本日のおすすめ『魚肉ソーセージ』
はぁ……酒飲みたい……あそこいこうかな。
ぬいぐるみみたいな小柄な女性が腰を叩きながら船を降りた。
久々のソーランの港町は大きな鮫が吊るされていて何故かざわついていた。
「ルーシアさんお迎えに上がりました」
「……強制連行ですか」
ぬいぐるみは迎えに来た青い髪の美男子にたじろいだ。
「逃げられるとモフモフできませんから」
「……まさか、あの子をモフってないよね? 」
嬉しそうに白いフワフワの頭を触っている美男子に半眼になって見上げた。
私はあなたしか興味がありませんからと美男子は女性の手を握って歩きだした。
仕事もしなくちゃだけど……今日は酒飲みたーいとおもった女性であった。
ソーランの商工会は港町にほど近くにある。
会長は綺麗なエルフでファーセスという男である。
ルーシアはソーラン産の魚介類の加工食品の営業をしていあまりソーランに帰ってこない羊獣人である。
時空保存パックの普及で新鮮な魚介類が保存できる世の中となったが加工もまだまだ需要があるのでルーシアは世界中はおろか明正和次元まで駆け巡っているのである。
ソーラン商工会は潮風に対応するように石と漆喰のクリーム色の四階の建物である。
南国の花々の鉢が置かれた入口を入るといっせいに目線がこっちを向いた。
「会長おかえりなさいませ」
甘い口調で事務員のジリアンが挨拶した。
客の私は無視かよとルーシアは内心ため息をついた。
「ジリアン君、応接間にお茶を持ってきてください」
美貌のエルフはルーシアの手をつないだまま微笑んだ。
ジリアンが目を吊り上げた。
ジリアンをはじめ美貌のエルフファーセスを狙う女は多く彼に執着されてるルーシアは大変迷惑をかけられているのである。
「さっさと終わらせて酒のもう」
白い羊獣人は大きな窓から家が連なる様子を見てため息をついた。
商工会議所の応接間は茶色のソファーセットにガラスのローテーブルの一般的なものである。
ソファーに向かい合って二人は座った。
「それで加工食品の売れ行きはいかがなのですか?」
「低迷中ですね」
ファーセスが真面目な顔で聞いた、ソーランの主力商品はやはり魚介類の加工品なのである。
最近では輸送技術も発達し缶詰や瓶詰めもなかなか売るのも大変なのである。
まあ、便利食材であるのでそこそこ売れて入るのであるが新規開拓をせねば先細りの稼業ともいえよう。
軍部に食い込めればレーションなどで大量購入もありうるのだがと話しているとジリアンがお茶をいれて応接間に入ってきた。
「羊なのだから枕営業でもすればいいのに」
お茶をおきながらジリアンが小さい声で嫌味をつぶやいた。
羊の枕営業ってあれか? 眠れない営業相手に羊枕として添い寝でもしろってか?
「羊枕……」
ルーシアは呆然とつぶやいた。
「羊枕を味わった人がいるのですか? 」
ファーセスが嫉妬に駆られた目でルーシアを見た。
「そんなことしません」
「よかった」
もしもそんなうらやましいことしている人がいたら嫉妬にかられて報復するところでしたとファーセスは爽やかに微笑んだ。
恐ろしいエルフだとルーシアは内心冷汗を流した。
結局、その日は方針は決まらず、ファーセスに私も羊枕してもらいたいですといわれて大ダメージのルーシアは当初の予定通り坂を登った。
とりあえず酒を飲みたいのである。
キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。
安くてそこそこ美味しい魚料理と白いモフモフなハーフ羊獣人でのほほんな店主に癒されに世界中から常連客がやってくるのである。
「モフモフで悪いかぁ」
カウンターで白い羊獣人がくだをまいた。
「落ち着いてください」
カウンターの中のキッチンでやっぱり白い羊獣人がワタワタと慌てている。
カランカランと鈴がなって開いた扉のところで赤毛の傭兵は固まった。
「いらっしゃいませ〜」
愛しい店主は確かにカウンターの中にいる。
だがあの後ろ姿は……誰なんだ? 母上様なのか? とラウティウスは思ったのである。
「傭兵さん、俺も入りたいからさっさとしてくれよ」
「あ、ああ」
後ろから声をかけられてラウティウスは我に返った。
「おひさ〜ルーちゃん」
ピエアシールがラウティウスの後ろから顔をのぞかせた。
「……ピエアシール君じゃないの、王都に行ってたんじゃないの? 」
カウンター前の羊獣人が顔を上げた。
ビールの大ジョッキが半分以上減っている様子が見えた。
「仕事でな、それよりまたいじめられたんか? 」
「いじめ……いじめというか……どうせ私はモフモフよ〜羊枕って何さ〜」
カウンターにふせてわめく白い毛の塊は酒豪だった。
「おばちゃん、お酒ばっかり飲んでると肝臓に悪いです」
店主あそう言いながら魚肉ソーセージを切り出した。
フライパンで斜めに切った物を焼いた。
「店長の叔母上殿なのか? 」
ラウティウスがカウンターに腰掛けて店主を見た。
「すみません、ご迷惑かけて……母の末の妹なんです」
モフモフっぷりが似すぎてるって評判でと店主はよく間違えられるのである。
ただし例の執着エルフのファーセスは別である。
皿にサラダ菜をとトマトをおいて色が色々ある焼き魚肉ソーセージを盛りつけてマヨネーズに一味唐辛子を振ったものを出した。
「はい、フォーク持ってください」
「アドちゃんママみたい〜」
グダグダなモフモフはフォークを持って魚肉ソーセージを口に入れた。
かっと目を大きく開ける。
ウソ……これなに? 普通の魚肉ソーセージじゃないの?
ルーシアはかなり大きな声でひとりごとを言った。
そのまま無言で魚肉ソーセージを食べ尽くした。
「ねー、アドちゃんこの魚肉ソーセージさ」
「魚のすり身作りすぎたので手作りです」
店主はラウティウスとピエアシールにお冷とお手拭きを出した。
「ち、チーズとかカータシキ風スパイスとかナッツとかハーブとか入ってる? 」
「アレンジしてますから」
店主はにまっと笑った。
実はほぼ一年中出張しまくり家も別にあるルーシアが帰ってくると聞いたので店主は昨夜から仕込んでいたのである。
幸い魚の落とし揚げでたくさん作った魚のミンチが残っていたのでそれをつかう。
それに卵白と生クリームと塩をいれてフードプロセッサーにかける。
ミンチを小分けにしてタイムやパセリ、レモンのハーブ味やダイス状態び切ったチーズ、カータシキ風スパイス……つまりカレー粉……やアーモンドやクルミを砕いたナッツ類をまぜる。
それぞれを細長くソーセージ状にしてラップで空気が入らないようにくるむ。
それを蒸して冷蔵庫で保存して準備万端、くだを巻きに来るモフモフな叔母を待っていたのである。
食品加工品の営業の仕事をしている叔母はきっとこういうの好きだろうとサプライズ? を仕掛けたのであった。
「そうかぁ……付加価値をつけて売り出すのも可かぁ~」
ビールを飲み干しモフモフ叔母はしみじみ大きな声でつぶやいた。
「ぜんぜんつぶやいてねぇよ、ヌイ、俺もその魚肉ソーセージくれ」
それとビールなとピエアシールが呆れた目でルーシアを見た。
「俺は……魚肉ソーセージも気になるんだが……めしもんがいいなぁ」
「魚肉ソーセージの天ぷら丼なんかいかがでしょう? 」
店主は魚肉ソーセージを切りながら答えた。
それとハチミツ酒をとラウティウスが注文したところで叔母モフモフはキラリと目を光らせた。
「天ぷらもいいわね〜あとはどんなのがあるの? 」
「えーとグラタンとか……炒めものとか……」
アボカドとライスペーパーに包んで揚げたりとか考えてますと店主がキラキラした目をした。
ワーカホリックな似たもの叔母姪モフモフとピエアシールは思ったかは不明である。
カランカランと鈴がなって二人入ってきた。
「いらっしゃいませ〜」
「店長ちゃん、ルーシアさん来てる? 」
エルフの商人ピアナがファーセスと連れ立ってきたようである。
「来てますよ」
魚肉ソーセージを揚げながら店主は叔母モフを見た。
「ルーシアさんー」
ファーセスはピアナを押しのけてルーシアに飛びつこうとしてラウティウスが腕をあげおさえた。
女性に抱きつくのは許可をもらってからと言うグーレラーシャ男の教えで思わず動いてしまったのである。
店主とそっくりな白いモフモフを他の男に抱きつかれるのは嫌だったのもあるのであるが。
「ありがとう傭兵さん」
ルーシアは手を組んだ。
好みど真ん中の細マッチョが隣にいたとラウティウスに見とれるルーシアである。
「いや……」
好意を持たれるなら店主が良いと思いながらなおもルーシアに近づこうとするファーゼスを押さえるラウティウスであった。
「なんで邪魔するんですかー」
「ファー、人の迷惑考えなさいよ」
ポカっと軽くファーゼスを叩いてピアナがルーシアの隣に座った。
あ~そこはーと騒ぐファーセス、まさに鳶に油揚げさらわれたである。
「ルーシアさん」
「なんのようですか? 」
ラウティウスに見惚れてたルーシアが嫌そうな声を出した。
「その傭兵さんは何ですか? 」
「私の恩人で想い人かな~」
酔っ払いルーシアはあっけらかんと答えた。
一瞬店内が静まり返った。
そうか……ルーちゃんってこう言うタイプが好きなのか……とピエアシールがつぶやいた声が妙に大きく聞こえた。
け、けけとファーセスが不気味な声を上げる。
「決闘だー」
ピアナの向こうからファーセスがラウティウスに指を突きつけた。
「断る、俺が好きなのは違う人だからな」
ヘタレの傭兵はちらっと想い人の店主を見てハチミツ酒にハチミツをハニーディスペンサーからたした。
「なんだーちぇっつまんないの~」
酔っ払いモフモフはブツブツ言いながら酒を飲んだ。
「ルーシーちゃん、うちのアホが迷惑かけてるわね〜今度ヌツオヨ大陸に行こうと思ってるの」
ピアナが私も魚肉ソーセージセットとワインと注文してルーシアに向き直った。
「ヌーツ帝国かぁ」
ヌツオヨ大陸にはかつてたくさんの国があったが先々代統一皇帝の時代に統一されヌーツ帝国のみになったのである。
「一緒に営業に行かない? 」
「うん、考えとくよ」
ルーシアは魚肉ソーセージをつまんだ。
アホってなんですか〜と騒ぐファーセスに騒ぐなら追い出すって言ったわよねと指を突きつけた。
「魚肉ソーセージの天ぷら丼お待ちどう様」
ラウティウスさんの想い人ってこの間の綺麗な黒髪の傭兵さんかなと店主は思いながらどんぶりをカウンターにおいた。
そう考えると店主は少しだけ胸が痛い気がした。
「うまい」
ラウティウスは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔にドキドキしながら店主は次の料理に取り掛かった。
「アドちゃん〜今夜泊めて〜」
酔っ払いモフモフの脳天気な声で言った。
私、もしかしてラウティウスさんのことが……
よ、よくわかんないけど好きな人がいる人なんて不毛だよね。
そんなことを思いながら店主はおばさん歩けなくなる前に部屋行ってくださいと答えた。
☆本日のおすすめ☆
自家製魚肉ソーセージ
いろんなお魚を使ってます。
チーズとか美味しいですよ。
自家製なのでアレンジ可能です、明太子とか入れてもいいかもしれないですね。
既製品の魚肉ソーセージ美味しいですよね。
結局おばさんはしばらく泊まりました。
今度ヌーツ帝国に営業に行くので変わったスパイスとかお土産に買ってきてもらいたいです。
帝都の下町に有名な小料理屋『ハナミズキ』があるんですけど……いつか行ってみたいです。
……ラウティウスさんを見るとドキドキします
……想い人がいる人がいる人なんて不毛ですよね。
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ