第7話 共通化で夢の脱・馬車馬生活!
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さて、ペトラちゃんを見たフラン様。なにやら画策しているようですがさて。
今回はどんな知恵を授けるのでしょうか。
掃除をしつつ、チラチラと私を見ているかなと思っていたら、ペトラが口を開いた。
「あ、あのー……フラン様? どうしたんです、さっきからニヤニヤして。すっごく不気味なんですけど……?」
どうやらいつの間にか笑ってしまっていたらしい。しかし不気味ってなんだ。失礼な話だ。
「んー? んふふ。いやなにね。ペトラにやってほしいことがあってさ」
「え、ボクにですか? もちろん、お仕事ですよね?」
首をかしげて問いかけるおさげの少女。さらにボクっ娘、しかもメガネときた。なんという属性被せか。うん、嫌いではない。
「他に何があるってのよ」
「えー、例えば掃除……とか?」
そこ、なんで疑問符をつけるかな。
「アナタにとって、店の掃除は立派な仕事だと思うのだけれど」
「やっぱ、そうです、よね?」
「そうですよね? じゃないっての。気持ちよくお買い物してもらうのにもそうだし、何よりホコリやゴミまみれの店の薬が効くように感じると思う?」
ペトラは首をかしげてうーんと一回うなった後、
「えーっと、効かないかなー? その前に、飲みたくないかなー?」
などと返してきた。
「アナタのオツムにも正解を導き出す常識が備わっていて助かったわ」
本棚の本を取り出すと、うっすらホコリが舞った。思わず手であおぐ。
「あれっ? またボク、褒められちゃいました?」
パッと笑顔になった彼女が自分のあごを指差す。
「人類がみんなアナタみたいなハッピー回路でできてれば、戦争も起きないだろうにね」
ホコリまみれの本を戻しつつ、ジト目で嫌味をいってやるも、
「ホントそうですよ。戦争なんて、ダメ、ゼッタイ! ですよ」
などと彼女は胸の前で腕でバッテンを作った。ダメだ、効果はいまひとつだ。
「さて脱線したわね。少なくともここは薬屋よ。不潔な状態は論外。雑然とした雰囲気は権威を失わせるわ」
「権威だなんてそんな」
「何言ってるの。客は権威を買いに来るのよ? ここのベストセラーはアナタのおじい様が処方された薬でしょ?」
「そうですね」
「キツイ言い方をすれば、それはあなたの薬でなく、お爺様の薬を買いに来てるということなのよ」
「そ、それは! ……そう、かも、しれません」
一度は反論しようとしたが、思い当たるフシがあるのかすぐにおとなしくなった。
「だからあなたは自身の実力で実績を積まないといけない。そのためにはつまらない事で失点できないの。わかる?」
頬に手をやり、しかしすぐに答えは出たようだ。
「つまらない事。今のケースでいうと清潔な状態でお薬を提供する、ってことでしょうか」
「アナタ時々アタマいいわね」
「さすがに今は褒めてないですよね」
ペトラは眉を寄せた。大げさに驚いて見せたことに気づいたか。
「うん、やっぱり時々アタマいい」
「ボク、さすがにちょっとムカつきました」
頬を膨らませたペトラが抗議の声を上げた。怒り方もかわいい。
「ごめんごめん。で、今の話の中で清掃と清潔の必要性はわかってくれたわね」
「え、あ、そうですね」
目をぱちくりして返事をする。
「じゃあこの状態を維持してね。理由がわかっていれば辛くないでしょ。ほかにも意味はあるけれど、まずはこのあたりでいいでしょう。必要になったら追々教えるわ」
「ほかにも理由があるんですか?」
「あるわよ、もちろん。けれどいきなりアレコレ言ってもアタマに入らないでしょ? だから追々教えてあげる。そんなことよりお願い事よ」
「あ、そういえば話はそこからでしたね。なんです?」
小首をかしげてペトラが返した。
「アナタにはこれから安定的に薬を準備してもらう必要があると思って。なのでバンバン量産してほしいのよね」
バンバン、のところでついうっかり『ろくろ』を回してしまった。意識高い系の経営者がビジネス書に乗ると九割やってしまう残念ポーズ。おまけに悪い表情してたかも……。
「そ、それは昼夜を問わず働き続けろということでしょうか……さすがフラン様、きちくです。シビレます」
なぜ頬を染める。
「誰もそんなこと言ってないでしょ。勝手に人聞きの悪いファンタジー口にしないでちょうだい。でもまぁ確かに、普通に作ったら徹夜でも足りないくらいの量を注文することになるのかしら」
あごに手を添え、概数をはじいてみる。そんな中でもペトラはどんどん不思議な森の住人になりそうだった。
「やっぱり馬車馬のように働かせるつもりじゃないですかぁ。ボク、このわかさで過労死してしまうんだ。ごめんねおかあさん。ボクもすぐそっちにいくことになりそう」
何考えてんのこの子は! 計算できないじゃないもう!
「んだぁ、もう! そうならないためのやり方を併せて教えるから大丈夫だって!」
「きょうつうか?」
こてんと首をかしげ、私をじっと見つめるくりくりの目、アンド眼鏡。
「そ、共通化」
「ってなんです?」
「アナタの馬車馬生活をバラ色に変える秘策よ」
「バラ色ってのはとても魅力的ですけれど、それってつまりどういうことなんですか?」
まぁこの世界にはまだない概念かもしれない。
「んー、例えば頭痛薬と熱冷まし。それぞれ途中までは作り方同じじゃない?」
ペトラはそうですね、とうなずく。
「簡単に言うと、その途中までの状態を先に準備しておくことと、代替できる材料を出来る限り同じ材料に寄せていくこと」
もちろん混ぜたら日持ちしない場合もあるから、場合によるけれどと付け加える。
「つまり、原料在庫を減らせるってことですか」
「それだけじゃないわよ? 製品を提供するまでの時間が短縮できるし、在庫に寝かせる資金も圧縮できる」
「なるほど、そうすると急な入用にも素早く答えられる、お金のやりくりも楽になる!」
ペトラが手をぽんと叩いて得心したように頷く。
「そこまでわかっていればその効果もわかるよね。共通化で原価を抑える効果もある。まずはその状態にして欲しい。そうすることによって、あなたの店は絶対に繁盛する。私を信じて」
わかりました、とペトラが頷く。
「良い返事ね。じゃついでに在庫管理のかんたんな考え方を教えておくわ」
「実はソレどうしようか後で聞こうとおもってたんですよね。私よくうっかりして薬草きらしちゃうんです」
ホッとしたような表情で彼女が続く。
「まず、調達先……この場合は商人ギルドなのかしら。直接採集者と契約しているわけじゃないわよね」
ペトラははい、と頷く。
「商人ギルドに注文して、どれくらいの期間で届くものなのか。季節や需要で変動するものなのか。保存はきくものか」
「わわわ、ちょっとまってくださいねフラン様。えと、ほとんどのものは注文して中二日で届きます。元々乾燥させている薬草なので季節変動もありませんし保存も効きます。一部高価で手に入りにくい物があるくらいです」
最初慌てた様子だったけれど、落ち着いて返答する。さっきは冗談めかしたけれど、この子本当に頭はいい。
「わかったわ。在庫管理の方法は発注点というものを決めて、そのルールに従って注文するの。方法は大きく分けて二つ。定量発注点と定期発注点」
指を二本立てて説明する。
「定量発注点とは、中二日で消費する分プラス安全在庫を割り込んだら一定量を注文するやり方。定期は計算式があるけれど、おおむね一定期間の在庫が安全量を割り込まないように定期的に不足分を補充注文するやり方」
「定量と、定期……」
「定量は安価、入手が容易、需給が安定している、共通の材料である場合採用するわ。対して定期はだいたいその逆ね」
「なるほど。ウチでいうと、高価な材料は定期発注点で、残りはすべて定量で大丈夫そうですね」
「そうなるかしらね」
「ふ、フラン様」
「なに?」
「これは……恋でしょうか」
「は?」
「ボク、フラン様にドキドキしてます」
「はいはい。じゃ、ドキドキついでに外回りも掃除しなさいね」
「ええ、そこは一緒にやってくれないんですか?」
「あなたの店、でしょ? なんとかなさい」
「てかそれドキドキ関係なくないですかー!?」
そんなわけで、この後二人でメチャクチャ作業と在庫の共通化を考えた。
最後までありがとうございます。
似たような作業は同じフローにしてまとめてしまうと効率もあがり、品質も安定します。
でも今はペトラちゃん一人ですが、今後繁盛し人を雇うようになったら、さてどうなりますかね。
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引き続きのご声援、よろしくお願いいたします。




