第8話 銀髪ドリルのおしゃれなあの娘は伯爵令嬢
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あの後ペトラちゃんとムチャクチャ薬屋のカイゼンをやったフラン様。
今回は優雅な朝食シーンからのスタートです。
「ご存知です? お嬢様」
「何かしら?」
メイドさんはよく、ティーカップにお茶を注ぎながら仕入れたうわさ話を聞かせてくれる。
「マイヤー薬店。最近急に良くなったって、街で評判らしいですよ」
「へえ」
「正直あそこはおじいさんの名前でかろうじてやっていたという感じだったんですけれど。何があったんでしょうね?」
カチャリ、とテーブルに置かれたティーセットを優雅に取り上げると、お茶の香りをたのしみつつ、「何かあったのかしら? 気になるわね」などと合わせる。
心のなかでしてやったりとガッツポーズを取る。
けれど「それな、私がやったんだわ」なんて言った日には質問攻めか、はたまた可愛そうな子と微妙な目を向けられる未来が見えすぎる。大人な私は自重するのだ。
あれから数日。
ペトラの店は評判を聞きつけた人々によって、順調に売上を伸ばしているようだ。
あのあと彼女に習慣化するように言ったことは主にこの三つ。
ひとつめ。お店の内外を常に綺麗にすること。
ふたつめ。在庫管理を徹底すること。
みっつめ。本人も身ぎれいにすること。
悲しいかな、薬屋も所詮は人気商売だ。幸い彼女はきちんとすれば見た目は悪くない。むしろいい方に属するだろう。言い方は悪いけれど、彼女目当ての客がつくなら、それはそれで商売的には成功だ。
この調子だと、おもったより早いうちに次の課題が出てくるはず。
その時が来るのを待ち望んでいる自分に戸惑うけれど、本当に仕事が好きだったのだと、呆れながらもほくそ笑む。
「? お嬢様、どうなさいました、ニヤニヤされて」
「あ、ごめんなさい。朝から美味しい食事とお茶をいただくことができて、思わず頬が緩んでしまったの」
「それはそれは。ありがとうございます」
そろそろ自室に戻ろうとした頃に、食堂の扉が開いた。
「あらフラン、ここにいたのね。ね、今日はどんな予定なのかしら?」
お母様だった。今日も変わらずお美しい。
今日はおじい様との視察は入っていない。自室でネコと戯れてごろごろするつもりではいたけれど、別に予定というほどではない。
「特に何もありません、お母様」
「あら、ならよかった。今日はアルと三人で街に出ましょう。支度なさい」
「ちょうど私も街に出たかったの! すぐ準備します」
そろそろペトラの様子が気になっていたところだ。ちょうどよかった。
◇ ◇ ◇
街をゆっくり歩きながら通りの店を眺めていると、隣の兄が話しかけてくる。
ボロは出ていないはずだけれど、注意しないと。
「そういえばフランとお話するの、久しぶりかも。頭のケガは大丈夫みたいだね」
兄のアルフォンゾは二つ上の八歳。……だったはず。先日王都から、父とともにほぼ半年ぶりに帰ってきた。
お父様の栗色の髪を引き継いだ彼は、性格もどうやら同様に受け継いだらしい。気が優しいといえば聞こえがいいが、要はどこかぽやんとした、いかにも貴族の長男然とした雰囲気のおぼっちゃんなのだ。
「けれどおどろいたよ」
「なにがです、アル兄様」
「この半年でフランはなんだか大人になっちゃった気がして」
ぎく。
「なんかおじい様の工場とか、ほら。そこの薬屋さんとかの悪いところを良くしたって、おじい様がすっごくほめていたから」
ぎくぎく。
「たまたま、気になったところを口にしたら大人の人がすごいって。よくわからないんだけれど……」
てへへ、と頭をかいてみせた。アルは「ふーん」と言ったと思ったら通りの雑貨屋を見るや
「あっ、母様! あちらに新しいオモチャが!」
とお母様の手を引きつれていく。考えれば八歳の子供。普通はあんなもんか。伴の者をそう多く連れてきているわけではないので二手にわかれるわけにもいかず、お兄様についていくことにする。
何にせよ、うまくごまかせたかな。そう思った矢先、少し離れたところで大きな物音と悲鳴、馬のいななきが響き渡った。
「なに!?」そう言うが早いか、私の身体は弾かれるように走り出していた。
なにが二手にわかれるわけにもいかず、だ。自分にツッコミをいれつつ音のした方へ。
現場に駆けつけてみるとそこには激しく壊れた荷車と、少し先に馬車が止まっていた。
「……最悪だ!」
おそらく走っていた馬車の前に荷車が現れ、止まりきれずに馬車が荷車に衝突したのだろう。
壊れた荷車の手前には、呆然と座り込む少年の姿があった。駆け寄って手早く様子をみる。幸い擦り傷程度で、大きなケガは負っているように見えなかった。まずは胸をなでおろす。
「おにいちゃん大丈夫? 痛いところはない?」
私の言葉にようやく事態が理解できたのか、クシャッと顔を歪ませると大声で泣き出した。この様子だとひとまず大丈夫だ。
「大丈夫かい」とたずねてくれた近くの大人に彼を任せると、立ち上がり馬車の方に向かった。
ちょうどその時だった。馬車の扉が開くなり甲高い女の子の声が通りに響き渡った。
「ちょっと何やってんの御者~!? お茶こぼしちゃったじゃないのよ……ってなにこれ」
合わせて声の主が馬車から姿をみせる。陽の光をうけキラキラと輝く明るい銀髪。それに縦ロールが目を引く、華やかな雰囲気の少女。
彼女は馬車の後ろに広がる惨状をみるや、激しくため息を付いた。
「ねぇ御者~。アンタ何やってんの? パーティー間に合わなくなっちゃうじゃないの」
その言葉に御者はペコペコと頭を下げるばかりだ。
「あ」
フランの記憶にあるあの姿。あの言いぐさ。あの子は。
「大体アンタは……ん? あら? あららぁ? そこにいるのはフランツィスカさんではございませんこと?」
「え、ええ、ごきげんよう。ファビアナ様。その、お怪我はございませんか?」
「ケガはないけれど、そんなことよりちょっと聞いてよ。ワタクシの服にお茶がこぼれちゃったのよ! もう最悪よ。これからパーティーだってのに……あ、ほらもう早くちゃっちゃと片付けてよ御者ぁ~! ホントとろクサイんだから」
この強烈な少女の名はファビアナ・サマンサ・ガメトゥイ。確か10歳か11歳。今や我が国において他者の追随を許さない、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのガメトゥイ伯爵家。その一人娘だ。
御者のおじさんが片付けるまでもなく、私達のやり取りで伯爵家の娘だということに気づいた耳ざとい連中が、次々やってきてはあっという間に道を片付けてしまった。
「あら、みなさまご苦労さま。後でお礼のものを届けさせるので、連絡先を――ええっと、そこのフランツィスカさんに伝えておいていただけるかしら? よろしい? フランツィスカさん」
そういう事は先に聞くもんだぞと思いつつ頷くと「よろしく」とニコリともせず返して馬車に乗ろうと足を出す。
「しかし――」
馬車に戻ろうとした彼女はステップに掛けた足を戻してぼやくようにつぶやいた。
「お城に向かうには唯一の主要道というのに、なぜ道路を改良しないのでしょう? だからこんな事故が起こってしまう。ああ、なんと嘆かわしい」
彼女はうんざりしたような表情で周りの建物を眺める。
「町並みを大事にしているということですが、実際のところはお台所事情が厳しいから整備できないのではないかしら、ねえフランツィスカさん」
はあ、と曖昧な回答をしておく。ああ、いつものだ。
ホントこの子は。急にお金を持った家の子はなぜかああなるよね。
「ここの領主って……ああ、最近めっきりいいお話を聞かない家でしたわね。確か……」
「――我が祖父の領地、でございますファビアナ様」
「ああら、そうだったかしら、ごめんなさ~い、私ったらついうっかり。あ、もちろんあなたにも迷惑料はお支払いさせていただきますわね。っていけない、このままだとニコラス王子をお待たせしてしまうことになりかねませんわ! ちょっと御者ぁ~!?」
そして彼女は慌ただしく馬車に乗り、御者に出すよう伝える。
「取りまとめの方、くれぐれもよろしくお願いいたしますわね。そうだ、今度わが屋敷にも遊びにいらして。あなたに特産の宝石を見繕って差し上げるわ。あ、でも……」
そこまで言って言葉をきると、意地悪な笑みを浮かべた。
「まずは石に似合うレディーになるためのお洋服からかしら? なんなら私のお下がりでよろしければそちらも差し上げ」
「お嬢様、急ぎませんと」
御者のおじさんが声をかけてきて我に返ったようで、「あらそうね」と返して収まった。
相変わらずムカつく子だけれど、私はできた子なのだ。なので顔にも出ない。
まもなくムチが入り馬車が動き出した。
「それではこの辺で。急ぎますので、ごきげんよう~」
歌うような挨拶と砂埃を残し、彼女は去った。
するとワラワラと男たちが寄ってくる。先程事故現場を片付けた謝礼の件を報告に来たのだろう。しかしこれは困ったことになった。
集まってきた連中、彼らは全員が、本当に協力してくれた人たちなんだろうか。
「あらあらあら、大変だったわねぇ。フランちゃん、大丈夫かしら?」
後からやってきたお母様に相談してみると、あっけらかんと答える。
「あら、真贋を確認して欲しいとまでは言われなかったわけでしょう? なら、申し出た者すべてを教えて差し上げればいいんじゃないのかしら?」
なるほど。知ったこっちゃないですからね。
私だけのときは何やら目つきがアヤシイ者が数人いたけれど、伴の者が現れた途端、何処かに消えた。
ウチ、さらわれてまうん? ってちょっぴり慄いていたので内心ほっとしている。
そうなんだよ。すっかり油断していたけれど、私庶民から見れば大金持ちの孫だからね。悪い人にはカモネギだよね。気をつけないと。
「あ、名簿も大事ですが、もっと大事なのは被害者! あのおにいちゃんは!?」
「ああ、それなら大丈夫よ? 先程マイヤー薬店に連れて行って差し上げたわ。代金はウチにと言ったらあれこれ棚から引っ張り出してすごい勢いで調合始めたけれど、すごいのね、若いのに」
いやそれは取りっぱぐれがないと安心したからでしょうね、とは言わなかった。
なら名簿でも作りますか。あの子の慰謝料も請求してあげないと。
明日はまた、おじい様にお願いごとしなきゃな。
最後までありがとうございます。
今回はカイゼン事例はなしでした。代わりといってはなんですが、またまた濃ゆめのキャラ、オレ様ファビアナ様登場です。成金伯爵ガメトゥイの娘。
今後ちょくちょく出てきては、場をイライラさせますのでお楽しみに。
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引き続きのご声援、よろしくお願いいたします。




