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本日のおすすめ『カータシキ風』

海賊なんて早くやっつけてあの人に会いに行きましょうね、リー。

濃紺のローブの魔法使いは使い魔を撫でた。


ソーランの港にたくさんの船が停泊している中をローブを着た二人が歩いている。

一人は肩に仔犬のような使い魔を乗せた男性、もう一人は豪奢な金の巻毛を垂らした女性のようだ。


その向こうの船のそばで三人の人影が中型船を見上げていた。

そちらは筋肉質な茶髪のいっぽん三つ編みの男性とスレた感じの赤毛の少し雑ないっぽん三つ編みのがっちりした筋肉を持つ男性としなやかな筋肉をまとった黒髪を一つにまとめて銀の星の下がったかんざしを根本につけた美しいまだ年若い女性である、いずれも縦襟と長袖の長衣を着ており武器を帯びている、グーレラーシャの傭兵であるようだ。


「この船が協力してくださるのですか? 」

濃紺ローブの男……次代塔王と噂される天才魔法使いティアン・ウスイも船を見上げた。

「ソーラン支部軍ご推薦だ」

茶髪の男性ラウティウスが視線を上に向けると甲板から船長らしい男が顔をのぞかせた。

「みなさんお揃いでっか? 」

少し癖のある口調で水人らしい船長が聞いた。

「支部軍の人たちは打ち合わせどおり来ないのですか? 」

ティアンの眼差しを受けてラウティウスがうなづいた。


「わーん船酔い心配だよ~」

女性傭兵ヴィアラティアが不安そうに騒いだ。

腰には鎖鎌が下がってる。

「ヒフィゼの嬢ちゃんはひ弱で困る」

すれた感じの弓を背中に担いだウルニウスがあからさまにため息をついた。


ひ弱じゃないもん〜。

やるか〜。

といつもの拳と拳の語り合いをはじめようとする二人を腕力で引き離したラウティウスを尻目にティアンは船に近づいた。


「乗り込んでもよろしいですか? 船長」

「え、ええどうぞ」

傭兵たちの小競り合い? に気を取られていた船長がティアンに視線を移して答えた。

「エニシャーラ君時は金なりです、行きましょう」

ティアンは金髪の魔法使いの女性エニシャーラに振り向いた。

「はいですわ、本当に傭兵なんて野蛮ですわ」

エニシャーラはじっと見ていた傭兵たちからはっと視線そらして微笑んだ。


みんな〜いっちゃうの〜。

使い魔のリーが肩から声をかけると傭兵たちは動きを止めた。


「リーちゃんごめんね」

「犬っころ悪い」

「すまんな」

三人は例外なくリーに癒された顔をして慌てて手を離して船のハシゴに近づいた。


「では順番にお願いでっせ」

船長にうながされて魔法使いと傭兵は次々と船に乗り海原に出た。



数時間後船から降りて港にふらふらと座り込んだ部下(エニシャーラ)と傭兵たちをしりめにティアンは坂を見上げた。


今日は海の波が高くよく揺れたようで皆少々疲れているようである。


気持ち悪い〜と誰かがうめいた。



「う……」

「カザフ班長無理です〜」

「気持ち悪いですわ〜」

「駄目だ……吐く」

死屍累々の様子に水人の船長がありゃ大丈夫でっかと覗き込んでいる。


「今日は仕事は終わりですね」

「そうなの〜」

ティアンは少しぐったりした使い魔(リー)を抱きかかえ歩きだした。

「ま、まて……俺もい……」

後ろでうめくラウティウスたちに誰かがよんだうさぎ耳の看護師と人族の医師に途中ティアンはすれ違って会釈をした。


報告書は後でいいですよね。

ティアンはそんなことを思いながら港をあるいた。


市場をはじめたくさんの屋台や店や倉庫が並んでいてにぎやかである。


ティアンはマーマン族の細工物を売る水人族の屋台を横目に見ながら真珠細工の髪飾りは真珠層に精緻な花の彫刻がされていて綺麗ですねアドリアナさんに似合いそうだなと思いながらゆっくりと夕日に映える町並を見ながら坂を登る。


「あの干物美味しそうなの〜」

「はいはい、でも店長さんのもっと美味しい料理を食べるんでしょう? 」

リーが干物が下がる店先をキラキラした目で見たのを撫でながらティアンは先の進んだ。


ティアンがはじめてここに来たのはソーランの近海にあるヤーレンという海洋種族の集落にある古代遺跡の魔法陣の研究を行うためである。


ヤーレンは海中都市で長時間人族であるティアンたち研究チームは潜れなかったので極近くのソーランを起点におこなっていたのだ。


その頃まだ食堂『飛ぶ羊亭』はプチホテル『飛ぶ羊屋』でアドリアナも可愛い少女であった。


『おかえりなさい〜お茶をどうぞ』

夕方に研究から帰ってきて疲れてラウンジのソファーに座ると学校から帰ったアドリアナがよくてつだっていた。

可愛い羊耳が見え隠れする白い三角巾をして白いフリフリエプロンで給仕する姿は羊獣人の容姿を受け継いだだけあってぬいぐるみみたいに愛らしく研究チームでも癒やしの存在だったですねとニヤニヤしながら思い出し笑いを浮かべるティアンである。


あのちっちゃかったぬいぐるみみたいな少女が行くたびに大きくなってプチホテル『飛ぶ羊屋』が食堂『飛ぶ羊亭』になる頃には小柄だがスラリとした綺麗な女性となっていたのである。


「決定的だったのはあの時ですね」

暮れゆく町並みを歩きながらティアンはつぶやいた。


ヤーレンの古代遺跡の魔法陣に引っかかり海面近くに飛ばされたティアンたち研究チームはパトロール中だった人魚族の戦士たちに助けられたことがあった。


宿で療養生活を送っていた時に羊天使が舞い降りたんですよねとうっとり遠い目であの日のことを思い出すティアンである。


早い話がアドリアナが両親に命じられて甲斐甲斐しく更衣させたり腕が動かない人に食事介助の真似事したりしただけであるが、思い出とは美しく残るものである。


小さな羊少女が綺麗な羊娘になっていたのも効果てきめんといえよう。


「ご主人しゃま〜通り過ぎたの」

リーの声に現実に戻ったティアンであった。


気がつくと目的地の店よりかなり通り過ぎて八百屋まで来ている。


慌てて戻るティアンであった。


キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。


ソコソコ美味しくて安い魚料理(以外も一応あるが)とのほほんな店主に会いに今日も世界中がら常連客がやってくるのである。


カランカラン扉に下がった鈴が鳴ってティアンが足早にはいってきた。


「いらっしゃいませ〜」

白い耳が三角巾の影で揺れて店主(アドリアナ)がのんびりと微笑んだ。

「ただいま」

「おかえりなさい? 」

戸惑いながら応えるアドリアナに内心もだえながらティアンはカウンターの席に座った。


「新婚さんみたいね」

先に来ていたエルフのピアナがつぶやいた。

今日は赤みがかった茶色の煮込み料理を薄いパンで食べているようだ。


新婚……なんていい言葉なんだろうとティアンはうっとりした。


ピアナさん〜ティアンさんはプチホテル時代からの常連さんなんです〜となぜか動揺してアドリアナが鍋をかき混ぜた。


スパイシーで芳しい香りがただよってくる。


「カータシキ煮込みですか? 」

「あ、はい良いトマトが手に入ったので」

カータシキ()煮込みですがとアドリアナがティアンに視線を戻した。


カータシキ煮込みはクミンやターメリック、コリアンダーにオールスパイス、カルダモン、唐辛子等を家庭や店独自の配合アレンジで作るカータシキ魔法塔国のソウルフードである。


それゆえにカータシキ人以外の者が作るカータシキ煮込みはカータシキ煮込みでないとこだわりを持つものも多いので他国人はカータシキ煮込み()とつけて店舗に出すことがほとんどなのである。


「ではそれをお願いします、この子には……」

「お水でいいの」

まだまだ船のダメージが残っているリーが前足をティアンの膝の上で上げた。


リーちゃん大丈夫ですか? と心配そうな顔で水を深めの皿に入れてリーの前に出してから店主が調理をはじめた。


店主はメカジキを一口大に切って塩コショウし小麦粉をふるった。

小鍋にお湯を入れてブロッコリーと人参とジャガイモを入れる。


「今日はリーちゃんずいぶんヘロヘロねぇ」

ピアナがサラダのトマトの玉ねぎドレッシングかけをフォークで突き刺して探るようにティアンを見た。

「お船が揺れたの〜」

ピンクの小さな舌でチロチロ水を飲みながらリーは答えた。

「特に何もありませんでしたよ」

ティアンがおしぼりで手を拭いた。


そう、特に海賊とは遭遇しなかった。

その代わりに途中の無人島に大規模野営の跡があった。


そして同行した水人の水夫たちの水中調査で海洋資源が食いあらされている様子が見られた。


つまり何者か……魔獣を伴う海賊がいたかもしれない痕跡があったのである。


「海賊……いなかったのですか? 」

店主は不安そうに瞳ゆらしながらフライパンに油をしいてニンニクのみじん切りを入れてから火をつけた。


食欲をそそるニンニクの香りが食堂にただよった。

そこにメカジキを入れて四面焼き色をつける。


「いませんでしたよ」

「そうですか」

店主はフライパンに酒を加えて蓋をした憂いの眼差しにそんなに海賊が恐ろしいのだろうかとティアンは思った。


カランカランと鈴の音がして中年のドワーフが入ってきた。

後ろから翼人の若い女性が物珍しそうについてきている。


「いらっしゃいませ〜」

「久しぶりだ」

天鉱合金(テンコウゴウキン)を扱うトテハリ大陸にそびえ立つダッカナナン山脈の上にあるダッカ天鉱国(テンコウコク)のドワーフで常連客のヒロキココロである。


ドワーフはその国で天鉱を採掘しそれを元に天鉱合金を作り製品を作っている。

翼人も主に坑道のある地下街でなく山の上で運搬屋などをしながら暮らしているのである。


「あら、若い娘と一緒なのね」

ピアナが翼人に目を留めた。

「ワシの弟子だ」

ヒロキココロがちろっと翼人を見た。

「いい匂いですね……あ、ヒロキ先生の弟子のフカイキラメキです」

うっとりと匂いをかいでた翼人フカイキラメキが小さく頭を下げた。


翼人は人の背中に翼がある種族である。

ヒデルキサム大陸のファメイ翼国もほぼ翼人の国で有名だがフカイキラメキは生粋のダッカ人で翼人である。


「ヒロキココロさんが、こちらに来るということは……」

「支部軍の武器のお直しだがまあ、何か食わせてくれ、あと(ドワごろ)頼むわ」

ヒロキココロがどんとティアンの隣に座った。

フカイキラメキはキョロキョロしながらその隣に座った。

ドワごろとは酒に強いドワーフもよいつぶれさせるドワーフ殺しという強い酒の事である。


はーいと店主がジョッキに透明の酒を後ろの棚からだして注いでヒロキココロの前においた。

ヒロキココロはついでにつまみもみつくろってくんなと言いながらドワごろをいっきにあおった。


はーいといいながら店主はゆであがったブロッコリーとジャガイモと人参をメカジキのフライパンに入れてカータシキ風煮込みのルーを上からかけて少し煮込んでから深めの鉢にフライパンの中身を入れてティアンの前においた。


あの、私もその煮込み料理をお願いしますフカイキラメキがおずおずと注文すると店主がはいと笑ってお冷とおしぼりを二人に出した。


「ティアンさんパンがいいですか? ご飯にしますか? 」

「ご飯がいいかな」

ティアンがそう言うと店主はお皿にご飯をもって前においた。

ついでに作り置きのトマトサラダを三皿保冷庫からだしてヒロキココロとティアンとフカイキラメキの前にだす。


「本当に今日はトマトフェアなのね」

トマトジュースにレモンを絞りながらピアナがつぶやいた。

「幼なじみの八百屋から大量に仕入れたもので」

「ああ、あの子ね今も……もう一人のこと三人でつるんでたわね」

今も仲が良いのねと関心したようにピアナはトマトジュースを飲んだ。


ピアナもプチホテル『飛ぶ羊屋』の時代から来ている年齢不詳のエルフである。

店主の小さいときから知っているのである。


当然八百屋のミーシャルトともう一人の幼なじみのこともしっているのである。


「ミーシャちゃんも私も地元から出ませんでしたから」

店主がよわく微笑んでヒロキココロにスモークサバにホースラディッシュとレモンのくし切りを添えて出した。


おお、うまそうだなといいながらヒロキココロが口元をほころばせた。


「あのひねくれもんはまだ帰らないのか? 」

ドワころもう一杯〜いっそボトルでよろしくなとヒロキココロは続けた。


店主はメカジキに粉をふりながらうなづいた。

どこか憂いの眼差しを見ながらティアンは何か僕の知らないことがあるようですねと思いながらカータシキ風煮込みを口に運んだ。


メカジキにスパイシーのトマトソースがからまって美味しい……でもカータシキ煮込みというのにはもう少し辛さが足りない……。


アドリアナを妻にして故郷に連れ帰ったら……母親にうちの味を教えてもらって二人で並んでる姿を見るのも素敵ですねぇと妄想した。


「あの子……海賊……大丈夫だよね」

店主がつぶやいた声に海賊? とはとティアンは思いながらカータシキ風煮込みとしては美味しい料理を飲み込んだ。



カランカランと扉の鈴が鳴った。

筋肉質の茶髪いっぽん三つ編みの男が息荒く入ってきた。


来やがりましたねとティアンが苦い顔をした。

出し抜いたはずのグーレラーシャの傭兵が立っていたからである。

よくもぬけがけしたなと小さく悪態をつきながらラウティウスは足音荒く店に入ってきた。


「い、いらっしゃいませ、大丈夫ですか? ラウティウスさん」

店主が慌てて水をコップに注いだ。

「ああ、大丈夫だ」

店主から受け取ったコップの水を一気飲みしてラウティウスは人心地ついた顔をした。


ティアンに置き去りにされたラウティウスは吐き気が収まった後に書類をたたきつけるように済ませてこの坂道を爆走してきたのである。


恋するグーレラーシャ男恐るべしである。


「無理しなくていいのに……」

ティアンはラウティウスを横目につぶやいた。

勢い良くティアンの空いてる方の隣に座ったラウティウスが軽くティアンをにらんだ。


「あのお仕事お疲れさまです」

「ありがとう、いい匂いだな」

ラウティウスが甘いほほ笑みを店主に向けた。

今日はカータシキ風煮込みフェアやってますと店主が微笑んだ。


ラウティウスはハチミツ割酒とカータシキ風煮込みをパンセットで注文した。


青春だなとつぶやきながらヒロキココロがドワころの杯を重ねていく。

そうねぇ、おばちゃんも若い時はあったんだけどねとピアナがグラスを指で弾いた。


「はい、ご注文のカータシキ風煮込みです」

パンとご飯どっちにしますかと店主がフカイキラメキにカータシキ風煮込みを提供した。



「お前の書類はまったく書いてないからな」

ハチミツを半分以上入れた酒をなめてラウティウスがティアンをみた。

「僕は優秀だからすぐに終わりますよ」

ティアンは膝の上で丸まって寝ているリーを撫でた。

そうかよせいぜい頑張んなとラウティウスは言って視線を愛しい女性(店主)を向けた。


その後、ラウティウスが大雑把に書いた書類のせいで徹夜しかけたティアンである。


青春ねぇとピアナがトマトジュースを飲んだ。

先生〜この煮込み美味しいです〜とのんきにフカイキラメキがふにゃっと顔をゆるめた。


おいしいおさかにゃ〜と寝言を言って仰向けに腹をだしてリーは寝ぼけているのをフカイキラメキが可愛とキラキラした眼差しで見ている。


リーちゃんが起きたら何か食べられるかなと思いながら店主は魚を保冷庫から取り出した。


海賊問題も若者たちの恋もまだまだ決着しそうにないようである。


何はともあれ本日も飛ぶ羊亭はのほほんと営業中である。


☆本日のオススメ☆


カータシキ()煮込みフェア中でーす。

※カータシキ魔法塔国人じゃないのであくまでもカータシキ風なんです(いつか本場に食べに行きたいな)

具はメカジキじゃなくてサバとかイカとかアサリとかでも美味しいですよね。


スモークサバはこの辺の保存食の一つで酒のつまみによしサンドイッチの具やポテトサラダに合わせてもいい汎用性のある食材です。


蒸留酒ドワーフ殺し

酒の極み工房

ドワーフ以外の方はストレートで飲まないでください。

強いお酒なのでソーダ割やお茶割がおすすめです。

飲み過ぎないようにご注意下さい。


酒は呑んでも飲まれるな。

マナーを守って楽しい飲酒生活を送りましょう。


ご購入ありがとうございました。

読んでいただきありがとうございます❤

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