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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第10話:店長、異世界の物価と不審なご来店

ガタン。

バックヤードの搬入口から、何かが重々しく置かれる音が響き、俺は跳ね起きるように目を覚ました。


「痛たたた……。ああ、自分の部屋のベッドが恋しいな……」


バキバキと音を鳴らす腰をさすりながら、搬入口の重い戸を開ける。

外の赤黒い岩肌の上には、日本のコンビニでお馴染みのプラスチック製コンテナが綺麗に届いていた。


さっそく箱を開けて中身を取り出す。

アラクネ用の『梅おにぎり』、そして、俺が自分の意思を100%へし折られて発注した限定アニメ美少女の『抱き枕』と『寝袋』、それから各種の補充用商品だ。


天井の糸の巣でまだすやすやとぶら下がっているアラクネの真下の床に、そっと抱き枕と寝袋をセットしてやり、俺は商品の品出しのために店内の売り場へと出た。


棚にお菓子やドリンクを並べていると、不意に、


──ピロリオリーン♪


静まり返った店内に、お馴染みの来店音が鳴り響いた。

ハッとして振り返った俺は、入ってきたリゼッタとバチッと目が合う。


今日は後ろにモンスターの軍勢は連れておらず、単身でのご来店のようだ。

リゼッタはほんの少しだけ頬を赤らめ、ツンとそっぽを向きながら言った。


「……ま、また来てやったぞ」


素直じゃねぇな〜! どうせ、からあげクン目当てのくせに!

なんて本音は1ミクロンも顔に出さず、俺は「いらっしゃいませ~!」と満面の笑みでお迎えした。


リゼッタはレジの脇に設置されたガラスケースを美しく、かつ鋭い指先で指さす。


「その……例の『からあげクン』というやつをくれ」


「はい、かしこまりました!」


俺は手慣れた手つきでレジに入り、バーコードをスキャナーでピッと読み取った。液晶画面に表示された金額を確認し、丁寧に伝える。


「からあげクン、お一つで288円になります~」


シーン……。

バックヤードの換気扇の音だけが響く、謎の沈黙が流れた。


おかしいな、聞こえなかったのかな。俺はもう一度、愛想よく繰り返した。


「お客様、288円になります~」


シャキッ。


突如、リゼッタの細い指先が、腰に帯びた細剣の柄へと掛けられた。

途端に、店内の空気がピリピリと凍りつくような緊張感が走る。


「ま……待て待て待て! なんでそうなるんだ!? なんで今、剣に手をかけた!?」


リゼッタは般若のような目で俺を激しく睨みつけ、バックヤードまで響き渡るような大声で喚き散らした。


「なんだその『にひゃくはちじゅうはちえん』とやらは……ッ!? 貴様、この私を馬鹿にしているのか! 謀略か! 呪術の類か!?」


「落ち着けよお嬢さん! コンビニで何かが欲しかったら、対価として『お金』を払わなければならないんだ! 288円ぶんのお金を払えって言ってるの!」


「なんだと……!? 私は世界を統べる魔王の娘だぞ!? その高貴なる私から、金品を巻き上げようというのか、この不敬者がぁっ!」


リゼッタの怒りは増すばかりで、このままだと俺の命がリアルに危険レベルに達する。

誰か、誰か助けてくれ……!


「……ん。店長、リゼッタ、おはよう……」


その時、バックヤードの扉がガラリと開き、大きな美少女抱き枕を愛おしそうにギューッと抱きしめたアラクネが、眠たげな目をこすりながらトコトコと歩いてきた。


「あ、アラクネ……!」


「店長……これ、お布団のまくら、ありがと。とってもかわいい……うれしい……」


アラクネは抱き枕に頬ずりしながら、ふにゃりと嬉しそうに笑った。


「おお、気に入ってくれたなら何よりだ! それよりアラクネ! 頼むからそのお見合い中のお嬢様に、このコンビニの基本システムってやつを教えてやってくれないか!?」


俺は藁にもすがる思いでアラクネに懇願した。

アラクネは小さく頷くと、不機嫌そうに肩を怒らせているリゼッタへと向き直る。


「リゼッタ……あのね。コンビニでは、欲しいものは『お金』を出して買わなきゃダメなの。リゼッタがそのお金を払うと、店長がまた新しい商品を『はっちゅー』して補充してくれるの。そうすれば、わたしはいつでも大好きな梅おにぎりが食べられる。……リゼッタのからあげクンも、お金を払わないと、この世からなくなっちゃうんだよ?」


「な、なんだって……!?」


からあげクンが絶滅する。

そのアラクネの(ある意味で的確な)脅し文句を聞いたリゼッタは、途端にハッとした表情になり、腕を組んで深刻そうに考え込み始めた。


……そこまで真剣に悩むようなことか?

とは、絶対に口が裂けても言わない。俺はただ黙って、人外美少女二人のやり取りを見つめていた。


やがて、リゼッタはふむ、と一つ頷いた。


「よく分からないけれど……つまり、私が今後も永続的にからあげクンを貪り食うためには、ここに『お金』という供物を捧げる必要がある、ということね?」


分かってねぇよ! なんで供物なんだよ!

……とは、命が惜しいのでやっぱり言わない。


「さ、さようでございます、お客様。ちなみに日本円をお持ちでなくても、その辺に転がっている魔石や鉱物、宝石類でもお支払いいただけますので……」


「ふん、ならこれを持っていけ」


リゼッタは少し得意げな顔をして、懐から指先ほどの大きさをした、眩い光を放つ透明な結晶を取り出してレジカウンターへ差し出した。


俺は急いでレジ画面の支払い項目から、該当する鉱石のボタンを探す。

画面には【最上級マナストーン(光)】の文字。ええと、日本円に換算すると……。


ピッ。

【店舗予算残高:+150,000円】


……じゅ、十五万円。

からあげクン一個で、仕入れ資金が十五万円もチャージされた。悪くない、どころの騒ぎではない。ボロ儲けというレベルすら超越している。


「は、はい! 毎度ありがとうございます、お会計確かに頂戴いたしました!」


俺はホクホク顔でマナストーンをレジへと仕舞い込み、ケースから熱々のからあげクンを取り出してリゼッタへ手渡した。


さっきまで鬼の形相だったリゼッタの顔が、からあげクンを手に取った途端、パァッと花が咲いたような満面の笑みへと変わる。


……うん。大人しく笑っていれば、めちゃくちゃ可愛いんだけどな、この生殺与奪の権を握る魔王の娘。


「ふん、また来るわ!」


リゼッタは受け取ったからあげクンのパックを宝物のように大事に抱えながら、とてもご機嫌な様子で自動ドアの向こうへと帰っていった。


「ふぅぅ……」


盛大なため息が口から漏れる。

だけど、不思議と昨日ほどの激しい動悸や恐怖はなかった。

どうやら、長年の引きこもり生活で培った俺の『環境への異常な順応能力』が、この不条理な異世界コンビニ生活にガチで適応し始めているらしかった。現状維持、最高。


「よし、アラクネ。今日はこれから店の床の掃除を手伝ってもらうぞ」


「ん……梅おにぎりくれるなら、がんばる」


「はいはい、終わったらな」


そんな、異世界迷宮の最深部とは思えないほど、ほのぼのとした平和な時間を過ごしていた、まさにその時だった。


ザッ、ザッ、ザッ。


コンビニの外のマグマ地獄から、こちらへ近づいてくる『一人の男』の足音が聞こえた。


ガラス越しに見えるそのシルエットは、細身で長身。

仕立ての良いスーツのような衣服を身に纏い、ぶっちゃけ、元の世界のオフィス街やコンビニに立っていても全く違和感のなさそうな、極めて現代人風の男だった。


「……新しい、お客さん、かな?」


でも、ここはマグマ流れる地獄の迷宮だ。そんな普通の人間がいるわけがない。

俺は一抹の不穏な予感を覚えながら、自動ドアへと近づいてくるその謎の男をレジカウンターの中から迎えた。

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