50 おっと
教会から少し離れた路地裏で、先程の青年と落ち合った。
「あ、思ったより早かったね! どうだった?」
彼は仔犬のように目を輝かせ、こちらに走り寄って来た。
私が残念そうに首を横に振ると、その勢いは失われ、わかりやすく萎れてしまった。
「貴方と同じ顔の女の子は、とりあえず見つからなかった。それと厄介だと思ったのが、あの人達は個人の名前をあえて聞かないようにしているらしいの。だから名前を聞いて回ることも、無意味かもしれない」
「え?」
「そういう教義らしいのよ」
なんだそれ、とぼやく青年に、有益な情報が持って来られなくて申し訳ない、と少し思った。
「でもまぁ、今日入った場所にいなかっただけかもしれないし。私達、また教会に行くつもりだからさ、もし見つけたら連絡するから」
「ほんと!? ありがとう。いきなり頼んじゃったのに親切にしてくれて……君、優しいね」
彼は私の両手を取って握りしめた。
なんだか、顔が近い。
「君、名前なんて言うの? どこに住んでる?」
「えっ……えっと、」
「……あ、あ、あおああ、あの!」
私が返答に困っていると、さっきから全然会話に入っていなかった晃栄が声を震わせながら、私と彼の間に割って入った。
「あ、君、いたの? 何?」
「て、て、て、はな、はなして」
「なんで? 君、この子のなに?」
(はい、不敬罪ーーー! 一兵卒が王太子殿下に向かってなんて態度ーー!)
当然、彼は殿下の身分は知らないとはいえ、冷や汗ものだ。まぁ自分も、不敬罪と言って他人を断罪できるような立場ではないのだが。
殿下は彼の態度には言及せず、握られた手に自分の手をかけて解かせた、
「お、お、お、お、おっと……」
「あぁ、弟か。姉ちゃんに触って怒っちゃった?」
もうこれ以上勘弁してくれ、と堪らなくなって、私は割って話題を切り替えた。
「私は、香香。こっちは、晃。家には内緒で出て来てるから、場所は教えられないの。ところで、貴方の名前も教えてよ」
「……ま、いいや。俺は、琉玖」
「琉花と琉玖ね、覚えたわ。ところで、城の兵士って言ってたけど、所属はどこなの? もし情報があったら、そっちを尋ねるわ」
「え、俺の所属? 王城警備第三部隊九班だけど……普段は城内担当だから、君たち入ってこれないと思うよ? それよりも、家に来てくれた方が助かるけど」
それから琉玖の言った自宅の場所を聞いて、私と晃栄は目を見合わせた。
ーー三番通り三つ目の角のかんざし屋。
そこは確か、武大臣と会う際に指定された店だった。




