表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獅子の英雄―語られなかった真実と、小さな騎士の物語―  作者: ぽぷら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

第十三話 一通の手紙

 店の扉には「貸し切り」の札。

 普段はそれなりに客の入るこの店も、今日は静まり返っていた。少しだけ緊張しながら、俺は入口へと目を向ける。

 ――来た。

 扉が開き、金の髪を揺らしながらレークス様が入ってくる。


「レークス様!」


「ノード」


 思わず立ち上がると、レークス様はいつもの調子で軽く手を上げた。

 ほっと、胸の奥が緩む。二人で席につくと、レークス様は懐から一通の手紙を取り出した。


「こうして誘いを受けるのは初めてだな。しかも貸し切りとは」


「来てくれると思ってました」


 自然と笑みがこぼれる。

 レークス様はくつくつと笑いながら手紙を開いた。


「『一緒に昼飯行きましょう』だけで王族を呼び出すとはな。そんなやつ、俺くらいだぞ?」


「さすがレークス様」


「まったくな」


 軽口を叩いたあと、ふっと空気が変わる。

 レークス様がこちらをまっすぐ見た。


「……で、本題は?」


「……話が早いですね」


「だろうな」


 机に肘をつき、髪をかき上げる仕草。俺は水を一口飲んで、姿勢を正した。

 ――ここからだ。


「レークス様」


「おう」


「王を廃位させるには、どうしたらいいですか」


「……は?」


 一瞬、時間が止まった気がした。

 レークス様の視線が鋭くなる。けど俺は目を逸らさない。冗談でも、軽口でもない。それを理解したのか、レークス様はゆっくりと姿勢を戻した。


「……一旦、経緯を聞こうか」


「ありがとうございます」


 殴られても仕方ないと思っていた。

 だから、その言葉だけで――少し救われた気がした。一度、口を結ぶ。それから、話し始める。


「──すべての始まりは、とある事故でした」


 暴走した馬車。横転。

 父親は、息子をかばったまま死亡。

 息子は奇跡的に生き残った。

 本来なら助からないはずの怪我。

 それでも、その子は回復した。

 ――ありえない速度で。


「……それが、人から人への生命力の譲渡」


「ええ」


 白の研究所はそこに目をつけた。

 仮死状態という特殊な状況で、生命力が移ったのではないかと。

 そして。

 動物で実験を始めた。


「実験は成功しました。移された個体は、異常なほど強くなった」


「それを騎士に応用した、と」


「王の指示です」


 罪人の命を使った実験。

 繰り返される検証。

 だが――欠点もあった。


「元の生命力以上に力を使うと、体がもたないそうです」


「……なるほどな」


「いわば、力の前借りです」


 レークス様の目が細くなる。


「視力や聴力が落ちるのは……その反動か」


「はい」


 そして王の命令。

 獣を野に放ち、実験を重ねること。

 騎士の強化を続けること。

 全部、繋がっている。


「……これが、白と緑の研究所、そして引退した騎士から得た情報です」


 書類を差し出す。


「一部ですが、証拠もあります」


「……そうか」


 レークス様はそれを受け取り、目を落とす。

 その間に、俺は――

 言うべきことを、言う。


「俺は、これを止めたい」


 声が震えないように、必死で抑える。


「でも、俺一人じゃ無理です」


 拳を握る。


「レークス様、どうか……お力を貸してください」


 沈黙。


 それでも、言葉を重ねる。


「お願いします!」


 立ち上がって、頭を下げる。

 逃げる気はない。どんな返事でも受け止める覚悟で――待つ。


「……頭を上げろ」


 低い声。

 ゆっくり顔を上げると、レークス様は難しい顔をしていた。

 指で机を、とん、とん、と叩く。


「……まずは証拠だ。可能な限り集めろ」


「……!」


 息を呑む。

 それは――断られたわけじゃない。


「それから――」



「……いいんですか」


「手段を選んでる場合か?」


「……はい」


 頷く。


「やります」


「よし」


 レークス様がにやりと笑った。


「腹くくれよ」


「はい」


 視線がぶつかる。

 一歩間違えれば終わりだ。それでも、やる。そう決めた。

 話を詰めながら、ふと疑問が浮かぶ。


「……どうして、俺を信じてくれたんですか?」


「ん?」


「とんでもない話ですよ」


「ああ、そうだな」


 レークス様は、軽く笑った。

 そして。


「王族が、愛する民の話を捨ててどうする」


 その言葉は、あまりにも真っ直ぐで。

 胸の奥に、強く響いた。


 ――この人は。

 本物だ。

 気づけば、少しだけ視界が滲んでいた。




読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ