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聖女召喚に巻き込まれた私と、その足を落としてしまった俺の物語  作者: 椿 柚柑


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8(俺視点) 感情たちが渦巻いて

やや性的な表現があります。

欠損した部分に触れる描写があります。

苦手な方はご注意ください。

 

 彼女は美しい。

 どこまでも、どこまでも。


 あんな状況ですら、自らを生きている。

 ただひたすらに自分にまっすぐに。





 そんなまっすぐな、美しい彼女。

 何も選べなかったと言った彼女。



 彼女の持っている選択肢の中に俺がいなかったことが悲しくて悔しくて。




 そう、悔しかった。

 怒りに近い感情。





 俺があなたを買うと言った時、その目は怒りでもなく、悲しみでもない色に染まったように見えた。


 嫌がられれば止めるつもりは、あった。



 でも彼女は少しも嫌がりはせず、全てを受け入れた。







「…随分、手慣れてるんですね」


 帰ってきたのは、まだ夕方にもならない時間だったはず。それから何度もベッドから出ようと思ったものの、離れ難くて何度も何度も彼女の身体に跡をつけた。

 俺をものだと主張したい、そんな子供じみた執着で。


 気付いたら夜を超え朝になりそうな時間だった。



 喉が乾いたと言われれば魔法で水を出し、それを口移しで飲ませ、用を足したそうにしていれば抱えて連れて行った。流石にバスルームからは出たけれど、すぐそばで待って終わればすぐにまたベッドに戻った。


 1秒も離れるつもりはない、全部俺のものだ、と意地になっていたと思う。


 恨まれてもいい。他の誰かに彼女を触らせるくらいなら。





 少し落ち着いた頃、彼女の口からぽろっと出たのは恨み言でも何でもない言葉だった。


「手慣れては…いないと思うが」


 28にもなり、女性と触れ合ったことが無いとは言わないが、もう何年も前のことだった。

 誰と一緒に朝を迎えたのかさえ覚えていない。


 俺にとって女性とはそれくらいのものだった。

 興味がない。面倒くさい。うるさい。香水や化粧臭くて吐き気がする。

 それでも紳士的に振る舞うことが義務とされる貴族社会で、女性たちと関わらぬよう常に仕事をし続けていた。

 時々母親からどうしてもと言われ見合いを受け、義務的に話をし義務的に断る。


 結婚する必要も跡継ぎも必要ない。気楽なままで生きてきた。



 それでも一応は知っていた女性への接し方、触れ方なんてものを気にする余裕など少しもなく、ただ想いのままにしてしまった。

 彼女の白い艶やかな肌には赤い跡がいくつもあり、その跡を数えてもっと刻み付けたいような気持になった。


 そのうちの一つに触れると、彼女は長い睫を伏せて、そっと顔を背けた。

 その仕草が可愛らしくみえ、彼女をまた抱きしめる。


「…そういう意味ではなくて、よく脱がせられたなと。」


「…ああ、ドレスや下着のことか。」


 椅子やテーブルにできる限り皺にならないようにドレスや下着がかけられている。

 肌を締め付けいたそれらを外しても彼女は折れそうなほど細い腰をしていた。


「私は1人では脱ぐのも着るのもできませんし、誰かの着替えを手伝うのも難しそうです。」


「…教わった」


「なぜ?」


 疑われたくない、と思い思わず素直にそう言ってしまう。


「あなたの着替えを手伝えるようになりたかった」


 侍女頭に頼んだ時は変態ですか?とニヤニヤとからかわれた。

 だが、彼女がもし、貴族の暮らしが嫌だとしたら、それで一生守らせてはくれないのだとしたら。

 平民になるのは難しくても、こんな屋敷ではなくもう少し小さなところで慎ましやかな生活をすることも考えていた。


 その時着替えを手伝うのは俺の仕事にしたいと。


「…なぜ?そこまでしなくても十分良くしてもらってますけど」


「そうじゃない」


 どんなに抱いても彼女には俺の気持ちは伝わってない、とその言葉でわかってしまった。

 いや、買うと言ったのは俺だ。俺だけれど。




 ()()、と強調したことをわかってほしかった。



 怒りのような、嫉妬のような、そんな思いが巡る。


 そっと彼女の右腿に手を伸ばす。

 びくっと大きく彼女の体が跳ねた。


「そこは、触らないで…やめ、て…」


「やめない」


 体をずらし、なくなってしまったその際に口付ける。



 治した部分はあまり痛覚がないのだと前に言っていたが、触られている感覚はあるようだ。


 指で、唇で、そっと触れるたび体が反応している。


「いや、いやです。やめて、もうやめて。」



「やめない。」


 君がわかってくれるまで。

 何度も触れて口付ける。


 俺のせいで足を無くしても、この世界から帰れないとわかっても、ひたすらに美しい君に最初に芽生えたのは贖罪の気持ちよりも忠誠心だった。

 次に、頼られないことで嫉妬のような感情が生まれた。


 劣等感も感じた、無力感も味わった。



 怒りも憤りも生まれた。暴力に訴えてしまいたくなった。陛下が冗談のように言った無理矢理子供を、という案をなんど実行しそうになったか。


 そんな俺の苦悩など知らないで、必死にこの世界を生きようとする君をみて、自分の愚かさを知った。

 情けなさを知った。

 劣情を掻き立てられ、抱えた感覚を思い出しながら自分を慰めた。


 そんな醜さを気付かれまいと、抱き上げる時は殊更慎重に優しく、羽のように軽い体を潰してしまわぬよう、でも逃げられもしないように閉じ込めるような気持ちで触れた。


 女に物を買い与えるほど無意味なことはないと思っていたのに、服を買い合わせた小物を買い、菓子を買い、本などもあれやこれやと買った。

 あまり渡せば嫌がることもあった。加減が難しく受け取るのを渋るのをみて苛立ちもした。


 それでも俺の選んだドレスを着るのを見て胸が張り裂けそうで。

 最初は訳も分からず買っていたがそのうち趣味の色や形をリクエストしてくれるようになり、その通りのものを用意すると目じりが少し下がって嬉しそうな顔をして、そして必ず着てくれた。

 今すぐ抱きしめて、そのドレスの下を暴きたいと何度も、何度も思った。





 そうしてようやく、君を愛しているんだと知った。




 伝えているつもりで、でも受け取らない君を、いつか首を縦に振るのを待つつもりで。

 だけど指からすり抜けて飛び立つように生きる君をどうにか繋ぎ止めたくて。


 買うなどと言ったことは、詫びなければ。



 でも君がまだわかってくれないなら。


 わかってくれた後にしたい。せめて気持ちを受け取って。




 何度も繰り返していたとき、彼女の手が伸びてきて俺の額を押さえつけキスができないように力を込めた。




「罪滅ぼしで私に触らないで!」




 …いま、彼女はなんて言った?



続きは午後三時くらいにアップします

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