事件簿1「家具工場で爆発事故!?」解決編
「防ぐことができる、とはどういうことでしょう。まるで再発することがわかっているかのようですぞ」
怪訝そうな表情を見せる工場長に振り返って答える。
「ええ。再発します。確実に。これは不安全状態を放置している『人災』ですから」
「人災、ですか? しかし我々は設置業者の用意したマニュアルに則って作業しているだけですよ」
工場長はなおも納得行かない様子で返してくる。ま、無理もない。
「それは、どの設備のマニュアルかしら?」
「え? そりゃもちろん、スクリューコンベアの」
「だから、よ」
工場長は首をかしげた。
「ははあ、フランお嬢様。設備全体のマニュアルを用意していないのはなぜか、といいたいんですね」
リアが顎に手をあて、ニヤリとした。
「そうね、半分正解。それも大事だけど、ここではそれに至るまでの設備を組み合わせた時のリスクアセスメントをしたのか、ということを確認したいの」
彼女が今度は「ああ」と手をポン、と打った。
「以前教えていただきましたね。潜在的な危険や有害なものを見つけ出して、取り除いたり低減したりするためのテクニックですよね」(※本編 第16話参照)
「そう。この設備を作ったときに、それをやっていればいいんだけれど。ただ」
「ただ?」
「今回の原因はそれで摘出出来ていたかといえば、難しいかもしれない」
「どういうことですか?」
目をパチクリしてリアは首をかしげる。
「原因が、そうそうお目にかかるものじゃないかもしれないから」
「え、レアケースなんですか今回の件。なんです? 早く教えて下さいよ」
よだれを垂らさんばかりに詰め寄ってくるリア。この子のこういう好奇心旺盛なところは正直好きだ。技術者は好奇心を常に忘れてはいけないと私は思っている。
「リア、ちょっとそんな焦らないで。……今回の原因は」
言葉を切って空を指差す。リアと工場長、それに周りの作業員が一斉に空を仰いだ。
「……そら?」天をポカンと見上げながらリアがつぶやく。
「『雷』よ」
その言葉にぐりん、と顔を戻してリアが口を開く。
「え!? かみなり? あの、空でピカピカゴロゴロいう、あれですか?」
「そ。それの仲間。『放電現象』というわ。あの空で起こる雷の縮小版がコンベアで起きて、その火花が木粉に引火。その結果として粉塵爆発を起こしたものと考えられるの」
話を聞いていた工場長はともかくとして、リアまでがポカンとしている。電気の概念が無いから当然か。
本当は静電気と言いたいんだけれど、まだ電気が発見されてないからね……面倒だから後でリアには説明しちゃおうかな。歴史、進めちゃおうかな。
「ええと、どこから説明したらいいかな?」
ここからの説明が本当に大変だった。
粉塵爆発のほうは理解が早かった。今の世でも国のどこかの炭鉱で、数年に一度は起こっている耳慣れた事故だからだ。慣れてほしくないくらいの被害が出るのだけれど。
対して静電気という言葉を使わずに放電現象を説明するのは骨の折れる作業だった。早いところ電気を発見してもらおう。
「とにかく、小枝が折れる音というのは放電現象と思われるわ。それが火種となって木粉に引火。爆発を起こしたものと考えられる」
「なるほど、しかしこれを今後どうやって防ぐか、なんですが」
工場長は頭を掻いた。
「発生源対策と安全対策、それぞれあるわ」
二本指を立てると、みんな次の言葉を催促するように指と顔を交互に見てくる。
「発生源には主に二つ。放電の原因を逃がす対策を機械的に施す。もう一つは引火しにくい環境条件にする」
「具体的には?」
リアが合いの手を入れる。テンポが良くなって話しやすい。
「放電への対策については、コンベアハウジングを固定するのを、天吊だけでなく、直接地面への固定もするように。細かい注意点は後で言うけれど、これで放電はぐっと減るはず」
「環境条件の方は」
「蒸気機関の蒸気を引っ張ってきて、サイロの中に流して」
「えっ。そんなことしたら湿気ってしまいませんか?」
リアが驚きの声を上げる。流石のリアもこの発想はなかったじゃろう。ふっふっふっ。
「そんな大量に流さなくていい。粉が舞わなくなる程度でいいの。舞わなくなったら、仮に火花が出ても爆発しないわ」
ここまでいいかしら、と見渡すと、それぞれ頷き返してくれた。自分も軽く頷くと、再び口を開く。
「次に安全対策ね。仮に爆発が起きてしまっても、作業員の安全は確保しやすいよう手を打っておく。具体的には爆発時、爆風を逃がすための逃し弁を天井に用意する」
そんなもんでいいんですか、と工場長が声を漏らした。
「そちらは意外とその、地味ですな」
拍子抜けしたような、いや拍子抜けしたのだろう。どことなく間の抜けたような口調で工場長は感想を続ける。
「単純な方がイザというときにきちんと働いてくれるから」
システマチックにするのが好きな人も居るけれど、複雑な機構も動力も持たない単なる蓋、とかの方がより長持ちするものだ。
設備的な対策としてはまとめると、まずはコンベアにアース代わりの支柱を設置する。経年で錆びて役に立たなくなるだろうから、錆止め加工したより線などでゆくゆくは置き換えるのがいいだろう。
次にサイロ内に水蒸気を取り入れ、木粉が舞わない環境条件、特に湿度をキープする。
とはいえずっと水蒸気を通していたら、リアが言う通りシケってしまって流動性が落ちる可能性がでる。そのためコンベアが稼働している間のみ断続的に加湿することが望ましい。
つまり連動機構を組み込むのが適当だろう。コンベアが稼働したら蒸気が送り込まれるようにする仕掛けだ。
安全面では緊急時の逃し弁を天井に取り付ける、といったところで落ち着くのではないか。
「後は作業員に対する教育。特に異なる材質のものが擦り合わされると火花が出るということを体感で知ってもらうこと。……とはいえ、みんな冬には体験していると思うんだけれどね」
「防寒着を脱ぐときにパチパチするあれですか!?」
「そう。そういう観点からはいればわかりやすいかしら」
ここまで説明していてわかったこと。
これはもう、電気の概念を説明すべきだ。でないと今回のようなケースが防げない。知らないから安全感度をあげられない、安全な設備設計にならない、手順にならないからだ。
もし電気についての発展が見られないようなら、自分できっかけを作らないといけないかもしれない。
今回の事件は、安全な環境づくりにはさらなる技術的発展が必要であることを痛感させられる一件となった。
出典:
厚生労働省 職場のあんぜんサイト ( https://anzeninfo.mhlw.go.jp/ )
労働災害事例「木材加工工場のサイロで粉じん爆発」




