戦場にいなかったのがむしろ納得の可憐さだ
シグネ視点。
ゴーダ族とラス辺境伯との戦いが終結したのは、ウィラードが前族長の首を落として倒したからだ。
シグネも戦場にいたし、その一騎打ちを見ていた。悔しいが性別の差を差し引いても、ゴーダ族で一番強い自分以上だと解ったので彼に従うことにした──した、のだが。
「これからは戦うのではなく、お互いに生まれ育った地を守って栄えさせることを考えなくてはならない。我が領は、ゴーダ族と交易を考えている」
「そこだ」
主となるウィラードの言葉に、シグネが返すと──ウィラードの隣にいる存在が、興味深そうに身を乗り出してきた。
光を紡いだように、ゆるく波打つ金の髪。
晴れた空のように、青く澄んだ瞳。
最初、ウィラードの守護精霊かと思ったが、戦場にいなかったのがむしろ納得の可憐さだ。この北の地で光、あるいは春の妖精を従えたウィラードは、剣の腕だけではなくまさに『主』たる存在なのだろう。
おそらくシグネ達ゴーダ族に、ウィラードに力を貸すよう告げる為に現れたのだろうが──しかし、いや、だからこそ配下としては言い分がある。
「我らはそもそも里を守ることも、栄えさせることも考えたことがない。我々は男は勿論、女も我のように武器を取る。子供と老人は里にいるが、彼らなりに戦の為に動いている。そんな我らを、使わないのか? 皇帝を討たないのか? 我らの主になるのなら、我らを活かせ」
「……すまなかった」
「っ、主たるもの、簡単に謝るなど……っ」
「過ちを認められない方が、人として問題だ」
「!」
謝罪の言葉に対して『軟弱者』かと思いかけたシグネ達は、顔を上げて続けられたウィラードの言葉に赤い目を瞠った。
そんな彼女達を真っ直ぐに見返し、玉座に座るウィラードが話の先を続ける。
「だが、こちらとしても言い分がある。ゴーダ族は皆、戦士なんだろう。ここだけの話だが、確かにゴーダ族の力を借りれば皇帝との戦にも勝てると思う。しかし、大切なものが傷つけられる可能性がある……それは、嫌なのだ」
そこで一旦、言葉を切ってウィラードが言う。
「俺は、ゴーダ族に勝ったことで皇帝に目をつけられている。俺の足を引っ張る為に、弱点を突かれると思う……其方らからすればか弱く思われるかもしれないが、俺はそんな存在を守りたい。だからゴーダ族にも、俺が守りたいものを共に守ってほしい。交易は、その礼であり報酬だ」
そう言って、傍らの妖精へと目をやったウィラードに促されるように、シグネ達も目をやった。
それから、戸惑ったように視線を揺らす妖精を見つめながら「まさか」と思いつつシグネは口を開いた。
「……妖精」
「え」
「他の者には見えないが、この地を訪れた我々に主を守るよう告げに来た妖精だと思っていたが……主にも、見えているのか?」
「ああ。我が妻だからな」
「妻……人間!?」
「「「「何っ!?」」」」
妖精がいてもウィラードは平然としているので、見えているのはシグネ達だけだと思っていた。
だが、こんなにも可憐で儚げな存在が妖精ではなく人間であり、しかもウィラードの妻だと知ってシグネ達は驚愕した。
そしてウィラードから共に彼女を守ると言われ、彼とシグネ達の心は一つになるのだった。
※
クララベルは、見た目に驕ることなく性格も慎ましやかで素晴らしい。だからシグネは、ウィラードの妻だとしても時折、やはり人間ではないのではと思うことがある。
(これだけ軽いし、良い匂いがするのだからやはり妖精ではないか?)
それは皇宮からの脱出時に抱き上げた時も同様だったし、彼女専属の近衛にもなれたので同じ女性で良かったと思うシグネだった。




