5.エマ・フォスター嬢
拙い文章ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
「ダン?」
「あ…」
「先月お会いしたのだけれど、忘れてしまったかしら?」
まさか本当にエマ・フォスター嬢に会えると思っていなかったダリウス王子は、彼女に声をかけられ、姿をみて言葉が詰まってしまった。
「い、いえ。貴女のような美しい女性を忘れるはずがありません!」
「美しいかは分からないけれど、覚えていてくれて嬉しい!」
彼女はにこりと笑うとダリウス王子の手を取り、自分が座っていた木陰へ引っ張っていった。
「あ、あのエマ様」
「様?私の事は呼び捨てでいいのよ?私もダンって呼んでいるし」
「でも、俺なんかが呼び捨てにするのは…」
「なぜ?私は貴族じゃないし、貴方の方が年上でしょ?」
だから呼び捨てにしてちょうだい
彼女は笑顔でそう言うと、バスケットの中からアップルパイを取りだしダリウス王子へと差し出した。
「これは?」
「私が作ったアップルパイよ!お口に合うと良いのだけれど?」
「食べても?」
「勿論よ!貴方とまた会えたら食べて貰おうと思っていたの」
「!?」
この国で異性へ何かプレゼントをするのは「貴方に好意があります」と伝える手段の一つだった。
「そんな…俺なんかに…こんな事をしたら勘違いされてしまいますよ?」
「勘違い?…あ、私ったら!」
彼女はふっくらとした頬を赤く染めると、顔を反らしうつむいてしまった。
広い背中を抱き締めたい衝動をダリウス王子は抑え、彼女に声をかけた。
「エマ?」
「あ、あの、私っ」
「スミマセン…俺なんかが貴女に、と勘違いしてしまって。気持ち悪いですね」
「気持ち悪くないわ!」
彼女は「貴方とても痩せてるから心配なのよ」と言うと冷えたミントティーをダリウス王子へと渡した。
「はい!とにかく食べて飲んで!」
「いただきます…」
それは、さくさくとして程好い甘さと酸味のとても美味しいアップルパイだった。
ダリウス王子が「とても美味しいよ」と笑うと、彼女は嬉しそうに笑った。
二人は日が傾くまで話し、ダリウス王子は彼女をフォスター商会まで送り届け城へと戻った。
◆
ダリウス王子は城へ戻ると騎士団寮へと向かった。
コンコン
「クレートいるか?」
「はいはい居りますよー」
「すまない少しだけ話をきいてくれ!」
「ど、どうぞ中へ」
ダリウス王子の見たこともない様子に驚きながらもクレートは自室へ招き入れた。
「俺は恋をしてしまった」
「…ん?」
「先月の視察の時フォスター商会のエマ嬢に会ったんだ。彼女は俺を気持ち悪く思わないどころか綺麗な瞳だと言ってくれた」
「はい、でもそれって先月の話ですよね?」
クレートは暖かい紅茶をいれるとダリウス王子へと渡し、自分も椅子に座るとそう言った。
「そうだ、それで今日また出会った場所にいったらまた彼女に会ったんだ」
「それは良かったですね」
「それでだ!彼女…俺にアップルパイをくれて…俺に会えたら食べてもらおうと思っていたと」
「おぉ!」
クレートは身を乗りだし王子にそれでそれで?と聞いた
「勘違いしては駄目だと分かっているのだが、俺の手を握ってくれたり頬を染めている姿を見るととても愛しいと思ってしまって…もしかしたらと」
「王子…エマ・フォスター嬢は素晴らしい方だと俺も聞いたことがあります。見た目で判断はせず、平等に優しいと」
「そうだな…」
クレートの言葉に王子は項垂れた
「でもですよ、手を握ったりって普通しますか?しかも、王子と夕日を見るまでずっとお話をされていたと」
「あぁ」
「それはもうデートですよ!」
「そ、そうだろうか?」
「ダリウス王子!週に一度その場所に行きましょう!そして仲を深めましょう!」
両陛下がエマ・フォスター嬢を次期王妃に迎える事を考えているという噂は城内では有名であった。
そしてイーノス王子も視察で彼女に目をつけ、自分が彼女に選ばれると思っていることも有名であった。
しかしクレートはダリウス王子派の人間である。
可能性がゼロでは無いことがわかった今、是非彼女にはダリウス王子を選んでもらいたいのだ。
「ダリウス王子!頑張りましょう!」
「あ、あぁ!やるだけやってみるさ!」
騎士団員全員にダリウス王子の恋が知れ渡ったのは翌日、そして全員が応援した。
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