23 御前会議
「御前会議?」
「国王の下、月一回行われる要職の定例会議です。殿下も十五になってから勉強のために毎回その場には参加しています。青妃も王太子妃として、是非ご一緒に」
ただそう言われるがまま、晃栄殿下と共にこの城最大の広間に席を貰っていた。そうは言っても、あくまで殿下の後学のために今は"参加させていただいている"体であり、発言権があるわけではなかった。あったところで、自分の立場から言えるほどの何かを持ち合わせているわけではないけれど。
所在なさを感じながら、隣の殿下に目を向けるとーー……こっくりこっくりと船を漕いでいる。
「……ちょっと、起きなさいよ! こらっ」
小声で叱りながら、彼の太ももをつねりあげる。結構力を入れているのだが、それでも状況は変わらなかった。こないだといい、やたらと眠りが深いのかなんなのか。
私が殿下の対処に悪戦苦闘していると、急に広間がざわつき始めた。
「……なんだポォン。菖将軍、もう一度言ってみろポォン」
国王からそう言われた軍部の偉い人は、王に凄まれても怯まず真っ直ぐ王座を見据えて言った。
「は。何度でも申し上げます、陛下。目下、我が軍の兵の流出が続いております。その背景には若者を中心に拡がりを見せる阿銅羅教が関わっており、信者となった兵士たちは隣国の東龍国へ流れているとの噂もあります。この状況を見過ごすことはできません。ただちに阿銅羅教を規制し、流出を止めないと近いうちに大変なことが起きます」
「……兵士の離反が相次ぐのは、将軍の能力不足ではないのかポォン。自分の無能を棚に上げて阿銅羅教のせいにするとは、将軍とは名ばかりの小物だポォン」
「兵を繋ぎ止められなかったことは、私の不徳といたすところであると重々承知しております。しかし、軍は全体主義。個人主義を推進する阿銅羅教を無闇に拡げることが、どうして国の利益となり得ましょうか」
阿銅羅教。あの、誕生日会でいきなり演説みたいなのを始めた宗教だ。その時は、ちょっと不気味だと思った。その後、お悩み相談に乗ってもらった時は、むしろ自分個人としてはすっきりして感謝すらした。あの宗教が、国家を脅かしていると、目の前の将軍は訴えていた。
しかし……東龍国? そんな話は、自分は聞いたことはなかったが。
「軍だけでなく、一般市民にも阿銅羅教の影響は及んでいると聞きます。このままでは我が国の国力は著しく衰退し、他国に潰されてしまうでしょう。御父上である前国王が築き上げた豊かなこの国を、どうか取り戻していただきたい」
"あの教えを皆に広めたら統制が取れなくなるのではないか"
それは、私も同じように考えていた。後宮内でこそ大した影響は感じられなかったが、まさに自分が危惧していたことが、既に他の場所で起こってしまっていたのだ。
「朋が、父よりも劣っているというのかポォン」
「そうは申しておりません。ですが、陛下の御父上も御母上も、大変ご立派な方であられました。陛下もそれを継いでくださるものと信じてお仕えして参りましたが……その女が来てからというもの、国がだんだんおかしな方向へ進んでいると感じております」
将軍は、国王の隣に座る女を指さした。国王の隣ーー本来であれば王后が座るその玉座に、さも当然であるかというように由貴妃が座っていた。
広間は鎮まりかえり、彼らの応酬を固唾を呑んで見守っていた。先程までうつらうつらしていた殿下も、いつのまにか目を開いてその状況を見つめていた。
「わ、私でございますか……」
由貴妃はかすかに震え、今にも消え入りそうな声で答えた。
「由貴妃、阿銅羅教をこの国へ持ち込んだのは、貴様であるな。我が国王を誑かし、何を企んでおる。阿銅羅教に限らず国政の私物化、専横。貴様は我が国を滅ぼそうとしているのではないか」
広間の面々から、ぽつぽつとざわめきが広まり始める。
「そ、そうだそうだ! お前はこの国に災いをもたらした」
「この厄病神が」
「王后陛下の席に堂々と座る薄汚い売女め!」
由貴妃に対する罵倒は次第に大きくなり、怒号のようにこの場を埋めつくした。
「ひ、酷い……私は、そんな……」
よよ、と由貴妃は身体をふらつかせ、国王にもたれかかった。そんな彼女を支えた国王は顔をみるみる紅潮させて、身体にぐっと力を入れたのがわかった。
「黙れポォン!!!!!!!」
国王が誰よりも大きく叫び、その席を立ち上がった。その振動は凄まじく、声が止んだあともビリビリと鼓膜が震えているように感じる程だった。
ざわめいていた空間が、水を打ったように静まり返る。
「ゆ、由貴妃は……朋のために、阿銅羅教を紹介してくれたんだポォン。国王を継いだけど上手くいかなくて自信を失っていた朋を励まし、立ち直らせてくれたのは由貴妃と阿銅羅教だポォン。彼らがいなければ、もっととっくに朋は潰れ、この国も潰れていた。彼女には感謝こそすれ、罵倒するなんて言語道断だポォン! ポォンポォン!」
真っ赤な顔をして唾を飛ばしながら叫ぶ国王は、まるで頭から蒸気がシュッシュと吹き出ているようだった。
台詞だけ聞けば、まるで物語の主人公のようだ。気弱そうで儚げな由貴妃は、口元を袖口で覆い、うるうるとした瞳で国王を見つめていた。




