませたのだが、そのときコマンゾネスは


(そろそろプロテインを摂取(せっしゅ)して、睡眠も確保しないと……)


 と運動後かつ就寝前のプロテインタイムに気をとられていた。

 むろんこの世界に現代のような市販のプロテインの粉があるわけではないのだが、大量に買いこんでいる燻製(くんせい)肉──つまりタンパク質──を彼女は「プロテイン」と名づけて定期摂取しているのである。


 また、オーランドにも悪魔に憑依(ひょうい)された前後の状況を聞いたところ、第一王子アレクシスやベネクトリックスと同じく、

「フードをかぶった男が近づいてきたような気はするんだが……」

 と、やはりあいまいにしか記憶がのこっていなかった。


 とはいえ、火のハンサムオーランドもまた悪魔のとりことなったということは、悪魔を召喚し王国崩壊をたくらむ首謀者はこのふたりのうちどちらかということになる。


 水のハンサム、ルミエール。

 土のハンサム、ヴィクトア。


 どちらから調べるべきかと話していたところ、


「アレクシスさまに、おふたりを呼び出していただいて同時に調べてはどうでしょうか」


 とベネクトリックスが発案(はつあん)し、コマンゾネスがたしかにと納得した。


 攻略キャラたちは「ハンサム四人衆」と呼ばれているものの、たがいにそれほど親密ではなく(ゲームではトゥルーエンドを目ざした場合にのみ聖女をきっかけとしてみなが仲よくなっていくのだが、今世(こんせい)ではそうなっていない)、日ごろからいっしょにいるわけではない。

 ともに公爵家で気位(きぐらい)が高いものの、国の第一王子の命であればしたがわざるを得ないだろう。


 そして、片方が悪魔を召喚している首謀者なのであれば、正体をあらわしてその場であばれはじめることも十分に考えられる。

 ハンサムたちの実力はそれぞれが学園屈指(くっし)のものであるが、オーランドも「おれにできることがあれば言ってくれ」と約束してくれたし、のこるひとりにも協力してもらえれば、多少の不慮(ふりょ)事態(じたい)にも応じつつ制圧することも可能だろう。


 第一王子アレクシス、聖女ベネクトリックス、火のハンサムオーランドとこれまでは後手にまわってきたが、ここから攻勢に転じてみせる、とコマンゾネスはスクワットをしながら決意をかためた。

 しかし同時に、ひとつの不安が頭をよぎってもいた。


 水のハンサムルミエールは細長いメガネをかけ、濃いブルーグレーの流麗(りゅうれい)な髪、砂浜と澄んだ海を思わせる白皙(はくせき)の肌にコバルトブルーのひとみ、攻略キャラのなかでは最もスリムな体格で、多くは語らずもの静かにいつも本を読んでいるクールな男性──いわばスマートハンサムである。

 彼とはじめて会った人間は、十中八九が「知的な男性」という印象をもつであろう。


 しかし、少し話をすればわかるのだが、彼はその印象に反して──

 あまりにも独特のユーモアをもつがゆえに、いあわせたものを宇宙猫状態にさせる、という特徴があるのであった。


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