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第32話 カイゼン幼女の成り上がり

 翌日。日が上がり切る頃には、ガメトゥイ伯爵は国の保安隊に捕縛された。


 直接の容疑はニコラス王子を害そうとした王家への反逆。そのためにカイゼル公爵家の屋敷へ押し入ったとされた。なるほど、そちらのほうが理由付けには適当だ。

 王都のはずれにある監獄で、伯爵は取り調べに素直に応じているという。


 賊は全部で57名。うち一人は成人前の少女だった。


 ここ最近、公爵領で起こっていた一連のいざこざや事件のたぐいは、ほぼすべてガメトゥイ伯爵家の差し金だったことがわかった。


 商人ギルドや冒険者組合なども抱き込んで公爵家を窮地に追い込み、領地を切り取ろうと暗躍していたらしい。そう考えると彼らの嫌がらせの数々も納得いくものとなる。

 徐々に体力を削られていく公爵家。もともと商売の才覚もない家だから、様々なもので搾取を繰り返されたとしても気づかなかった。当初は彼らの思惑どおり、上手くいっていた。


 並行してすすめていた、跡継ぎを亡き者にするという恐ろしい計画。

 昨年のあの日、いよいよ実行に移した。外壁辺りを散歩する癖のある兄、アルフォンゾの頭に工事資材をおとし、事故死に見せかけるというもの。


 レンガは見事当たった。ただし、兄ではなく、妹のフランツィスカに。おまけに死ななかった。まぁ仕方ない、別な方法を考えよう。そこまでは良かった。別に妹がどうなろうが、大勢に影響はないからだ。そのはずだった。


 そこから徐々に計画は狂いだしていく。公爵家の領地経営が次々に当たりだすのだ。商人たちに嫌がらせをさせても、工作員に小細工させても。回避するだけでなく以前より飛躍的に利益を上げだした。

 逆に商人は経営に必須ではなくなった。公爵家自らが商人としての機能を持ってしまったからだ。工場の連中もなぜか知恵をつけ、ついには小細工が問題を起こす前に露見してしまうようになった。


 跡継ぎがどうしたとか、そんなことはどうでも良くなってきた。孫娘がどうやら普通ではない。商人の間で噂になり始めた。


 資金を絞ってもダメだった。カネを餌に孫娘を取り込もうと画策したが、公爵は聞き慣れない手段で金を集めてしまった。あげくの果て、一部の商人などはその尻馬に乗り、公爵に利するものまで出てくる始末だ。


 水害はチャンスと思ったがそれも見事に解決した。それどころか逆に麦投資で手ひどいしっぺ返しを食らった。まさか別の穀物で意趣返しをされるとは。少なくない数の商人たちが含み損を抱えた。大量に麦もダメにした。結束がゆらぎはじめたのもこの頃だ。


 その後の冒険者協会の件、亜人奴隷の件、魔道具開発さえも。何ひとついいところが無かった。


 すべてにおいて、あの年端もいかない孫娘が糸を引いていることを知った時、ガメトゥイ伯爵は戦慄したという。


 気づいたときには王子との婚約も。以前から二人は幼馴染と聞いていたが、あわよくば自らの娘をと考えていた伯爵にとって、悪夢以外の何物でもなかった。


 ああ、あの時にそのまま死んでいてくれたなら。

 最初から狙わねばならなかったのは、ぼやっとした兄などではなく、妹の方だったのだ!



 もはや公爵を失脚させるしか、この失点を挽回する事はできない。

 どうする? きっと公爵家はもう自ら失敗はしない。


 だが失脚してもらう他ない。

 あるいは……消してしまうしかない。


 幸い荒くれの冒険者連中がある程度の数集められると、組合長のマルコが言っていた。

 押し入ってちょっと脅かせばすぐに折れるだろう、そう考えていた。


 そんなところに王子がいるなど、誰が想像できようか。

 さらに応援の冒険者の強さといったら、まったくお話にならなかった。彼らは短期間であのような強さを、どんな魔法でも使って獲得したのだろうか――



 ガメトゥイ伯爵は廃爵され、家族共々国外追放処分となるそうだ。結果的にだが王家に弓を引いたものへの処罰として、処刑でないのはせめてもの温情か。


 まずは商家である隣国の親の家に身を寄せるのだろう。おそらくはこの国との取引は禁止されるだろうし、絶縁状は周辺各国に回るから、普通に考えて二度と会うことはないだろう。


 半分は娘、ファビアナからけしかけられたフシもあったらしい。以前から私の事が気に入らなかったようだ。先日の婚約宣言の話を父親から聞いてからそれは逆恨みに代わり、今回の暴走は始まったようだ。


 私だけは(さら)って拷問してから殺すか、性奴隷として売り飛ばすつもりだったらしい。取り調べの際彼女の口から出た言葉は、私への恨み節だけだったという。


 あの時私にこだわらずに撤退しておけば、シラを切り通すことも出来たかもしれないのに。愛憎というのは、かくも人の目を曇らせるということか。


 こうなる前に、彼女と話をする機会があったならば。もしかすると今回の件は回避できたかもしれない。そう考えた直後首をふる。多分速いか遅いかの違いだったかもしれないと。



「――しかし想像以上だったね、冒険者の人たちの強さ」


 ふいにペトラの言葉に意識を引き上げられた。

 サロンに皆あつまり、定例のサワ会の真っ最中だ。とはいえ、目下の話題はゆうべのこと。


「そうだよね、協会の冒険者が、あっという間に制圧されちゃうんだもの」

「あれ? ということはここの護衛の人たちって、そんなに強くないってこと?」


 ペトラが失礼なことをサラッと言ってのける。


「それはちがうわよペトラ」「フラン様」

「数が全然違った。約60人に対しこちらは20名弱。おまけに完全武装の相手にこちらは寝込みを襲われてるのよ? むしろよくあれだけ持ちこたえたと褒めるべきよ」


「そんなもんなんですねー」

 何となくまだ納得していない感がある。そんな時は本人に解るものさしで話す。


「正体不明の伝染病が突然おこって、それを今すぐ治してくれって言われてるようなものよ?」

「護衛の人たち、スゴイですね!!」


 例えが少々適切でないかもしれないけれど、納得してくれたようでよかった。


「護衛の人ももちろんですけれど、訓練所は着実に成果を上げているようですわね」

「そうねヘレン。おじい様のご友人も、タダの飲み仲間では無かったということね」


 訓練所上がりの冒険者の練度の高さが、図らずも今回証明された。今後はより一層、訓練所が重要視されていくだろう。

 王子が帰り際、『国軍の訓練も考えたほうがいいかも』なんてつぶやいていたのが気になるけれど……。ああ、忘れよう。物理は私の担当じゃない。


「おじい様の剣技も初めて見れたしね」

「ああ、それですよそれ! 公爵閣下! なんなんですあの強さ!? 剣と盾を真っ二つに切っちゃったもんね!」


 リアが興奮して手をブンブンと振る。


「『若い頃は猛虎と呼ばれておったんじゃよ』……なーんて普段からうそぶいていたから、てっきり冗談だと思っていたんだけれどね」


 若干似てますわね、とヘレンに褒められた。

 それにしてもあの年齢にしてあの技のキレ。いまでも一線級はムリだとしても、二戦三戦は十分張れるんじゃないだろうか。


「ま、もっとも、今は腰が痛いって寝込んでるけれどね」

 肩をすくめておどけてみせると、「失礼ですよ、お嬢様」などと笑いがおこる。



「でも、あの子。ファビアナでしたっけ? 正直あそこまでするかー? って感じ」


 リアが口にしたその名前にドキリとする。


「最後はお嬢様を始末しろー、なんて言ってたからね」

「あれって、やっぱり王子様のことが好きだったってこと? にしてもボクちょっと考えられないんだけれど」

「そのようですわね。フランお嬢様にとってはいい迷惑……あら? この話題、良くないですか?」

「え? あ、やー、はは。……うん、その。私が居なかったら、あんなことも起こらなかったんじゃないかって、ちょっとね」


「それはこまるなぁ」

 ペトラがティーカップを両手で持ちながら、ポツリとこぼす。


「どうして?」

「だって、フラン様がいなかったら、ボクたち出会ってないんですよ? ボクのお店なんかとっくの昔に潰れちゃってて、リアちゃんやヘレンちゃん、ニケちゃんにだって会えなかった。……こんなステキな仲間に会えなかったって考えたら、ボク……あれ?」


「やだ、何泣いてんだよペトラ」

「え、うそやだリアちゃんどうしようボク」


「でもそうですわね。フランお嬢様に出会えなければ、私達どうなっていたことか」

「ほんと、想像したくないね」

「ニケも、フランがいたから、ここにいる」

「そんなのやだようフラン様ぁ」


「あなた達……」


 ペトラがそのままうええ、と泣き出したところでしばし沈黙が流れた。



「ところでお嬢様? 今日はおみえにならないんですかね? お・う・じ・さ・ま」


 思わず暗くなってしまった雰囲気を察したのか、メイドさんが発した言葉。

 反応してついカッと頬が熱くなる。


 あの野郎。昨夜のことを思い出すだけで。は、恥ずかしい――




 ――賊が全員捕縛され、引き立てられていく姿を見送る私に、ニコラス王子が声を掛ける。


「ふう、しかし突然立ち上がって、びっくりしたよ。無茶するよね、フランは」


「本当ですよ。そんな時お役に立てず、すみません。大変歯がゆい思いをしました」

 クレスが安堵の表情をうかべ、手甲を外していく。


「ああ、そういえばそうでしたね、クレスさん。フランのボディーガードなのに。ま、私は彼女の婚約者ですから? 当然の働きをしましたけれど?」


「私は賊に剣を突きつけられ、醜態を晒しただけでしたね。いやお恥ずかしい限りです。それよりお嬢様。ご無事で何よりです。このクレス、お嬢様のピンチにお役に立てず、大変もうしわけございません」


「いえ、結果的にみな無事でしたから、いいのですよ。よく守ってくれました」

「もったいないお言葉、ありがたき幸せにございます」


 そう言って前にひざまずく。え? と思っているとリアが「手、手」とかいうものだから頭のうえにいくつか「?」を浮かべつつ手を差し出すと、彼はそっと手を取りあっという間に手の甲にキスした。


 ……ま、まぁ悪い気はしない。セクハラは、されたコトよりされた人。


「貴女様に永遠の忠誠を」

「こ、此度の件、助かりました。アナタの働き、嬉しく思いますよ」


 クレスが手を握ったまま私を見上げる。

「フラン様、わたくしは」


「はいちょーい! もういいよね!?」


 そう言う王子に腕をつかまれ、強引に引き寄せられる。ちょ、痛い。

 クレスがひざまずいた姿勢のまま、ぽかんと見上げる。


「彼女はボクの婚約者だ! 手出しは無用に願おう!」

「いえ殿下。私はただ、従者としての」


「フラン。本当に君は。どっか抜けてるというか、頓着しないからボクは心配で仕方ないよ。ちょうどいい機会だ。この際、誰のものかハッキリさせておく」


 モノってなによ? は、なにいってんの、と思ったら急に抱き寄せられ、口づけされた。


 ……

 …………

 ………………

 うー、長い長い! 拳で彼の胸をどんどん叩く。


「う、うむ。ぷはっ。ちょ、ちょちょちょなにやってんの!?」

 ぐいーと押し返す。押す。押す。けれど彼は力強くガッシと抱き締めてくる。アナタ怪我してるのよ!?


「フラン。いや、フランツィスカ。君はボクのものなんだからね。離さないよ、未来のプリンセス」


 そのままもう一度。むー!! どんどんどん。


「ちょっと! 何やってんですか王子様! お嬢様は()()()のお嬢様なんですからね!」

「ぷはっ。……リアも何いってんの!? ややこしくなるから勘弁して!?」


「わぁ、王子様って意外と情熱的なんですのね」

「ヘレンもやめて!? てか人前でキスとか勘弁して」


「じゃあ、二人きりならいつでもいいの?」

「え、あ、いやそういうわけでも……ああ、もうっ!」


 その日はいつまでも、笑いというか、喧騒が絶えることがなかった。てか王子様、独占欲半端ない……。なにクレスに事あるごとに突っかかってるの?


 そしてクレス。あなたもマトモに受け答えしない! 大人げない。



 ◇ ◇ ◇



 数日後。


 突然だけれど、来月から()ガメトゥイ伯爵領に入ることになった。


 王の近衛がかの領地を調べたところ、重大な事実が判明したのだ。

 宝石や商売で儲けていたはずの伯爵。その内情は実にお粗末なものだった。領民への還元は無いに等しく、一部の商人と鉱工業を営む業者以外、非常に厳しい生活を送っているとのことだった。


 農地も荒れ果て、持たざる領民はその日暮らしを余儀なくされるなか、富める者はそのぱんぱんに膨れた欲望そのままに肥え太っているとのこと。

 一段落ついたら、商人を中心に悪事を精査していかねばなるまい。


 この事態を重く受け王城では検討に検討を重ねたらしい。そしてこの窮状を救う者として満場一致で私が推薦されてしまったようだ。……本当に検討したんだろうか?


 地位も『女子爵(ヴァイカウンテス)』となり、なんとか旧伯爵領を統治する体裁を整えてくれた。『女男爵』では、流石にバランスが、とのことだったんだけれど、どうにも婚姻に向けた外堀を埋められているような気がしてならない。


 ……あの、見た目は7歳の幼女だよ? 虫も殺さぬ天使ちゃんだよ? ホントこの国どうなってんの?



 あれよあれよという間に、出立はもう、明後日に迫っている。


「あららぁ。フランお嬢様。これはとても大変なお仕事ですわねぇ」

「ボクの薬が必要になったら、いつでも言ってくださいね! すぐ準備しますよ!」

「さっそく工場は手を入れたほうがいいよね。大丈夫、がんばりましょう!」

「フラン……まどうぐ、いっぱいつくったら、うれしい?」


 確かに大変な仕事。けれど彼女たちが居たら、どんなところだって何倍も何十倍も良くしていける気がする。

 こんな最高のパートナーたちに出会えて、幸せだ。本当に、幸せだ。


 思わずこみ上げてきそうな涙をぐっとこらえ、笑顔いっぱいで彼女たちに振り返る。


「じゃー、今日はどこをカイゼンしていこっか!?」


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[良い点] すごい盛り上がりでした! 押し入りシーンは手に汗握るほどでハラハラしながら読みました!(ハラハラしすぎていくつか地の文が頭に入っていませんでしたが、これはいけないと思って心を落ち着けて読む…
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