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◆6-38:シトロフロロ 港湾区画空き部屋(2)

「お前ら、配信のコメント欄の方は確認してたか?」


 降って湧いた話題にシトロフロロが目を瞬かせる。


「コメント欄……ですか」


 シトロフロロから無言で助けを求められたミリィが、同じように、今度は自分のスタッフたちの方を振り返る。

 彼女らは各々何かの画面に見入っていたが、そのうちの一人がミリィの視線に気付き慌てて反応する。


「コメント? 見てたよ。数が多過ぎるから、自動要約アプリ噛ませてだけど。ねえ?」

「う、うん。だって、気になるじゃん。みんな、あのチャイナの子がミリィだと思って適当なこと言ってるんだもん」

「そうそう。ミリィがあんなふうに戦えるわけないのにね」

「それで? コメントはどんなだった?」


 気を揉みながらミリィが続きを促す。

 ヴェエッチャもシトロフロロも話をやめ、彼女たちの方を黙って見ていた。

 だが、話を振られた彼女たちは、何がそんなに重要なのだろうというように顔を見合わせ不思議がる。

 やがてミリィたちの反応を窺いながらポツポツと答えを返し始めた。


「ほとんどは何が起きてるのかっていう、配信映像に関する質問よ」

「あと、ケネス君が喋ってた内容に関する質問?」

「うん。それに事情通っぽい人らが解説を入れてて、私たちもそれを読んで、ああそういうことかーってやっと状況が分かる感じで……」

「ああ、ねー。あれ助かるよねー」


 そこで一旦ミリィが振り返りヴェエッチャの反応を探るが、どうやらそれらは求めていた答えではないらしかった。


「あとは……、大体事情が分かってきたあとは応援が多かったよ」

「応援?」


「分かり易いワルモノが出て来たからね。あの黒い二人組」

「それだけじゃなくて、その後もよ。カップリングちゅうが無責任にあおってぇ」

「えー、いいじゃん。なんで駄目なの? 普通応援するでしょ? 敵対勢力同士の悲劇的恋愛なんて、シェイクスピアの頃からの鉄板じゃない」

「そういうこと言ってんじゃないのぉ。私はうちのミリィが敵の一兵卒のガキンチョにメロメロに惚れてることにされてたのが気に食わないの!」


 最初遠慮がちだった女性スタッフ四人による会話は段々と混沌とし始め、収拾が付かなくなりつつあったが、その脇でシトロフロロがしたりげに「なるほど」と呟いた。

 彼女らとの付き合いが長く慣れっ子となっているミリィも、不毛なカップリング論争を無視して、シトロフロロの小さな呟きの方に食いつく。


「なに? どういうこと?」

「やはり、あの二人が物語の中心だったということですよ。皆が彼ら二人の物語を読み解き、その行く末を祈念していた。……そういうことですよね?」


 シトロフロロの黄金色の瞳に見つめられヴェエッチャは苦笑を漏らす。


「まあな。だが、断っとくがあくまでこいつは、終わった後でこうだったんじゃないかって勘繰るだけの、ただの推論だ。〈F3〉の真意なんざ誰にも分からねえ。話半分で頼むぜ」

「なに? なになに!? そりゃあ私だって二人が上手くいけばいいって思ってたけど……、そういうことなの? 地球にいる人たちも()()()()()()()()()()で応援してたってこと?」


 ミリィの脳裏には、遥か彼方──地球の地で、メランとケネスがいちゃつく様子を食い入るように見つめる地球人プロトアーシアンの様子が描き出されていた。

 二人の恋が成就することを願った不特定多数の集合意識が、様々な可能性を捻じ曲げ、絶対に不可避と思われた両勢力の衝突を防いだなんて──。

 もしそうなのだとしたら……、それは無茶苦茶熱い。超エモい。愛の力が世界を救うなんて……、物語としてはそれこそ鉄板で、ありきたりで、それでいて現実ではとてもあり得ない絵空事だ!


 そのとき、メランとケネスを映すホロ画面の横に、別のワイプがポップする。

 一人いそいそと裏方でスイッチングを繰り返し、配信を支えていたベンが驚いて目を丸くする。


『──あっ。やっと繫がったぁ』


 本来無断で接続できるはずのない配信に割り込んで現れたのは〈ヴォーグ〉のコックピットに陣取るイザベルだった。

 スカイブルーの髪に尖った耳を生やしたスペースヴァンパイア種の少女は大層立腹のご様子である。


『ねえ、ちょっと。あんまりじゃない? メランとケネスのことばっかり持ち上げてぇ。私だって……、私の超すっごいアンチMフィールドがなかったら、みんな今頃宇宙の塵になんだからね? もっと私のことも褒め讃えなさいよ』


「もちろんです。イザベルさん。リューベックの防衛に関わった全ての人たちには、のちほど連盟政府より功労を讃える式典が催されるしょう──」


 シトロフロロが空かさず場の取り成しを図るが、その顔に覆いかぶさるように別のワイプがポップして二人の会話を遮った。


『おいおーい。俺たちのことも忘れてもらっちゃ困るぜぇ。リューベックが物理的に被弾しなかったのは、俺らが敵を射程圏外に追い払ってやってたからだぜ。なあ?』


『タウネル的には全面的に同意であります。此度の戦いでは不肖もう一人の私めが、イザベル嬢のために粉骨砕身の働きであったとか』


『ねえ、僕もー。僕も頑張ったんだよ。ねぇ?』


 新たなワイプがポップするたび、スイッチャーのベンが「わっ」「ちょっ」などと慎ましやかに悲鳴を上げて対応に追われる。


『ケネスさん? お聞きですか? こちらも無事でしてよ。外はちょっと焦げ臭くなっておりますが、いつ戻っていらしても大丈夫なように片付けておきますからねー』


 ドッドフのワイプの上に被さって現れたのはヘルハリリエ。彼女の後ろにはムンドーやマヤアら、他の子供たちの姿もあった。


「一体どうなってるんです? これ。さっきから次々と。入力の接続チャンネルはロックしてあるはずなのにー」


 ベンが堪らず両手を上げて叫んだ。

 そんな彼の目の前にまた別のワイプが開く。

 岩石によく似た如何にも硬そうな頭部。面識のないベンは知る由もないが、M理研の研究員でサラウエーダの助手を務めるソリド族のナパであった。


『あ、それ僕です。イザベルさんがどうしても繋いで話がしたいって言うんで。あと、どうせみんな話したがるだろうと思って、枠いっぱいまでオープンにして、チャンネルナンバー公開にしておきました』

『やっぱり貴方のしわざだったの、ナパ君。すぐに戻しなさい!』


 能天気、かつ自慢げに語るナパの首を後ろからむんずと掴んだのはサラウエーダ。

 何かの拍子でカメラが動いてずれ、その様子を近くで傍観していたネムリが画面中央に映り込んだ。

 彼女自身は自分が映り込んだことに気付かず──いや、気付いているのかもしれないが──騒ぎも一切意に介していないかの様子で眠たげに目を細めると、くわぁーと大きな欠伸あくびを漏らした。

 その画面が一瞬フェイドして切り替わり今度はアキラの顔が接写で映る。


『あ、しまった。消そうとしたんだけど。ナパさーん。これどうやったら接続切れるんですかぁ?』


 それからはせきを切ったように、無数のワイプが次々にポップし始めた。


『あーあー。聞こえますか? テストテスト──』

『ねえ、もっとケネス君を映してよぉ──』

『そうだ! 彼らの話に戻せ──』

『シトロフロロ。応答しろ、シトロフロロ。ああっ、まったくミャウハ族の名前は呼びづらくてかなわん──』

『ちょっと私ぃ! 私を映してって! どんどん下に埋もれていっちゃうじゃないっ──』

『この配信は宇宙の外なる存在によって監視されている。危険だ。即座に通信を切りなさい──』

『マヤア! そこにいるのはあなたなの、マヤア? ああ、私てっきり──』

『ミリィの生ステージはぁ? わたし2時間前から子供と一緒にサイリウム持ってスタンバってるのに──』

『おい、そこの鶏冠とさかの奴! てめぇさっきは無茶苦茶やりやがって。組織を通じて正式に抗議するからな──』

『サラウエーダ君。いるんだろ? 出てきて事態を収拾したまえ──』

『これって、映画のプロモーションですよね? ちょっとやり過ぎっていうか、ドキュメンタリー枠で取ってるんなら普通にルール違反じゃないですか?──』

『あのぅ僕、地球人です。遠くで観てることしかできなかったけど、ずっと応援してました──』

『わたくし銀連日報の者です。先ほどのシトロフロロ氏の発言は、ベルゲンのご遺族の心情を──』

『すみません。是非とも確認しておきたい疑問があって。ミリィ・クアットさんの双子のお兄さんというメラン氏は、兄……、つまり、男のかたなのでしょうか?──』

『いぇーい! みんな見てるぅ?──』

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