009:狂戦士たちの昂り
朝食を済ませて片づけを終えた俺たち。
すぐにダンジョンがある場所へと向かえば、そこには大きな洞穴のようなものが出来ていた。
平原の真ん中に存在する石で出来上がった洞窟だ。
地下へと続くその穴からは敵の気配を感じた。
多くのモンスターが穴の中で生息していて、先に向かった冒険者たちとも戦っているんだろう。
中にはイシダと同じCクラスもいるらしいが。
何故か、俺は胸騒ぎのようなものを感じていた。
理由は俺にも分からないが、普通のダンジョンに思えない。
俺はダンジョンの壁に触れながら、静かに目を閉じる。
そうして、壁から流れる魔力を感じ取り……!
ばちりと手から痛みが発した。
中の様子を探ろうとして何かに邪魔された。
ダンジョンが魔力探知を阻害できるなんて話は聞いたことが無い。
いや、この世界では普通なのかもしれないが……やっぱり妙だな。
「……二人共、警戒しろよ。俺の知ってるダンジョンとは違う感じがする」
「違う感じって何よ……でも、アンタには野生の勘ってものが備わってそうだし……用心に越したことは無いわね」
「そうだな。ケインの言葉を俺も信じよう」
アリスとイシダは納得してくれた。
そうして、アリスはポーチを開けてから何かを取り出す。
それは小瓶に入った何かであり、中には青色の液体が入っていた。
彼女はそれを俺たちに何回か振りかけて、自身にも掛けていた。
ポーションではない。だが、不思議と何かの力を感じる。
「今のは?」
「“魔除けの香水”よ。これを振りかけていたら、ある程度のモンスターは私たちを認識できないわ……まぁすごく好戦的だったり、ばかすか私たちが攻撃すれば意味ないけど」
「……では俺からも」
イシダは着流しの中から何かを取り出す。
それは葉っぱのようなものだった。
彼はそれらをひらひらと空中に舞わてから呪文のようなものを唱える。
すると、葉っぱは光り輝き光の粒となってしまう。
それらが俺たちの体に掛かり、体の中からぽかぽかと温まっていくような感じがした。
「……イシダさん。魔法が使えたんですか?」
「いや、これは魔法ではないんだ。我が国で使われる術……“人術”と呼ばれるものだ」
イシダは人術なるものについて軽く説明する。
何でも、それはイシダの国である血統を受け継ぐ人族にしか使えない術のようで。
一時的に姿を変えたり、治癒能力を高める効果を付与する事が出来るらしい。
そして、その術を使う為には三日三晩聖水に漬け込んで清められた葉っぱが必要になるようだ。
「今しがた使った術は、体内の魔力路を活性化させて自然回復力を上げるものだ。これで移動しながらでも魔力をある程度は回復できる。ポーションの使用も最小限まで抑えられる筈だ」
「おぉすげぇな! 念の為に、傷薬と魔力回復用のポーションは持って来てたけど。これなら必要ねぇかもな!」
「……いや、あくまで少し高めた程度だ。一気に回復する訳じゃない……行くか?」
「……そうですね。これ以上は出来る事も無いし……先行したパーティが気がかりだわ」
アリスはそう言いながら弓を取る。
イシダも剣の柄に手を置きながら俺を見て来た。
俺は頷いてから先行してダンジョン内部へと進んでいく。
暗い洞窟ではあるが、俺たちが足を踏み入れば壁に埋め込まれた魔法石が青い光を灯し始めた。
新たな餌が来たことによって奥深くへと誘い込むとしている。
俺は笑みを浮かべながら、食えるものなら食ってみろと呟く。
そうして、三人で警戒心を持ちながら奥へと進んでいった――
「――!」
襲い来るモンスターたち。
緑色の体色にぎょろついた黄色い目。
人間の子供程度の大きさしかない人型のモンスター“ゴブリン”たちが武器を振るう。
俺とイシダはそれを回避しながら剣を振るって奴らの首を墜としていった。
アリスも俺たちの避けながら、的確にゴブリンたちの頭に矢を放っていた。
奴らは短い悲鳴を上げながら地面に倒れて……これで終いだな。
最後の一匹を片付ける。
ごとりと首が転がり、パラパラと黒い粒子となって消えていった。
血を噴き出す事も無いモンスターもどきが消えていった後を見届けてから、俺は奥へと視線を向ける。
まるで、迷路のように入り組んだ道であり。
もしも、間違ったルートを進めば行き止まりであったりモンスターの群れと遭遇してしまう。
アリスからの提案で避けられるのであれば、可能な限りモンスターとの戦闘は控えていた。
しかし、今のように狭い道を塞ぐようにいるモンスターたちとは戦わなければならない。
俺とイシダは転がっているアリスの矢を回収し、彼女に手渡した。
彼女はお礼を言いながら、バッグからスクロールを取り出した。
丸められた紙を広げれば、そこには地図のように幾つかの部屋が道が記されていた。
彼女が持っているのは組合から支給されたダンジョン攻略用の“魔法紙”だった。
術式が刻まられた紙であり、ダンジョン・コアが作り出した場所に入れば自動的に紙へと記録を開始してくれる。
もしも、何層にも別れていたとしても、紙は自動で認識し階層ごとの地図を生成していく。
ただし、俺たちがまだ進んでいない道に関しては記録されないようになっている。
俺は剣を鞘に戻しながらアリスに今は何処まで進んでいるのか聞く。
彼女は暫く紙を見つめてから「そろそろかな」と呟く。
「……多分、規模的にもそこまで広くは無いと思うわ。階段を下りたりしていないから一層目だとして……結構奥まで来たのに階段が無いのなら……うん。今まであった分岐ルートも見てきてるし。多分、そろそろ終わりが見えるんじゃないかしら?」
「お、そっか……でも、終わりが近いって思うと。なぁんか寂しいよなぁ」
「……ふふ、そうだな。もっと攻略しがいのあるダンジョンかと思ったがな」
「はぁ、油断しすぎですよ……まぁでも、死人が出たって言う割にはそんなに強いモンスターはいなかったわね……精々がギリギリ中級くらいだったし」
アリスは不思議そうにしていた……まぁ確かにな。
あの酒場で会った冒険者三人組。
佇まいからして全員がDランク以上の実力者の気はした。
イシダほどではないにしろ、それなりに場数を踏んでいるような気もしたが……いや、先行パーティのお陰かもしれねぇな。
此処まで来る間に、先行パーティがあらかたの敵を片付けていた可能性が高い。
所々、魔法が当たったような痕跡もあったからな。
激しい戦闘が行われていた形跡であり、強力なモンスターはアイツらが倒したのだろう。
だからこそ、復活したモンスターもどきは弱いものばかりで……でも、それにしては妙だ。
「……まるで、誘い込まれているようじゃねぇか。くくく」
「……そうだな」
「……や、やめなさいよ! ダンジョンが冒険者によって対応を変えるなんて聞いたことないわよ!?」
イシダは神妙な顔で納得し、アリスは体を抱きしめて震える。
これはただの俺の勘だ。
外れている可能性の方が高いだろうさ。
けど、もしも俺たちを誘い込んでいるのであれば――面白れぇよな。
初めてのダンジョンで、ただならない力を感じるんだ。
俺の知らない未知との出会いであり、笑みを抑えようとしても零れちまう。
俺は必死に笑みをごまかしながら無言で奥へと進んでいく。
が、俺の体から溢れ出す魔力を感じ取ってイシダは少し殺気を出していた。
「……すまねぇ。ちょっと興奮しちまった」
「……いや、気持ちは分かる……強者との出会いは何時だって昂るものだ」
「そうだ。昂っちまう……く、くくく」
「…………狂戦士どもめぇぇ」
狭い道を進んでいく。
そうして、天井が崩れて穴が開いたかと思えば植物型のモンスターが蔦を伸ばしてきた。
俺は一瞬にして剣を引き抜き、全ての蔦と落下してきた瓦礫を斬り飛ばす。
そうして、おまけとばかりに彗星の一撃をモンスターのコアへと差し込む砕いてやった。
蔦のモンスターはパラパラと消えていき、俺は前だけを見て歩いていく。
楽しみだ。この先に何がいやがる……会いてぇ。会いてぇな。強ぇ奴によぉ。
武者震いがする。
早く戦いたくて腕がうずいてやがる。
俺はそれを必死に抑えながら、前方から突っ込んでくる“ストーン・ゴーレム”を見つめる。
ずんずんと地面を揺らしながら突っ込んでくるそれは狭い通路を埋めるほどだ。
その背後からもモンスターの気配を感じる。こいつは盾役だな。
青い光を発しながら、その巨体で体当たりを仕掛けてきて――剣を振るう。
魔力により強化した斬撃によって細切れにされたストーン・ゴーレム。
瞳から光を消して転がったそれ。
俺は跳躍しながら笑みを深めて、その奥に控えていたボロボロのローブに木の杖を持った“ゴブリン・メイジ”を見つめる。
「お前らじゃねぇよ」
「ギギィ――!」
呪文を放つメイジ共。
飛んでくる火の弾を一瞬にして切り裂く。
そうして、奴らの隙間を移動し――剣を鞘に納める。
奴らが振り返るが、その瞬間に奴らの体はずるりとずり落ちた。
そうして、ぼとりと地面に体の残骸を転がして消えていく。
俺はくつくつと笑いながら、奥へ奥へと進んでいく。
それを見たイシダも笑っていて、アリスだけは「やばい」とだけ呟いていた。
ダンジョンの最奥へと到達した。
此処に至るまで数多くのモンスターたちがいたが。
開けた場所にいたモンスターたちとの戦闘は回避し、体力もある程度は温存できた。
アリスは念の為にと自分が持ってきたポーションを俺とイシダに渡す。
俺はそれに礼を言いながらポーションを飲み、空いた瓶を投げ捨てた。
「……此処だな」
目の前には、明らかに中に何かいると表すような巨大な扉がある。
この区画だけ作りが他とは明らかに違う。
穴を掘り進めただけのような安い作りではなく、特殊な灰色のブロックを積み重ねて壁や床を作っている。
恐らく、この中で使われているものはアリスが欲しがっているダンジョン・メタルだ。
それが使われる場所では、大きな戦闘が発生する事をコア自体が認識している。
つまり、俗にいうダンジョン・ボスがこの部屋の中にいるんだろう。
漆黒の扉の表面には知らない文様が刻まれていた。
その両隣の台座には赤い炎が灯っている。
中からは複数の気配を感じていて、誰かが戦っている気がした。
此処を開ければ、容易には離脱は出来ないだろうが。
俺は念の為に、アリスに帰還する方法はあるかと聞いた。
「……まぁ一応は……でも、これはあくまで緊急用よ! 転移の術式が刻まれたものって使い捨てでも高いのよ!」
「あぁ、分かってるよ……何かあったら、お前だけでも逃げろよ」
「……何よ。縁起でもない……勿論そうするわよ。アンタたちと心中するつもりなんて毛頭ないから」
「けっ、そうかよ……イシダも気をつけろよ」
「あぁ分かっている……では、行くか」
俺たちは頷く。
そうして、俺とイシダは扉に手を掛けた。
力を込めれば簡単に扉は開いていく。
音を立てながら開かれている扉の先。
そこを見つめれば、冒険者が戦っていて……!
血だらけの冒険者が一人。
他は床に“残骸”が散らばっていた。
戦っている冒険者は、何時も俺たちに突っかかって来る山賊風の男であるザップだ。
必死に両手に持った片手を斧を振るって応戦しているが――弾かれる。
「うああぁぁぁ!!!」
衝撃のままに床を転がっていく。
俺たちは部屋の中に足を踏み入れてから、すぐ近くに来たザップに声を掛けた。
奴は俺を見た瞬間に、必死に「逃げろ」と言う。
その体には無数の切り傷や火傷の跡がある。
傷口からは血もかなり出していた。
このままでは失血死は間違いない。
奴はそのまま意識を失ってしまった。
「アリス。こいつを頼む」
「分かったわ……っ。何よ、アレ」
ザップをアリスに預ける。
アリスは部屋の中心にて鎮座する十メーテラはある異形の化け物を見て怯えていた。
その下半身は蜘蛛のようになっていた。
体中には無数の毛が生えて赤い文様のようなものが描けれている。
合計で八本の太く長い脚が生えていた。
口のような部分からはだらだらと唾が流れ落ちて、触れた床から煙が上がる。
そして、上半身らしきものは人間のような体だが。
頭は無く、首からは黒い瘴気のようなものが噴出していた。
足と同じく八本もある腕にはそれぞれ違う形状の武器が握られている。
そのどれもが術式が組み込まれているように感じた。
モンスターの中で、あんな歪な形をしたものは見た事が無い。
いや、モンスター出ないのであれば少しだけ記憶にあるものがあった。
それは俺がこの世界で初めて受けた緊急依頼で戦った化け物だ。
ヘドロのようなものを纏ったモンスターであり、アレはそれに似ていた。
決定的な違いがあるとすれば、アレの方が何倍もあの時のモンスターよりも――“強い”事だ。
化け物は足を動かしながら、俺たちに視線を向ける。
すると、背後の扉は完全に閉じられた。
広い部屋の中に存在する無数の台座。
その上に灯る青い炎が噴き上がり、異形のモンスターを照らしていた。
化け物の体中に無数の目玉が出現した。
真っ赤に充血した目であり、それらが俺たちへと殺気を視線に載せて放つ。
アリスはザップを引きずって安全な場所に隠れに行った。
俺とイシダは剣を抜き放つ。
たらりと額から汗が流れて、俺はにやりと笑った。
「行くぞ。イシダッ!!」
「抜かるなよッ!! ケインッ!!」
俺たちは互いに声を掛けて――駆ける。
化け物は体を揺らしながら、此方に向かってきた。
俺たちは武器に魔力を流しながら斬撃を放つ。
奴はそれを魔法の武器で受け止めて弾いた。
そうして、接近した俺たちに武器を勢いのままに振り下ろす。
俺たちは互いに逆の方向へと跳躍――瞬間、怖気が走る。
化け物が手にした武器を振るう。
棒のような形状のそれは棍棒のように見えた。
が、怖気が走った瞬間に、俺は素早くその場から離れた。
「――ッ!」
瞬間、俺が先ほどまで立っていた場所が大きく抉られた。
床がごっそりと削られている。
まるで、巨大なスコップで掘り抜いたようで……やべぇな。
アレらの武器一つ一つには、違った特性がある。
それら全てが俺たちにとっては脅威だ。
全てを見るまでに生き残っているのなら万々歳だが。
奴の纏う空気からして、それまでに俺たちを片付ける気だろうと言う事は分かる。
……何でだろうな。奴からは……“知性”を感じるぜ。
恐らく、奴には最低でも人間レベルの知能がある。
でなければ、武器を使う事もその特性を活かす事だって出来ない筈だ。
厄介な敵であり、かなりの強敵だが――そうでなくちゃ面白くねぇよなッ!!
俺は笑みを深めながら、無数の目玉からの追跡を振り切ろうと素早く地面を駆けた。
ぎょろぎょろと動く目玉。
その反応速度はかなりものだ――が、敵は俺一人じゃねぇぞ。
「――シィ!!」
イシダは奴に突っ込み攻撃を仕掛けていた。
連続して振られる剣戟であったが、化け物はそれを全て一本の剣で弾いていた。
洗練された刀捌きに乱れも迷いも無い。
が、化け物はそれを全て剛の剣によって力任せに払っていた。
突風が吹くほどの剣圧であり、俺はそのまま奴の背後に飛び掛かる。
瞬間、化け物は別の剣で俺の攻撃を受け止めた。
互いの剣がかち当たり、魔力が迸って火花のようなものが飛び散る。
ギリギリと力を込めて――俺は奴の剣を弾いた。
瞬間、俺がいた空間が歪んだように見えた……あぶねぇ!
少しでも静止すれば、奴のあの魔法の武器による攻撃が来る。
アレはほぼ即死級の攻撃であり、防ぐ術は無いだろう。
当たれば最期であり、常に動き続ける必要がある。
射程はそこまで広くは無い筈だ。
そうでなければ、扉を開けて入った瞬間に使っていただろう。
化け物は魔力を周囲に放つ。
その衝撃波を受けて俺たちは強引に吹き飛ばされた。
イシダは転がりながらも体勢を整えて、再び化け物へと斬りかかる。
俺も空中で回転し、壁を蹴りつけて一気に化け物へと飛び掛かった。
奴は全ての目を使って俺たちの動きを冷静に分析し、持っている武器を使って攻撃を捌く。
俺たちは奴の剣で弾かれながらも、互いに連携を取って奴の弱点を探る。
勝てない相手なんかいやしねぇ。
不死身であるとも、何かしらの突破口はある。
暴いてやるぜ――お前の弱点を。
「……そして、ダンジョンを攻略して――たらふく酒を飲むぜッ!!」
化け物へと肉薄。
瞬間、奴の剣が横なぎに振られて――俺の体が掻き消える。
奴の視線から一瞬逃れる。
そうして、腹の下を潜りながらそのどてっぱらに向けて彗星を撃ち込む。
瞬間、奴の体は上へと持ち上がり、奴の腹には少しだけ罅が入った――かてぇ!
――でも、弱点は分かった!
「イシダ! 腹だ! 下には目がついてねぇぞ!」
「分かった! 俺が隙を作る! お前の攻撃で奴を仕留めろ!」
スライディングのまま化け物の下を通り抜ける。
イシダは俺の言葉を受けて、刀を鞘に戻す。
そうして、化け物へと突っ込んでいった。
空中にて回避不能のイシダ。
化け物は俺の攻撃でうめき声を上げながらもイシダを攻撃し――
「――旋風ッ!!」
「――!!」
イシダが刀を抜き放つ。
瞬間、その刀から生まれた衝撃波が化け物の体を襲う。
甲高い音が無数に響き風の刃が奴の体の装甲を削り取ろうとしていた。
が、腹以上に硬いそれに傷をつける事は出来ない。
しかし、イシダの狙いはそこじゃない――化け物の足が浮き上がる、
奴はその場に留まる事が出来ず。
よろよろと体を浮き上がらせた。
腹が丸見えであり、俺はその腹に目掛けて刺突を――ッ!!
魔力の流れを感知した。
イシダも同じであり、俺はイシダに向かって跳躍する。
互いに足をぶつけ合い、そのまま力任せに反対方向へ飛んでいった。
瞬間、俺たちがいた空間に炎が広がっていった。
地面から巻き上がる炎の柱であり、それらが蠢きながら俺たちへと向かってきた。
俺とイシダは武器に魔力を流し――放つ。
一直線に進み斬撃が炎を断ち切り掻き消した。
異形の化け物はその隙に体勢を戻して、別の武器を振るった。
俺たちは上に跳躍する。
瞬間、地面に奴の影が広がっていき、うねうねと触手のようなものが伸びて来た。
俺たちの体をからめとろうとするそれらを剣で斬り飛ばしていく。
そうして、着地する瞬間に剣を地面に突き刺し、纏わせていた魔力を一気に放った。
ぶわりと広がったそれが光となり影を打ち払う。
俺たちはそのまま体を転がしながら、奴の空間に作用する攻撃を回避した。
地面を転がりながら体勢を戻し、そのまま駆けていく。
俺たちは反対方向から同時に斬撃を放ち――奴が剣を振るう。
空中で打ち払われた斬撃。
魔力の粒子が舞い、奴はぎょろりと視線を俺たちに向ける……一筋縄ではいかねぇな。
中々に手強い相手だ。
イシダも同じ気持ちだろう。
俺たちは冷静に化け物の動きを分析しながら、最適な戦闘方法を考え続ける。
考えろ、考えろ――思考を止めたら死ぬんだぜ。
俺は常に考えながら縦横無尽に駆けていく。
化け物の放つ斬撃を回避し、攻撃し続けて。
更に移動スピードを上げながら、空間に俺の気配を漂わせる。
ゆらゆらとそこに現れる俺の残像たち――が、化け物はそれらに惑わされない。
同じ技は二度も通じないだろう。
化け物は常に視線を動かしながら、俺とイシダをジッと見つめていた。
俺はにやりと笑いながら、いざという時は“切り札”を使う事も考えておく。
楽しい。最高に楽しいじゃねぇか――そうだろ。イシダッ!
互いに視線を交わす。
奴自身も今まで見た事が無いような笑みを浮かべていた。
俺たちは強敵との出会いに心から感謝し、今という時間を心いくまで――“堪能する”。




