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執事の裏切り?

ルナが眠らされた後のお話し

先ほどまでの取り乱した叫び声は、まるで最初から存在しなかったかのように、ぴたりと止んだ。


暖炉の火が爆ぜる音だけが室内に響く中、エドワードはゆっくりと腰を伸ばした。その顔から焦りの色は完全に消え去り、深く刻まれた皺の奥にある瞳は、冷徹な月の光のように無感情だった。エドワードは卓上に突っ伏したまま動かないルナを見下ろし、細く白い指先でルナの項に触れる。脈拍は深く、安定している。魔導精製された睡眠薬は、ルナの疲弊しきった肉体と精神の隙間に完璧に染み渡っていた。


「……よくぞここまで生き延びてくださいました、セレナお嬢様」


エドワードは低く、ひどく平坦な声で呟いた。エドワードは無造作に手を伸ばすと、傍らの止まり木でぐったりと眠るホークアイの首根っこを掴み、あらかじめ用意していた遮光性の高い小さな袋の中へと放り込んで口を縛った。使魔の感覚を遮断すれば、主であるルナが夢の底からこちらの動向を察知する可能性は完全に潰える。


その後、意識のないルナの華奢な身体を、慣れた手付きで静かに抱き抱えた。十年前、彼女にねだられ彼女を抱き抱えヴァレンタイン家の屋敷の庭を走った時よりも、ルナの身体ははるかに軽く、そしてアサシンとしての過酷な旅路を物語るように、引き締まって硬かった。


エドワードはルナを腕に抱いたまま、先ほどエドワードが姿を現した帳の奥へと歩みを進めた。


生活感のあった温かな部屋を通り抜け、通路をさらに奥へと下っていくと、空気はみるみるうちに湿り気を帯び、凍てつくような冷気へと変わっていく。魔導灯の明かりは途絶え、代わりに壁面へ埋め込まれた不気味な青紫色の魔石が、怪しく通路を照らし出していた。


突き当たりにあったのは、遺跡の最深部に隠された、頑強な黒鉄の格子扉だった。


その格子の表面には、ヴァレンタイン家のものとは異なる、禍々しい古代の呪詛紋様がびっしりと刻み込まれている。大気中のあらゆるマナを吸い尽くし、内部にいる者の魔力行使を完全に妨害する『魔力封じの結界牢』かつて星詠みの民が、反逆した魔導師を幽閉するために築いたとされる絶対の檻だった。


エドワードは慣れた様子で鉄格子を開けると、冷たい石床の上に、ルナの身体を横たえた。


ルナの額にまとわりつく黒髪をそっと掻き揚げ、その眠り顔を見つめるエドワードの表情には、忠誠とも狂気ともつかない歪んだ情愛が浮かんでいた。エドワードはポケットから重厚な魔導の枷を取り出すと、ルナの細い両手首と両足首へと容赦なく嵌め込んでいく。カチャリ、と冷徹な金属音が静寂に響き渡り、枷に刻まれた術式が青く発光して、ルナの体内に残る僅かな銀色の魔力を根こそぎ押さえつけた。


「これで安心でございます。この檻の中であれば、いかにあなたが鋭利な刃を研ぎ澄まそうとも、ただの無力な少女に戻る」


エドワードは立ち上がり、衣服の埃を払うようにして衣服を整えた。エドワードは檻から一歩外へ出ると、鉄格子を重々しく閉め、巨大な鍵を回した。


「あなたが夜明けを拒むというのなら、私がこの手で、永遠の夜を与えて差し上げましょう。ヴァレンタインの血脈が紡ぐ真の物語は、ここから始まるのですから……」


振り返った老執事の背中は、再び帳の向こうにある温かな部屋の光へと向かっていく。冷たい檻の奥、深く暗い眠りの中で、ルナの手首の枷だけが、ルナの自由を奪ったことを証明するように静かに告げていた。

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