第26話 まずやってみる。動かないと何もカイゼンしない
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話の初っ端から下世話な話で申し訳ないのだけれど、手を加えた宝石。こちらが引くほど売れまくっている。
それもそのはず、見た目はガメトゥイが売り出しているものと遜色ないにもかかわらず、値段は七割。あのような技術を知らない者からすれば選ばない理由はない。
もっとも、我が国で大きな顔をして売りさばくとガメトゥイに角が立つので、我々は父の親類のツテをたより、直接他国で販売している。
タダ同然で仕入れている石は、本当に質の悪いものを中心にそのままの姿で加工し、庶民向けのネックレスとして領内で販売している。カモフラージュだ。これでアリバイも完璧。
お陰で公爵家の台所事情も随分潤った。債権の償還についても目処がたったので後は公共工事などの投資や環境整備に力をいれ、よりよい領地にしていかねばならない。
今日はこれとは別件で公爵領を離れているのだけれど、少し面倒なことになってしまっている。
ここは王城にある王族用の食堂だ。その厨房にいるのだけれど。
「ちょっと、なにトロトロされてますの!? あなた方、いつまでニコラス殿下をお待たせするつもりなのかしら!?」
銀髪ドリルが上下に伸び縮みしている。そんな揺れるほど怒らなくてもいいとおもうんだけれど。自称みんなのアイドル、ガメトゥイさん家のファビアナ様による怒りの声だ。
「アイドルっていうなら、そう振る舞うべきなんじゃないかなぁ」
小さなつぶやきが聞こえたのか知らないけれど、彼女はギヌロ、とこちらに振り向くと声を上げた。
「ちょっとフランツィスカさん!? 貴女も少しはお手伝いなさい!」
やれやれ。どっこいしょと重い腰を上げる。今までかなりのことは経験してきたつもりだけれど、こればっかりはなぁ。未経験なんだよね。
お菓子作り。
よく考え――いや、考えるまでもない。あの時に断っておけばよかったんだ。宝飾展の後、日を改めてニコラス殿下が公爵家に遊びに来たときのことだ――。
もはや我が家の最高機密となった登り窯を眺めながら、興奮したように彼はまくしたてる。
「話を聞けばきくほどすごいね、フラン。工場とかお薬屋さんのお仕事をどんどん良くしてるんだね! そんな知識、どこで覚えるんだい?」
「え、えと、図書館の本とか、神父さんとお話をする中でヒントを」
「えー、そこからあんなアイディアが出てくるのかい? 本当に君はスゴイね」
ごめんなさい殿下。嘘です……!
ダラダラと内心冷や汗をかきつつ、ニコラス殿下の口頭試問になんとかボロを出さずに答えきったところで、彼は思い出したかのように話し始めた。
「あ、そうだ、今度は王城に来てよ! 色々変わったから案内するよ」
あ、質問攻めがようやく終わった……そんな油断が普段ならしない判断ミスを引き起こした。
「ええ、わかりました。いつがいいかしら」
――不安全行動は事故の元。わかっていたはずなのに。ああもう、最悪だー。
あれがお菓子作りだったのだ。あのときの殿下のあの安堵の表情。今ならわかる。あれは『よし、一人分薄まった』だったんだ。
周りを見ると、殿下と同じ年の頃の女の子ばかり。
「フランツィスカさん? 遊び気分で来られたら、迷惑なんですけれど」
ファビアナちゃんったら怖っ! 怖いよ!? それにそもそもお菓子作りって、遊びなんじゃないの!?
これってやっぱり、将来のお妃様選び、つまりお見合いの一環なのかな?
もう、気分はいきなり手ぶらで戦場に放り込まれた新兵だよ……真っ先にやられる奴だよ……。
「おやつの時間まで時間がありませんことよ!? 私は外の会場の準備をしてまいりますから、あなた方、きっちり仕上げてくださいましね!? もっとも、ムリでもお菓子は持参しておりますので、ご安心なさいませ~」
そして彼女はドリルを揺らしながら庭の東屋に向かった。
取り残されたのは数名の貴族のご令嬢の方々。みな萎縮して、互いをキョロキョロと見合っている。
これじゃあ終わらないよねぇ。それにさっきの物言い。これきっと、わざとだ。
あんまり興味ないんだけれど。本当に無いんだけれど。でもさ、そういうの意地悪するの、良くないと思うんだよねえ。
「あのー、すみません。この中で今日のお菓子作り……クッキーですか? 作ったご経験のある方は?」
おずおずと、二人の手があがる。
「ありがとうございます。それでお願いなのですが、お二人でみなさんに段取りを説明していただけないですか?」
二人は見合って、頷き返してくれた。
「――わかりました。ありがとうございます。みなさんも大丈夫ですね?」
他にいる面々も、手順の説明後には若干明るさを取り戻していた。
「ではオーブンは私がこの後すぐ準備するとして、その他の手順はお二人を中心に二チームで進めることにしましょう。大丈夫! 材料も揃ってるし、皆さんで力を合わせれば絶対間に合うから、みんなでがんばろう?」
か細いながらも、それぞれ返事をしてくれた。あとはリーダー二人に託そう。
二人は互いに手順を確認できて自信がついたのか、軽く頷くとそれぞれについたメンバーに声をかけて作業を始めた。
しばらく緊張からなのか、無言で作業をしていた各チームだけれど、やがて会話がはじまり、型で抜かれたクッキーができる頃には笑い声が起こるほどになっていた。
オーブン担当のお兄さんが優しそうな人で良かった。これがみんなのアイドル並のが来たらどうしようと、密かにビクついていたのだ。
「あのー、こわいので手伝ってもらえませんか?」
もじもじして上目遣いにお願いをしてみたら、お兄さんはニヤニヤ……ニコニコして手伝ってくれた。やはり使えるな、この手。
幸いオーブンの火は昼食を作ったあとだったから熾が残っていた。少し薪を足すとすぐに火はおこり、クッキーを受け取るときにはいい感じに落ち着いている。こちらの準備も万端だ。
オーブンの蓋を閉めると、汗を滲ませた二人のリーダーが笑顔を見せた。
「ありがとう、おにいちゃん!」
手伝ってくれたお兄さんはだらしなく目尻を下げると、いいよいいよといって去っていった。うん、ちゃんと通用するじゃないか。
出来上がったクッキーを見て、ファビアナは一瞬口をつぐんだ。もしかしたら舌打ちの一つもしたかもしれない。
「ふーん。間に合ったようね。良かったわ。さ、始めましょ」
彼女のツンと澄ました中にも動揺した表情は、私達にとって格別なご褒美だった。思わず二人とこっそりハイタッチする。
「見てたよフラン」
「ひゃあ!!」
背後からの声。ニコラス殿下だ。急にびっくりさせないでよ!
「ごめん、驚かせるつもりなかったんだけれど。さすがだね、あっという間に彼女たちをまとめちゃって」
「見てたのなら手伝ってくだすってもよかったのですよ?」
「ボクにクッキーがつくれるとでも?」
肩をすくめて答える彼。
「神のみぞ知る、ですわね」
ため息交じりに言ってやると、「違いない」といって笑った。
「やあ、お招きいただきありがとう!」
そのままみんなにスマイルを振りまきながら東屋に向かう。途端に黄色い歓声が上がる。
「フランツィスカ様。殿下とは幼馴染とか」
「うらやましいですわぁ」
あの輪に入る勇気がないのか、ここにいる女の子数名がそんな事を言う。
あの、君たちそういうけれどさ、そんなにいいもんでもないと思うよ?
ほら。ファビアナ様の目、ちょー怖いし。
◇ ◇ ◇
その夜。この日は王城に宿泊することにしていた。おじい様がまた大事な会議があるとかいうことらしい。ツッコむのも可愛そうなので気づかないふりをしたけれど。……どの店を使うのかまで調べてやろうかな。
などと食事をすませ、夜風に当たって思案していたらどうも階下がにぎやかだ。目を向けると、どうやら衛士やメイドなど使用人たちの食事時間なのだろう。窓ごしに、多くの人がごった返す様子が見て取れた。
「へぇ、おもしろそう」
ちょっとした腹ごなしとばかりに、使用人食堂を覗きに行くことにした。
妙なことを考える貴族の娘だ、くらいの様子で当直の衛士が案内してくれたけれど、その熱気たるや、もうすごい。これはあれだ。高校の購買を激しくしたような感じ。
押し合いへし合いして大声で注文して、通った者からありつけるというアレだ。
「食べるの一苦労ですね」
ああ、と衛士のお兄さんが返事をした。
「休憩時間はそんなにないですから、もう必死ですよ」
「順番に並んだりしないんですか?」
「行儀よくしてもですね、一人ルールを守らないやつが出てきたらそこからもうなし崩し。結局早いもの勝ちみたいになってます」
なるほど。これもカイゼンの余地ありそう。
翌日。ニコラス殿下にこのことを話した。するとひとしきり笑ったあと、
「フランは変なところに目をつけるよね」
などといってまた笑い出した。なんとも失礼な人だ。
その後なんとか落ち着いた殿下に口添えしてもらい、使用人食堂に向かった。
「注文時の混雑を解消する方法、ですか……確かにできればそれに越したことはないですが。でも実際そんなことできるんですか?」
説明する内容はなんのことはない。食券方式だ。ただし食券には仕掛けを施す。
「提供するメニューは数種類、それぞれ準備する数は決まっていて、それ以外は定番品と。こんな感じですよね?」
責任者のオジサンはそうですねと頷く。
「でしたらまず、支払いを前払いにします。食券を購入してもらって、券と食事を引き換える形式にします。事前に人が並べるよう、待機列を準備します。一人づつ、順番に精算ができるようにするんです」
「なるほど。精算を順番にすれば注文に殺到して混乱することもなくなりますね」
「ええ。そしてここからが大事なのですが、食券の数をその日に提供する食数だけにして発券所に準備します。券がなくなれば売り切れなので、わかりやすいですよね?」
「券の数で。なるほど」
「もっと推し進めれば、魔道具のスイッチとランプ、後はスイッチ操作するための長いひもを伸ばして厨房と発券所を繋げば、注文を即時厨房に伝えることも可能ですよ?」
「そ、そんなことできるんですか」
「はい。あ、でもそれはウチの領地で製造している魔道具スイッチをご購入頂く必要がありますが」
そう言ってウインクを一つかましてやると、オジサンは目をぱちくりさせ、直後ガッハッハと笑った。
「殿下、せっかくだからいくつか買ってくださいよ」とのオジサンの言葉に「えっ!? ボク!?」とニコラス殿下が返す。
「ふふ。まぁそれはそれとして、こうすれば少なくとも注文時のゴタゴタは解消されます。結果提供時間は短くなるはずです」
「なるほど。それは今の設備に食券を準備するだけだから簡単だ。すぐ試してみよう」
「いいですね。カイゼンはまずは行動です。考えないのはもちろんダメですが、考えすぎるのも良くない。『とりあえず試してみる』という柔軟な対応も必要ですから。解決のピースになればいいね。まずはがんばってね!」
現場の責任者のオジサンはニッコリと立ち上がり一礼をすると、スタッフにあれこれ声をかけ始めた。うんうん、いいねぇ。活気のある職場はステキだねぇ。
次々に指示を飛ばす責任者さんの姿にニコニコしていたら、なんだか視線を感じ、ハッと見ると、ニコラス殿下がこちらをぽかんと見ている。
「どうしました、殿下? ……で・ん・か!?」
「……はっ、あ、い、いやなんでも、ないよフラン。あ、あはは」
頭をかいて笑う彼をみてなんだかカワイイ、と思ってしまった。子犬っぽいからかな。
「あ、そうだ。今日も泊まっていくんだよね?」
「はっ? いえさすがに今日は」
「え? お父様が『今夜は』屋敷に居て、カイゼル公爵と晩餐会を開くって」
ええ……晩餐会。こりゃまた面倒なイベントが。
どうせなら今日も夜の街に繰り出せばいいじゃない、おじい様ったら。
最後までありがとうございます。
今回は職場や環境を変えるための心構えをすこし書いてみました。
次回、晩餐会で何が飛び出すのか……? お楽しみに。




