閑話 彼女と彼女の日常生活?
閑話? です。
よーし商品が売れたら今日はあそこ行こうっと。
小さな鱗をきらめかせてマーマン族のオルフィアはにまっとした。
「綺麗な細工ねぇ」
観光客らしい中年夫婦らしい客がオルフェアの屋台で足を止めた。
男性の方がマーマン族の細工が有名と聞いたけど素晴らしいなと関心したように言った。
「いらっしゃいませ」
オルフェアは愛想笑いを浮かべた。
観光客は金払いよい客である。
集落のみんなが丁寧に作った真珠細工に目を輝かせる中年観光客夫婦? の女性にそっとペンダントを差し出した。
この店で一番高額の部類の商品で真珠層に美しい幾枚もの花びらを重ねたような彫刻が施されている。
「こちらなんてお嬢様にお似合いですよ」
「まあ、お嬢様だなんて」
女性は両頬に手を当てた。
君に似合いそうだねと男性が穏やかに微笑んだ。
これは行けると思ったオルフェアはセールストークを展開したのであった。
キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国にある港町ソーランの港は朝早くから市場がたちにぎやかだ。
「さてと何を仕入れますかね」
アドリアナは背中にリュックを背負ったまま市場のトロ箱をのぞき込んだ。
根っからのソーランっ子で食堂店主のアドリアナは仲買人の資格がありソーランの市場にも入れるのである。
「アーちゃん仕入れか? 」
八百屋『野菜の恵』店主の息子のミーシャルトが野菜の箱を台車に乗せて通りかかった。
魚市場の向こうが青果市場になっておりよく会うのだ。
「おはようございますミーシャちゃん、良い所で会いました、キャベツとピーマンと玉ねぎお願いします」
アドリアナがポンっと手をたたいた。
一般女性なアドリアナにとってソーランの坂がちな地形を大荷物を持って運ぶのはきついので野菜は頼むことにしているのである。
それにミーシャルトは坂を動けるリアカーをつけた自動二輪車持ってるのでたくさん運べるのである。
「おう任せとけ、いつもの量でいいか? 」
「はい、それでお願いします」
アドリアナはミーシャルトのリアカー付き自動二輪車をうらやましそうにみた。
坂がちなソーランは細道も多く自動車がなかなか入れないところも多い。
鈍くさいアドリアナは自動二輪車は無理で自転車も自動車も乗れないので乗り合いの超小型バスか歩きなのであった。
幸い『飛ぶ羊亭』は港に近い方なので仕入れは歩きである。
そのためお届けサービスはとことん利用するアドリアナであった。
「穀物屋にもよらないとですね」
アドリアナは最近出始めた時空保存袋に入れた魚介類をリュックサックに詰めながらつぶやいた。
時空保存袋とはある程度まで生鮮食料品の鮮度が保てるトスモル技術国が明正和次元という付き合いのある異世界の時空保存パックの会社から技術提供を受けて開発したものである。
本家のものより保存期間は短いが容量が二倍入るタイプもあり業務用としても重宝されているようである。
重さは軽減が入ってるのであるが単純に半分にならず三分の二くらいの容量の重さのようである。
『飛ぶ羊亭』で使用するパンは実は店主の自家製である。
母親がかつてプチホテル時代に焼いていたホテルメイドのパンや調理師学校や自ら研究した世界各国のパンを焼いていて近所の人や知ってる観光客がパンだけ買っていくことも多いのである。
また、ご飯とパンを提供しているので穀物の仕入れは必須なのであった。
ソーランは港町なので倉庫が立ち並ぶ一角がある。
そんな倉庫の近くに『アマネ穀物店』というそこそこ大きな店があった。
「こんにちは~」
自動ドアから入りながらアドリアナが挨拶すると穀物袋の前で腕組みしていたエルフの男性……店主のアマネウドが振り向いた。
「いらっしゃい、飛ぶ羊亭さん」
アマネウドが愛想笑いを浮かべた。
「お米と強力粉をいつもの量届けていただけませんか? 」
アドリアナはアマネウドの背後の山と積まれた袋に目を奪われながら答えた。
「かしこまりました……ああ、これですか? 在庫処分の高級薄力粉なのですが……」
「高級薄力粉? 」
アマネウドが注文票を書きながら袋の山に目線を送った。
「安かったもので、飛ぶ羊亭さん薄力粉もいかがですか? 勉強しますよ」
アマネウドが計算機でこのくらいでいかがですかといつもより安い値段を表示した。
なんでも高級菓子店や麺店が使うヒデルキサム大陸のシュホリド耕作国産の高級小麦粉なのだが輸入元が在庫処分で安く売り込んできてついつい買ってしまったらしい。
薄力粉の使い道は天ぷらや竜田揚げ等色々あるがメインで出した事はないですねとアドリアナは思った。
クレープとかパンケーキもいいけど……いつか通信機の配信でみたあれを作ってみましょうかとアドリアナはニヘラと笑った。
新しい料理を作る事は至福の料理狂? なアドリアナであった。
「薄力粉一袋も一緒にお願いします」
「もう一声」
あれを作るならあそこであれを買ってと妄想していたアドリアナにアマネウドが手を合わせた。
「あ、アドリアナさんいらっしゃい」
そこに人の良さそうな人族の女性が米を抱えて店の奥から出てきた。
アマネウドの妻のライアである、アドリアナとは生ジュース飲み友だちである。
ソーランには生ジューススタンドが多く店先でも飲めるように大きなパラソルの下にテーブルセットが準備されてるところが多いのである。
「こんにちは~ライアさん」
「あんた、まさかこの在庫処分をアドリアナさんに押し付けたんじゃないだろうね」
ライアが米を陳列台に置いて手を腰にやってアマネウドをにらんだ。
「あーそのな」
ライアににらまれてしどろもどろなるアマネウドをしりめにベーキングパウダーとか使えば自家製ホットケーキとかできますよねとアドリアナがうっとりと考えた。
「もう一袋お願いします」
新しい料理と甘味への期待でへにゃと笑った。
調味料の問屋さんにもよらなくちゃ、あとはともう心は次の算段のアドリアナであった。
無理に買わなくてもいいんだよ〜というライアにまたジュースを飲みましょうとアドリアナは会計して手を振って歩きだした。
市場近くには小さな店や屋台が集まっていてたくさんの人々が歩いている。
朝早くからそれらの店が開いているのは朝市目当ての観光客をあてこんでのことである。
「材料はだいたい揃いましたかね」
ホクホク顔でアドリアナが家をめざしてあるいていた、家は遥か彼方の坂上である。
少し買いすぎましたとアドリアナはため息をついた。
港には色々な人がやってくる。
今日は儲かったなぁとさっきまでニンマリしていたオルフェアはただいま不本意な状況にあるようである。
屋台の商品が地面に男の腕で落とされる。
不良品を売りやがってどうしてくれるんだよとチンピラ風の男がわめいた。
「何するですかー……不良品? 」
「不良品をつかませたんだ、交換してさらに代金返すのが普通だろうが」
慌てたオルフェアが拾おうとしゃがみ込むと目の前にチンピラ男が留め具の取れたイヤリングをぶら下げた。
一応真珠層に彫刻が施されたマーマン族が制作したように見えるものだ。
どこか違うとオルフェアが商品を見ようと手でつかもうとすると男はさっと引き上げた。
「俺は恋人に不良品を贈ってバカにされたんだぞ! 」
チンピラ男がオルフェアにすごんだでオルフェアが腕を掴んだ。
「私たちが作った品かどうか確かめさせてください」
「うるさい! この海の生きもんが! 」
おとなしく金を出しゃいいんだといいながらチンピラ男がオルフェアをなぎはらって拳を振り上げた。
なぎ払われて尻もちをついたオルフェアは鱗に覆われた腕で頭をかばった。
拳がオルフィアにあたりそうになる直前でチンピラ男の腕に鎖が絡みついた。
「女の人に手を上げるなんて最低だよ! 」
可愛い怒鳴り声とともに蹴りが男の足に入り転倒したチンピラ男を地面に押さえつけたのは鎖鎌を持った若い黒髪の女性だった。
「い、いてて」
チンピラ男が女性の下でうめいきその向こうから茶髪の筋肉質の傭兵が足早にやってきた。
「ヴィアラティア、走り出したがどうした? 」
「あ、ラウティウス班長〜拘束符持ってますか?」
こいつが言いがかりを付けてたんですよとヴィアラティアは顔をしかめた。
お前なぁ、グーレラーシャじゃないんだから専業傭兵がそんなことできるわけ無いだろうと呆れながらラウティウスが懐から拘束符を出した。
「警務士よんできたぜ、ヒフィゼの嬢ちゃんは考え無しで困るぜ」
赤毛の傭兵ウルニウスが青い制服を着た警務士が来るのを見ながら離しやがれと足をばたつかせるチンピラ男の足を踏んだ。
か弱い女性が虐げられてるんだから行動するのが当たり前だよとヴィアラティアはウルニウスに言い返しながらラウティウスからもらった拘束符を貼り付けると途端チンピラ男は動けなくなった。
「大丈夫か? 」
ラウティウスが尻もちをついたオルフェアを抱き起こした。
オルフェアはそのままチンピラ男が離した壊れたイヤリングを拾いに行った。
「違う! マーマン族の細工じゃない! 」
イヤリングは模造真珠で明らかに彫りも薄くデザインだけマーマン族の制作したものに似せさせた偽物である。
オルフェアはホッとしたそれから助けてくれた人にお礼を言ってないことに気がついた。
オルフェアが振り向くとチンピラ男は警務士に捕らえられ拘束符を赤毛の傭兵に解除してもらっている。
拘束符はグーレラーシャ人と異世界の青服の傭兵がしか使わないためドゥラ=キシグの警務士には解除のノウハウがないのである。
もう一つ連行符がありそれを併用すれば拘束符を使っても歩かせられるのであるが本業のグーレラーシャ警務官でもないとさすがのグーレラーシャ人傭兵もよっぽどのことがない限り持っていないのである。
うら若き傭兵の乙女にもう一人の警務士が事情を聞いているのが見えた。
そしてオルフェアを助け起こしてくれた傭兵はしゃがみこんで散らばった商品を拾ってくれているのが見えた。
「あ、あのありがとうございます」
「いや、あなたの誇りが守られてよかった」
ラウティウスは商品の汚れをはらった。
オルフェアはこの人は誇りをわかってくれる嬉しいと思った。
「これで全部だろうか? 」
傷ついてないと良いがと心配そうにオルフェアを見つめた。
その眼差しにオルフェアはドキドキした。
「班長〜そちらの店長さんにも話が聞きたいそうですよ〜」
ヴィアラティアが手を振った。
「はい、今行きます」
オルフェアは胸の高鳴りおさえながら警務士の方へ歩いていった。
キシギディル大陸にあるドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。
安くてソコソコ美味しい魚料理とのほほんな店主にひかれて世界中から常連客がやってくるのであった。
「すごーく素敵な傭兵さんだったんですよ店長さん」
オルフェアが両手を組んでうっとりとした。
「そうですか」
アドリアナはアサリとトマトのソースにスパゲッティを和えた。
聞いた話によるとどうもピンチを助けたのは女性傭兵さんだったみたいだけどと思いながら皿に盛りつけた。
「グーレラーシャの傭兵って怖いイメージがあったけど爽やかで優しくてそれに誇りをわかってくれる男性、理想です」
「陸地の男を想うなんて不毛だ」
うっとりとするオルフェアに水人族のファシルが不機嫌そうに言った。
月単位で全身を水浴しなくても大丈夫な水人族にたいしてマーマン族の陸上滞在時間は水浴をしなければ一日にも満たない。
もちろん水浴をすれば1週間でも一月でも滞在出来るが基本的に海から離れられない人類なのである。
余談だが海洋人類最強とうたわれる人魚族は下半身が魚ゆえに海面に出たり海岸にいざって出られるが機動力が落ちることを疎んじてほぼ海中より出てこない、どうしても出るときは秘術の人族化の術を呪術師にかけてもらってやっと出るほどである。
別にいいじゃないですか〜と騒ぐオルフェアとふんと鼻を鳴らすファシルの前にアサリのスパゲッティが置かれた。
実はファシルとオルフェアはソーラン沿岸の水中都市ヤーレンの出身でご近所さんなのである。
カランカランと鈴の音がして扉が開いた。
「いらっしゃいませ〜」
アドリアナがフライパンを洗いながら顔を向けた。
「いい匂いだ」
いつも通り茶髪の傭兵、ラウティウスの来店である。
オルフェアはきゃーっと声のない悲鳴を上げて口元をおさえた。
「今日のオススメはなんだ」
ラウティウスがカウンターに座りながら聞いた。
「アサリです」
アドリアナがボールを見せた。
新鮮なアサリが砂出し用に水につかっている。
小麦粉を使ったあれは夜に試作予定なので本日は安かったアサリがオススメなのであった。
「それを……」
「スパゲッティ美味しいですよ」
思わずオルフェアが声をかけた。
ファシルがあらら、よりによってラウティウスさんかよと頬を掻いた。
「あなたは……大丈夫ですか? 」
「は、はい」
ここに入ったらアドリアナしか目に見えてないラウティウスがオルフェアに気がついた。
あの説はありがとうございますと紅くなってお辞儀をするオルフェアとご無事で何よりだと微笑んだラウティウスを見てアドリアナは少しだけ心がざわついた。
「素敵な傭兵さんって……」
ラウティウスさんだったのですねと小さくつぶやいて玉ねぎを手に持った。
ファシルがなんともいえない表情で二人を見ていた。
アドリアナはすこしもやっとした気持ちで玉ねぎの皮を剥き始めるのである。
「店長、アサリの卵とじ丼を頼む」
ラウティウスがオルフェアから顔をアドリアナに顔をむけた。
「はい」
アドリアナは素敵な傭兵さんに一目惚れしたらしいオルフェアがラウティウスの隣に移って本当にありがとうございましたと言いながら手を握ったのに視線を向けないようにしながら事前に煮ておいたアサリのむき身を保冷庫からだしてこのざわつきはきっと気のせいですと心に言い聞かせてフライパンに出汁と玉ねぎとシメジをいれて火にかけたのである。
☆本日のオススメ? ☆
店主のライバル? 出現?
オルフェアさんは一〜二ヶ月に一度来てくれる若いマーマン族のお嬢さんです。
翠の鱗が可愛いですよね~
※べ、別にラウティウスさんの事何とも思ってないです、お仕事が一番大事です……。
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ