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7(私視点) それだけが私の自由

胸糞悪いというかイライラする描写があります。はぁ~うっぜぇ~ってなるかもしれません。苦手な方はご注意ください。

 

「い、いったぁい!何すんの!」


 ほんの少し頬を叩いた程度で聖女はぎゃぁぎゃぁ声を上げた。


 赤くもなってないしもちろん腫れもしないだろうけど、化粧水を強めに叩き込んだくらいの平手打ちでは。


「聖女を傷つけたら死罪だってへーか言ってたよね?!リアさん死刑にしてよ!へーかぁ!騎士様ぁ!この女の首飛ばしてよ!」



 この女、頭やっぱりおかしいのね、と冷たい目で騒ぐ聖女を眺める。


 陛下は目を見開き驚いている。私がしたことの真意を探りたい、みたいな。


「陛下。見ての通り私は聖女様を傷つけました。どうぞ犯罪奴隷として娼館にでもお送りください。」


「あぁ?死刑だっつってんだろババア!」


 汚い声で聖女は叫ぶ。可愛いキャラ設定をしてるもんだと思ったけど忘れちゃったみたい。



「いや…しかし、」


「へーかぁ!私がぶたれたとこみてたでしょ?!なんで殺さないの?…え、まさかホントにこの女とヤッてんの?だから肩持つの?おーひさまそれでいいの?ダンナ浮気してるよ?」


 キャラをギリギリ思い出したらしい聖女は小首をかしげながら言葉にするのためらうようなことをぽんぽん叫ぶ。


 王妃様は何も答えない。

 答えられないだろう。


 暴言もまた聖女を害したことになる。この聖女なら教育的指導も諫言も同じく暴言扱いになるだろう。



「犯罪者としてどうぞ連行してください。」


 私はそう言って隣に立ち尽くしている彼に手を伸ばした。



「…ともかく連れて行ってくれ。頭を冷やして考えよう。聖女様はどうぞお部屋にお戻りください。顔を冷やしましょう。」


「へーかぁ!なんでよぉ!アヤカぶたれたんだよぉ?」


 椅子から自由に立ち上がれずバランスを取りにくいからあの程度しか叩けなかったけど、倒れこむ勢いで殴っても良かったかもしれない。


「さぁ、侍女たちと共にお戻りください。」


「やだぁ!あの女殺してよ!ウザいのよ!あの女がいるなら私聖女やらないからぁ!!」



 …私が何をしたというのか。


 全くわからない。あの時まで彼女とは知り合いじゃなかった。


 私の仕事柄一方的に知られていたんだと思う。

 事務所の不祥事があり仕事がなくなった際、枕営業だと週刊誌で取り上げられたが一過性のもので、その事実はなかったのですぐ鎮火してた。ただ、ネットニュースなどでは最近でもマクラで干されたモデルRが復帰とか書かれていたから、それを見ていたのかもしれない。



 でもだからって殺したいほど恨む?

 妬まれてる、だったらわかるけど、ここまで?


「失礼」

 ガシッと掴まれるように彼に抱き上げられた。

 いつもとは全然違うその乱暴な動きに驚き、思わず必死にしがみついた。


「陛下」


「ああ、代わりはもうくる。行け。」


「ちょっとぉ!騎士様まで!なんで!なんでそいつに優しくすんの?!みんな騙されてるよぉ!!」


 そう言って聖女が叫んだあと、彼が急に体の向きを反転した。同時にバシャっと水がぶちまけられたような音がして、すぐ後にゴトン、パリンと何かが落ちて割れる音がした。


「聖女様!それは熱湯が!」


「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!なによ!アヤカが聖女なのに!」


 熱湯が入ったポットを投げたの?

 お茶用のお湯だしポットに入ってたから沸かしたまでとはいわないけど、相当熱いはず。


 庇うために聖女に背を向けた格好になったんだろう。

 騎士の制服はコートのような厚手の上着と、シャツなど何枚か重ねて着ているように見える。かかった場所が悪くなければ火傷はしないと思うけど、私に体にかかっていたらと思うとぞっとする。


「行きましょう」


 そう言って彼は足早に歩き出す。

 聖女はまだギャーギャーと騒ぎたてている庭園を、彼にぎゅっと強く抱かれたまま後にすることになった。






 馬車の中でいつもなら降ろされるのに、抱えたままで。

 熱湯がかかったなら早く手当てを、と言ったけれど無視をされて。



 屋敷について使用人の人たちが慌てて出迎えていたけれど、部屋に入れるなと一言だけ言って。


 ドン!とドアを蹴破るような勢いで開け、少し乱暴にベッドの上に落とされた。


 私の部屋ではない、これは屋敷の主人である彼の部屋。

 広いベッドに落とされた時から彼の匂いで肺がいっぱいになっている。


 ガチャ、と部屋の鍵がかけられた音がした。



 濡れたと思しき騎士制服のコートを脱ぎ捨て、ベッドサイドにあった椅子に乱暴に腰掛けた。


「どうして!」

 叫ぶように問い質される。


「・・・ごめんなさい。色々していただいたけれど結局犯罪者として生きてくことになりそうです。」


「どうしてそんなことを言うんだ!なぜあんなことをした!」


 普段無口で話す時も声を張ることもない彼の怒声が怖くて、少し身動ぐ。


「あの聖女の言うことはみんな従うと聞いてます」


「だから?だからあんなことを?」


「どうせそうなるなら自分から、と思ったまでです。」


 聖女を召喚した国の役目は聖女に心健やかに過ごしていただくことであり、聖女の力は望みを叶えることが出来るのだと家庭教師の先生に教わった。


 使い方を間違うと大変なことになる、だからこそ聖女をいかに教育するか、が問題なのだと王妃様は前にこぼしてらした。

 だけどその教育は今日までなされてないのだろう。

 できなかった、が正しいかな。


 だから彼女の喚き声が本当になってしまう前に自分でカタをつけたかった。


「あなたのことも脅していたでしょう?聖女を辞めると何度も言っていたわ。」


 聖女の声は大きかった。

 甘えながら擦り寄り、立場をたてに彼を脅して好き勝手しようとしてるのが聞こえていた。


「同じことを陛下に言ってしまうのでは、と恐ろしかっただけ。」


 王妃様がいるにも関わらず陛下と私が通じてるように言っていた。

 そんなありもしないことをべらべら喋って陛下や王妃様を脅すみたいなことも言うかもしれないと思ったし、私を殺さなければ聖女の力を使わないと言うかもしれない、と。


 予想通りに最終的にはそれを言っていたけれど、もしそれが叶ってしまうのなら


 それなら。



 あの女の言葉でなるよりは自分から犯罪者になったほうが気分がいい。


 ただそれだけだった。

 だからさっさとカタをつけたくてパチンと叩いた。


 たったそれだけのことだった…


 と、思いたい。



「まぁ、ムカついて殴ったことは認めます。感情的になりすぎていたと思います。」


 彼に擦り寄る聖女に、嫉妬したわけでは、ないと。



「…あの程度、傷つけたうちに入らない。」


「傷ついたと聖女が言えば通るのでしょう?」


「あなたの方が傷ついてた!!」


 椅子から立ち上がり、反動でガタンと椅子は倒れ転がっていった。そのままベッドに座る私に近づいてきて、ガシッと肩を掴まれた。


 触れている肩が、手が、熱い。


「言葉の意味は分からないところがあった。でもあなたを貶めていることも、体を売り物にしろと言っているのだともわかった。傷ついたのはあなただ!」


「…そう、ですね」


 嫌な気分だった。

 理由の分からない酷い言葉の暴力を浴びた。

 それは確かに、傷ついたと言えるんだと思う。


「ならなぜ、あんなことを言ったんだ」


「この国のルール、なんでしょう?聖女様が正しい。聖女様のために、聖女様、聖女様。なにかにつけて、聖女様。

 私の生まれ育った場所ではそんなルールはなかった。前のとこだったら傷ついたって叫んでた!やめてって言ったわ!!でもここでは言えなかった。だから」


「だから犯罪奴隷になって体を売ると?」


 違う。

 違う、違う。


 そういうことじゃない。


「自分で選べるものを選んだだけです。」


 あの時、あのまま黙っていてもなんやかんやとわがままを言って聖女は私を娼婦かなにか、体を売る職業に就かせただろう。


 それでなければ死刑?まぁ、そこまで急に決まることはないと思っていたけれど、とにかく徹底的に排除するつもりで最初から話していたんだと思う。


 叩いても叩かなくても、一緒。


 それなら、私は。


「自分で選んで、自分で決めたかった。それが私に残された自由だった。」



 この国は息苦しい。堅苦しく決まりも多い。



 ここに来る前はきつい事も多いけど、自分で選んだ仕事をしていた。その前だって自分で選んだ学校に行き、自分の好きな友達と、自分が行きたい場所に行った。

 自分の好きな服を着て、自分の好きな曲を聴いて。


 それでもあの国で生きていて、不自由だなと思うことはたくさんあった。

 でも違う。ずっと自由だったんだ。



 手を伸ばせば、どこにでも行けた。行こうと思えばどこへでも。


 たとえ今のように片足をなくしても、義足だってつけられた。車椅子だってあったし、自分で運転できる車も探せばあった。

 旅行にもいけたし、このままでもモデルもして働く道を作れた。




 でもここには、ない。

 ここで生きていくルールを学んでいくたびに、不自由さで息が詰まった。

 コルセットとおんなじ。


 ぎゅうぎゅうしまって、息ができない。


 それでもなんとかもがいて、私が勧める道を探そうとしてきたけど、選べるものが少なすぎた。

 聖女に目をつけられて、それは余計に少なくなっていた。


 だから。



「私の身の振り方くらい自分の意志で決めたかった。どうせ結果は一緒だとしてもあんな女に決められてではなく、自分の決断と行動で決めたかった。それだけよ。」









「…そう、ですか」


 がっしり掴まれていた肩をそっとベッドに寝かせるように押されて上半身が倒れた。


 彼はそのまま、ベッドに上がり私の上に跨いで。



「では、俺があなたを買う。一生分。それでいいでしょう。」




 今までにないくらい彼の顔が近くなった。


続きは明日のお昼になります。

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