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テレパシスト

 腹山さんと別れた後、歩君を家に送り届けて俺達二人は署に戻る。


「他のルチル アル・コーン達は無事に何事もなかったようだな。」

任務を終えた署の異能警察の人間が一課の部屋に勢揃いしていた。


星野部長はその中心にいて、一課の人間達の顔を一人一人確認しながら、報告を受けていた。

みんな他の事件や任務は後回しにして、今回の警護に当たっていたらしい。


俺達二人が到着すると、後ろの一番端にいる緑川の細い目と目が合う。

彼女?彼?は軽く会釈すると、また星野部長の方へ向き直った。


今だにコイツの性別がよくわからん。声も容姿も中性的すぎるのだ。



「今回の任務、みんなご苦労だった。しかし、これから選挙が無事に終わるまで異能警察も人員を動員して警護を強固にすることになった。

そこで後藤、お前は明日から日上明日香の護衛を担当しろ。」


「えっ俺ですか!?」

急に星野部長の口から、自分の名前が飛び出してきてビックリしたのか、後藤の声が少し裏返る。


「ああ、他のルチルアル・コーンは別地区の署からそれぞれ人員を出している。ここの署内では今回の任務で能力が適任なのは、お前だと俺は判断した。」


星野部長にそう言われた後藤は目をキラキラと輝かす。

「わかりました! 明日から日上明日香の護衛の任務を遂行してきます。」


「また、ルチル アル・コーンを狙ってる犯人達や組織の様子がわかれば、すぐに報告を上げるように。」


「承知いたしました。」後藤は綺麗な敬礼ポーズを星野部長に見せる。


「みんな今日は急遽、よく対応してくれた。それでは解散だ。」


そう言い終えると星野部長は用事を終えたと言わんばかりに1課の部屋を出ようとする。

その途中で、俺と星野部長の目が合った。


「ああ。お前達も戻っていたか。ご苦労だった。」


「いえ」


「あとこれ、明日調べてみろ。例の怪物について何かわかるかもしれん。」

俺は星野部長が鞄から取り出した資料を受け取る。


「ありがとうございます。」




星野部長からの資料の中身を確認した俺は次の日、東堂を引き連れてB地区最奥刑務所へ訪れていた。


地下深くエレベーターが降りるのを待つ。


狭い空間の鉄で出来た箱の中、男と二人で無言のままの5分間。

蛍光灯の光は暗いし、息苦しいのは地下深いからなのか。


刑務所へ向うこの道中の全てが重苦しいのは今に始まったことではない。

昔からだ。

エレベーターの扉がゆっくり開くと今でも酷く安堵する。


エレベーターが開いた先には大きな固い鉄の扉があるが、異能警察のバッジがあれば独り手に扉は開く。


冷たく静寂な空間にコツコツと二つの靴の音だけが響き渡った。


「お疲れ様です!朝倉先輩!」

元気な声が横から飛んでくる。

小さい子窓からひょこっと長細い顔が出てきた。


「ああ、久しぶりだな。川口」

「たまに先輩の心の中、ラジオ代わりに聞かせて貰ってました。色々と大変そうですね。」


「また、聞いていたのか。よくこんな所から聞けるな。」

「B地区の署内ならギリギリ、俺の能力が届くんですよね。」


こいつはテレパシスト川口。

能力の範囲内にいる人間の心を読んだり、テレパシーで相手に自分の心の声や映像を飛ばすことができる。


川口は刑務所にいる人間が万が一、脱獄しない為に最奥刑務所の警護を任せられている。


川口の能力なら少しでも、脱獄計画を起こそうと思う者がいたならすぐにわかるし、また緊急時に署の人間にすぐに伝えることも可能だからだ。


また川口がいると個人のプライバシーがどうのこうのという連中もいるため、こんな地下深くの最奥刑務所の警護を任せられてる。



「署の中に怪しい人間はいないか?」

「ええ、もちろん。署の人間の心は色々と聞いていますが、みんな真面目に働いていますよ。」


「例の怪物事件の情報がネットに流出した上に、その流出させた人間を特定できないのは身内にその人物がいるんじゃないかとも考えたりしたんだが…」


「でしょうね。なので俺、調べておきましたよ。先輩がそのうち俺に聞きにくるだろうと思っていて。」


「そうか、さすがだな。」

署の中にも心を読める異能者はいる。

しかし、川口ほど広大な範囲を広く聞くことはできない。


普通は同じ部屋にいる程度の距離感じゃないと心の声は聞こえないそうだ。


またそういう異能を持ってるということを知られているが為に、皆から少し距離を置かれてしまうというのが、この異能持ちの可哀想な運命でもある。


…ということで川口から全て聞いた方が手っ取り早かったのだ。


川口はチラっと奥の方の東堂に目をやる。

「この方が例の事件の…」


「そうだ。東堂だ。」

「…」


「何故だろう…この方からは心の声が聞こえないな。」


「えっそうなのか!?」


「あんた、人の心を読むのか?キモイな…」

東堂にそう言われた川口は怪訝な表情を滲ませた。


「…先輩、それより例の囚人へ面会に来たのでしょう?もうすでに準備しておりますよ。」


「あぁ、有難う。助かる。」


俺はそう言いつつ何故、東堂の心が川口には聞こえなかったのか?

それが気になってしょうがないんだが…一先ず保留だ。


川口にもよく分からんようだし。


さて、星野先輩から貰った資料によると身体の細胞を変化できる異能の持ち主

金田雅弘かねだ まさひろ


犯罪歴

殺人罪、強盗致死罪、窃盗罪などなど


俺はもう一度、資料をチラ見すると面会部屋の重たい扉を開く。


ガラス壁の前には椅子が一脚。無機質な部屋の中にポツンと置かれていた。


俺はそれに座る。東堂は後ろで壁にもたれながら、気だるそうに腕組みをして立っていた。


ガラスを挟んだ向こう側の部屋の扉がゆっくり開く。


頭からスッポリ被された上着、男の動きは歩きにくいのか、もたつきながらヨロヨロと椅子へ向かっていく。


金田が椅子に座り終わると、スルスルと上に被されていただけの上着がゆっくり落ちていった。


男の目は大きく肉の中で窪み、鼻の皮はふしだらに垂れ下がっていた。

歪んだ晴れたような唇の中には小さな歯が覗いている。


「あんたに聞きたいことがあって、この時間を作ってもらった。」


「…」


「お前の異能についてだ。身体の細胞を変化できる異能はなかなかいない。それについての特色を色々聞かせてくれ。」


「…」


「お前の異能なら、どの程度まで細胞は変化できる?形は自由自在なのか?」


「…あんたキラキラしてんな。いいなぁ。」


「質問に答えろ。」


「細胞の変化、増殖には限りあるから、自由自在ではないよ。」


「やはり、そうなのか…。しかし、お前のイメージ通りには近づくことはできる。違うか?」


「…そうだ。鋭い爪を伸ばし最も強固で固くもできるし、ナイフのようにだってできる。」


「仮にお前の細胞をお前の体から切り離したとしよう、そしたらお前はその細胞を自由にコントロールできるか?」


「まぁ、多少ならできそうだな。やったことないからわからないけど。」


「ふーん、そうか。」


俺は腕組みをしながら考える。星野部長の読み通り、金田のような自分の細胞を操る異能の持ち主なら、あの怪物を生み出すことは可能なのか?


かなり強力な異能ではないと厳しいな。

死んだ人間まで動かしているし、それに金田の異能はかなり特異な異能だ。


その上で超強力な異能となると…


確率としては低いと考えてしまうな。


「お前の異能はどんな状態で発現したんだ?」


「親が事故で死んだ時さ。車が燃えて、俺だけが生き残った。火で肉が焼ける臭い。あの匂いを嗅いでると頭がおかしくなって…」


「なるほど…」


異能の発現には、本人の性格や意識の底にある無意識の世界が深く関与していると言われている。


今現在、俺達の都市の文明では四次元まで多少コントロールできる技術を身に付けた。


そして異能は四次元の世界まで及ぶ能力もある。

それでは異能は何処から生まれてやってきた能力なのか?


四次元から?いや違う。


三次元の俺らが二次元の世界へ簡単に関与できることと同じように、四次元より上の次元から来ていると考えた方がいい。


今の時代の科学技術でも、その上の次元のことは、よくわからないことだらけだが恐らくは…

無意識の集合体、潜在意識の世界なのではないか?と俺は思っている。


つまり、能力の発現の仕方が類似する、あるいは性格や考え方が同じであれば似たような異能を持っている可能性が高いのだ。


金田から聞き出した情報は犯人像を推測する貴重な材料になるかもしれない。

俺は手帳に、こと細やかに金田の発言をメモに残した。


「今日は付き合ってくれて有難う。聞きたいことは聞けた。よく素直に色々と話てくれたな。」

金田の事前に確認していた人物像とはえらく違うので、少し俺は驚いていた。


「…なに、今日はとても気分が良かったからな。」


金田はそういうと醜い口をニチャーと広げる。


「おい、あんた…」

金田は後ろの方にいる東堂に目を向ける。


「いいなあんた。俺はあんたを見ると安心するよ。たいてい、異能警察という奴らはこういう感じだ。」


金田の肉に埋もれた瞳が大きく光ったような気がした。


「…俺はもう自分の顔も思い出せない。俺はこの世界に生きてることを証明したくて犯罪に手を染めたんだ。お前も同じタチの人間なんだろう? 俺にはすぐにわかる。

せいぜい俺のようにならなければいいな。」


金田はそういうと不気味なぐらい笑い声を上げながら、部屋から出ていった。


俺が後ろを振り返ると東堂にしては珍しく汗をダラダラに流し、金田の言葉に酷く動揺してるように見えた。


「どうした? 奴の言ってることはあまり気にするなよ。」


「…ああ。」

  


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