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本日のおすすめ『ふんわり焼き』

今日も行けるといいが……

筋肉質な傭兵はソーランの町を見上げた。


港から高低差があるソーランの町は丘の上に家々が立ち並びその隙間に小路や階段がたくさんあり初めての人が必ず迷うと言われている。


「カザフ高等剣士殿、こちらへ」

港の塔の一つの扉を開けてドゥラ=キシグ香国ソーラン支部軍の水色の軍服を着た男が手招きした。

「はい」

後ろ髪引かれる思いで傭兵……ラウティウス・カザフは塔の扉をくぐった。


ソーランにはたくさんの塔があるがそのうち千本枝の大樹が描かれたドゥラ=キシグ香国の旗がひるがえっているものは公立のものである。


その下に青い波模様と赤い花の旗がかかっているところはソーラン支部軍の詰め所兼見張りの塔で町の中に何軒かあるようだ。


ラウティウスはそのうちの本部に使われている大きな塔に招き入れられた。


詰め所の中に入ると動いていた軍人たちや事務員の視線が一瞬こちらへ向いた。

おいおいなんだよいったい、グーレラーシャの傭兵が珍しいのかよとラウティウスは内心思いながら案内された支部長室の扉をくぐった。


ヒゲの少し食えなそうな中年男性が水色の軍服をまとい待ち構えていた。

「ようこそカザフ高等剣士、さっそくで悪いがこちらの方針を聞いていただきたい」

支部長が応接セットのソファーに座るように進めたのでラウティウスは腰掛けて鋭い眼差しで支部長を見た。


ソーラン支部軍の領域だから手を出すなとかでないと良いがと内心思いながらラウティウスは耳をかたむけた。



夜空に三日月がかかりソーランの港町にも明かりが灯った。


夜がふけたころ坂道をおおまたで歩く茶色の髪のグーレラーシャの傭兵が一人……いつもの通いなれた道なのに少々迷い気味のようである。


「本当に入り組んでるな……」

基本的に見渡しの良い平地から少し小高い丘程度のグーレラーシャのデリュスケシの港町で育った傭兵はため息をついた。


愛しい女性に会うためにもうひと頑張りするかとラウティウスはふたたび歩きだした。

土産屋の向こうに見慣れた木製羊の看板が見えた。


キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。

ソコソコ美味しくて新鮮で安い魚料理とのほほんな店主に客は癒されに行くのである……多分。


カランカランと音がして店主が出てきた。

扉にかかったオープンの札を裏返そうと手に持ってふと坂道を見るとラウティウスが足早にやってくるのが見えた。


「終わりか? 」

少し息切れしながらラウティウスが近くに来た。

そんなにお腹が空いてるのかなぁと店主はぼんやり思った。

「えーと残り物でよければ作れますよ」

店主は扉を開いた、すまんなと謝ってラウティウスが店に入った。


いつものように落ち着いた調度にホッとする。


「白身魚のふんわりやきサンドなんていかがでしょうか? 」

「ああ、美味そうだ」

店主がさっそくカウンターの中に入って保冷庫を覗いた。

ラウティウスはカウンターの席に腰かけた。


いつもはソコソコいる客がいず店主と二人きりで嬉しいとラウティウスは微笑んだ。


店主は早速料理作り出した。


まず厚切りトーストをトースターに四枚入れる。


次に白身魚の切り身を保冷庫からだして小さく切って野菜棚からとった玉ねぎをクシ切りにしてフライパンに油をしいて炒め軽く塩コショウをしてから皿に取り出しボールに残った卵白と粉チーズとパセリと塩コショウ入れると一気に泡立て器でかきまぜた。


「今日はお忙しかったのですね」

「この間の海賊の件でソーラン支部軍に呼び出されて仲間と打ち合わせを宿でしていたから遅くなった、すまん」

うっとりと店主を眺めていたのをおくびにも出さずラウティウスが頭を下げた。

「別にいいんですよ〜うちみたいなしがない魚食堂をご贔屓いただき嬉しいです」

店主が嬉しそうににやけた。


わざわざ忙しい中来てもらえるのは嬉しいものはやはり嬉しいようである。


「魚料理が好きだからな」

ラウティウスがお冷をのんだ。


ラウティウスは魚料理も好きだがもっと好きなのは店主である。


もちろんまだ言うつもりはないようである。

狩りは獲物の逃げ道をふさいでから行うものだと肉食獣表情を隠してどこか色っぽく店主を見た。


「あ~えーとグーレラーシャの人って魚よりお肉が好きっていう印象なんで珍しいなぁと」

店主の卵白を泡立てる手が不規則になった。


動揺しているようだ。


「俺は小さい頃デリュスケシの港町で育ったから魚料理の方が馴染んでいるんだ」

「戦闘文官の唐揚げ弁当が有名な町ですね」

いつか行ってみたい町ですと店主がフライパンにバターを入れながら思い出すような顔をした。

「そうかその時は案内しよう」

抱き上げてなと心の中で思いながらラウティウスは微笑んだ。

「よろしくお願いします、港町出身だからお魚料理がお好きなんですね」

「その戦闘文官が高祖母でな、デリュスケシの港町に家を構えてるんだが……カザフ本家と主家のヒフィゼ本家が王都の王立傭兵学校に入るようにうるさくてな……あのへんは肉料理がメインできつかったな」

店主がフライパンに泡立てた卵白を流し入れるのを見ながらお冷を飲み干す傭兵が遠い目をした。


グーレラーシャ傭兵国全土に傭兵学校はあるのだがやはり一番レベルが高いのは王都にある王立傭兵学校である。


カザフ分家の長男にして戦闘文官の玄孫のラウティウスは元々幼年学校でも剣術の素晴らしい才能を見せておりその才能をもっと伸ばして活かそうとカザフ本家とグーレラーシャ傭兵ギルド管理官長を任される主家ヒフィゼ本家より王立傭兵学校で学ぶように命じられ中等学校時代より王都で暮らしているのである。


期待通り『カザフ高等剣士』となったラウティウスはグーレラーシャ傭兵ギルドの専業傭兵として登録し世界中を駆け抜けていたのであるが……そんな時にふと立ち寄った一軒の小さな食堂で心の隙間を埋める出会いをしたのである。


『いらっしゃいませ〜』

カランカランという鈴の音と共に向けられる柔らかいほほ笑みの女店主……

……故郷デリュスケシの港町でかいだ魚料理の香ばしい匂いに惹かれて入った食堂で傭兵は運命の出会いをしたのである。


店主の白い羊耳をアマガミしたいと思いながら出会いを思い出す傭兵である。


店主がふっくら焼けてきた卵白オムレツにソテーした白身魚と玉ねぎを入れて織り込んだ。

そのままバッドに出してトースターのパンをだしてマヨネーズとバターを塗った。


店主はオムレツを半分に分けてパンに乗せてサンドイッチを2つ作って一つを4つに切って更に盛りつけつけわせにミニトマトとキュウリを乗せてラウティウスの前に出した。


「一緒にいいですか? 」

「ああ、いいぞ」

ラウティウスの了承を得た店主はまかない分をラウティウスの隣においてカウンターに腰掛けた。

一緒に持ってきた花香茶をマグカップに注いでラウティウスにもすすめる。


「いい匂いだ……」

ラウティウスがつぶやいた。


店主から爽やかな香がただよったのをラウティウスはうっとりした。


「はい、私もこの花香茶の香好きです」

店主がとぼけたことを言ってお茶を飲んだ。

砂糖かハチミツ必要ですよねと店主が気づいたようにたってカウンターの中から砂糖瓶を持ってきた。


「……ありがとう」

ラウティウスは苦笑をして砂糖瓶を受け取った。


「やっぱり海賊は近いのですか? 」

パンを持って店主がラウティウスを見た。

なんて可愛らしいんだとその銀の瞳を見つめてラウティウスは我に返った。

「守秘義務があるからくわしくは言えないが……沿岸を荒らしているのは確かのようだ」

ラウティウスはサンドイッチにかじりついた。


ふんわりとチーズ風味の卵白オムレツのなかに白身魚の脂が美味しい……だがグーレラーシャ傭兵としてはもう少し塩分がほしいところだ。


それでもグーレラーシャ傭兵国王都ではあまり食べられない魚料理は美味しいと口がほころんだ。

もし店主……アドリアナさんと結婚したらこんな料理が喰えるんだなとラウティウスは妄想した。


「そうなのですか……」

店主は目を伏せて少し震えているようだ。

何かトラウマでもあるのであろうか……

「大丈夫だきっと守ってみせる」

そっと肩に手を置いてラウティウスは甘く微笑んだ。

ありがとうございますとつぶやいて顔を上げた店主は弱々しく涙ぐんでいた。


あの可愛い唇にくちづけたい……ラウティウスは肩においた手に力をこめた。


痛いと店主の小さな声が聞こえてあわててすまんと手を下ろしたラウティウスはじっと手を見た。


なんて……なんて小さな肩だったんだ……ああ、早く抱き上げたい……傭兵が自分に欲情してるとも気が付かず薄味でしたか? と店主は塩瓶を持ちにたとうとした。


「店主殿……」

甘い声でラウティウスは店主の手を握った。

「な、なんですか? 」

「店主殿の手は柔らかい」

ろうばいする店主に傭兵が獰猛な色気のある笑みを浮かべた。

「あ、あの……」

「このふんわりしたサンドイッチより柔らかいな」

傭兵が手の甲をペロリとなめた。


いい匂いだ……とかすれた声でつぶやく傭兵に店主は大型獣に襲いかかられているような気持ちになった。


緊張感が漂う店内である……店主はラウティウスの手に落ちるのであろうか?



カランカランと鈴が鳴った。



「アーちゃんートマトいる? 仕入れすぎちゃってさ〜余ったので悪いけど」

近くの八百屋『野菜の恵』の店主で人族のミーシャルトが顔をのぞかせた。


アドリアナの幼なじみの素朴で働き者の青年である。


「み、ミーシャちゃん引き取ります」

アドリアナは手を引き抜いて立ち上がった。

「悪いなぁ……母ちゃんがうるさくてさぁ」

「その箱ですか? 」

ミーシャルトが片脇に抱えた箱を受け取ってカウンターにおいてさっそく品定めはじめた店主である。


「あ~お邪魔だったか? 」

ミーシャルトがポリポリ頬をかいた。

ラウティウスは花香茶に砂糖を入れまくっている。

少しやり過ぎたと思ったようである。


箱の中には調理用のミニトマトと生食用のトマトがたくさん入っていた。


「ミーシャちゃんいくらですか? 」

店主が満面の笑みを浮かべた。

心は明日の料理である。


ミーシャから代金を聞いて払った店主は早速スパイスの瓶を確認している。


ラウティウスは切ない眼差しで店主を見た。


「じゃあまたな」

ミーシャルトがありがとなこれで母ちゃんに叱られずに住むと言いながら去っていった。


ラウティウスは最後のサンドイッチを口に入れ花香茶ごく甘を飲み干した。


「美味かった、勘定を頼む」

追い詰めすぎて愛しい女(獲物)に逃げられては元も子もないととりあえずラウティウスは一時撤退することにしたようである。


「まかないなのでこのくらいで」

いつもの半額ほどの値段をつげた。

「きちんととってくれ」

「えーと海賊討伐頑張ってくださいということとまた来てくださいをこめてそれでお願いします」

お湯を沸かしながら店主がちらっとラウティウスを見て微笑んだ。


どうやら嫌われてないようだなとラウティウスは心の中で胸をなでおろした。


ラウティウスが代金を払って店の外に出ると街の明かりが海に映って波にゆらめき幻想的な様子が見えた。


坂道を下り港の側の宿へ向いながらいつかきっと店主(アドリアナ)をこの腕に抱き上げてみせると誓う傭兵(ラウティウス)であった。


肉食系男子(グーレラーシャの男)は諦めが悪いのである。


しかし、はたして天然のほほん店主に通じるのであろうか?


そればかりはまだまだ謎である。


何はともあれラウティウスは軽やかに港の方向へ降りていった。


☆本日のおすすめ? ☆


まかない風? 白身魚いり卵白のスフレオムレツサンドイッチです。


※どうしても卵白が余ってしまうんです、まかないに使う率高いです。

メレンゲにするとふわふわで美味しいです。


花香茶 


ラファーゼ茶工房

ジャスミンの花を紅茶に入れております。

華やかで安らぐ時間をお過しください。

砂糖やハチミツを()()お使いいただいても美味しく召し上がれます。

少量から大口購入まで対応しております。

読んでいただきありがとうございます❤

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