80.表裏一体のトルシア――古き雷竜の暗躍
◆視点:トルシア◆
バタン――
扉が閉まり、部屋に誰もいないことを確認してから、
アタシは一緒に入ってきた小僧――レオリクスへと振り返った。
「さてと、詳しく聞こうか?
あんな茶番をさせたんだし、さぞ面白い話なんでしょうね?」
言いながら、さっきまでの会議を思い返す。
この小僧は、魔法陣を自分で開発したなどと抜かした直後、
何かの魔道具――おそらく自身の体内の竜力と魔力を撹乱するタイプを停止させ、
アタシに思考を読ませてきた。
≪まったく……“庇ってくれたら、貴女も楽しめますよ”とか言ってさ。
そんなの、気になるに決まってんじゃん!≫
もしつまらなそうなら、頭の中を適当にかき回してから、
この洟垂れとつるんでる連中もまとめて、酒の肴にしてやる。
「なにやら、物騒なことを考えていそうな顔ですね」
「べっつに~。つまんなかったらアンタら全員、
玩具にしてやろうかなって思ってるだけだよ?」
「……やはり、気づかれていましたか」
どうやら、察してはいたらしく、
レオリクスはやれやれと肩をすくめる。
「であれば、腹の探り合いはやめにしましょう」
「腹の探り合いねぇ……。
ま、いいや。それで? どうするつもり?」
正直、こいつが何をしようがどうでもいいし、
アタシは面白ければ聞くし、つまらなければ壊すだけ。
≪そんで興味がそそられる話だったら、気絶させて頭の中を覗いてやろう≫
そんな考えが表情に出ていたのか、
アタシの性格を考えてか。
レオリクスが意外な提案をしてきた。
「簡単です。私の頭を覗いてください」
「おや? こりゃ予想外」
「話せば興味を持つでしょう。
どうせ見られるのなら、自分から差し出した方が影響も少ない」
「あ、バレてた?
ま、いっか。アンタがそう言うなら遠慮なく!」
思考パターンまで読まれていたらしいけれど、
向こうが差し出すなら遠慮はしない。
アタシは、屈んだレオリクスの頭に手を置き……集中する。
しばしの沈黙。
部屋には弱い紫電の光がちらついた。
「……なるほどね」
手を離すと、レオリクスがわずかに口角を上げる。
「ご感想は?」
「あとで手ぇ洗って、洗浄魔法かけて、
溶岩風呂に入って消毒する」
「……私は疫病か何かですか?」
「アンタの頭ン中がまさにそれでしょうが……」
これから孫娘に会いに行くのに、
洟垂れ菌が移って、バカになったらどうするつもりだ。
もしそんなことになったら、
アタシはコイツを八つ裂きにする自信しかないぞ。
“普通の竜族”ならまずやらないんだから……。
「小僧、自分が持ち込んだものを理解してんの?
まったく、どこで拾ってきたんだか……」
そして、吐き捨てるように言う。
「――“覇天竜信仰”と“邪神教”の繋がりなんてさ」
本当なら、触れた手を切り落として再生させたいくらいだ。
アイツからも聞いていなかった話だし、後で文句を言ってやろう。
すると、何か勘違いしたのか、
レオリクスは警戒を強める。
「……では、どうするのですか?」
「何もしない」
即答するアタシが意外だったのか、
レオリクスが目を見開く。
「勘違いしてるみたいだけどさ。
“今の段階では”何もしないってだけ」
「……つまり?」
そう聞く小僧に、アタシはわざとらしくため息を吐くと、
少しだけ、釘を刺してやる。
アタシは、古竜の中ですら一部しか扱えない【竜皇覇気】を、ほんのわずかだけ解放した。
瞬間――
「っ……!?」
レオリクスが膝を折る。
その顔には驚愕と恐怖が混ざっていて、
アタシは、小僧を見下ろしながら告げる。
「アタシのお気に入りに手ぇ出したら殺すって話。
小僧のアンタでも簡単でしょ?」
「……家族に、という意味ですか?」
ほう。腐ってても古竜は古竜か。
たぶん今のリオ坊でも、これを直で浴びたら声は出せないだろう。
なのにコイツは、震えながらでも喋れるんだから大したもんだ。
まあ、それだけの話――。
「あれ~? 聞こえなかった?
アタシはさ、“お気に入り”って言ったんだよ?
……洟垂れ小僧」
最後の言葉を言うと同時に、
圧力をもう少し増やしてあげた。
「ぐ……。お気に入り、と言われましても……」
忘れているのかと思い、仕方なく補足する。
「竜皇族関係者は全員だよ。
あとは自分で考えな」
名前を並べるのは面倒だし、
丸投げして問題ないでしょと、【竜皇覇気】を解く。
すぐに床に両手をついたレオリクスは、荒い呼吸を整えていたが、
どうでもいいので、アタシは扉の方に歩いて行った。
≪あれ? これってもっと面白くなるんじゃない?≫
アタシは振り返ると、
息を整え、立ち上がろうとしている小僧を見る。
「それとさ、勇者君いるでしょ?」
「……はぁ……」
「もし何かするならさ。
ちゃんと“成長するようなこと”にしてあげなよ」
「……どういう意味ですか?」
「そこは考えなよ。それができたら、
ちょっとくらい手ぇ貸してあげるからさ!」
アタシはそう言葉を残して、今度こそ部屋から出て行った。
≪ふふっ。
あの子が伸びたら、面白くなるかもねぇ~♪≫
勇者君は、アタシがスキル化させていない【竜皇覇気】を
小僧にピンポイントで放ったにもかかわらず、反応を示した。
若い竜族ではまず気づかない。
この世界に来たばかりの、それも人間ならなおさら。
「どう伸びるかなぁ~?
お婆ちゃん、楽しみにしてるよ。勇者君♪」
そこで名前を聞きそびれたことを思い出す。
≪確かエルシェが勇者君のメイドしてっけ?
それなら、今度会いに行って教えてもらっちゃお~っと!≫
ついでにエルシェと遊ぶのもありかな、と思いつつ静かな廊下を歩きながら、
アタシはこれからのことを考えてくくっと笑った。
しばらく進んだところで、足を止める。
「隠れてないで出てきなよ。
周囲に“耳も目も”ないのは確認してるからさ!」
するとアタシの後ろにある物陰から姿を現したのは、
青みがかった銀髪の筋肉質な男――ガルディアだ。
「それで?」
「お前は口下手か!?
もう少し言葉を足しなよ!」
あまりの淡泊すぎる内容に、ツッコミを入れるが、
今に始まったことじゃないと本題に入る。
「あの小僧に“増禍薬”渡したの、アンタでしょ?」
「ああ」
「理由は?」
「強くなりたいと言っていたからだな」
その淡々とした返答に、少し苛立ち、
アタシは【竜皇覇気】をわずかに漏らす。
「そう怒るな。これをやる」
しかしガルディアは特に反応も示さず、
代わりに小瓶を投げてよこしてきた。
それをパシッと受け取り、睨む。
「アタシは子供か?」
「いらんのか?」
「……いるけどさぁ~」
気が削がれてしまったアタシは【竜皇覇気】を止め、
小瓶から“増禍薬”を三粒取り出し、口へ放る。
「……お前もよく食べるな。
本来は噛まずに飲み込むものだぞ?」
「ん? 最初は不味いなぁって思ったんだけど、
酒のツマミで食べてたらなんか癖になっちゃって!」
意外にコレと合う酒が多くて、
何が一番合うか試しているうちに、単体でもいけるようになった。
≪邪神の力の一部を練った丸薬って言われても、
古竜であるアタシらに、影響があるとは思えないけどねぇ≫
確かに、内側で黒い何かが生まれる感覚はある。
だが、すぐに霧散するからつまらなくて、
最近は食べる頻度を増やしている。
「強くなれるって話だけど、実感ないんだよね。
酒のツマミとしてはまあまあって感じだけど」
「そう思うのはお前くらいだ。
酒で流し込む程度でいい」
えぇ~?
噛み砕くからいいんじゃん、とアタシは思う。




