第25話 嬉しくない再会、おいしいです
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いつもののんびりした朝。ですが今日は少し違うようで。
先日の講義をうけ業務改善を行った結果、ペトラの店の問題は解消したようだった。自分たちで一から業務を見直したらしい。今回は最初のアドバイスこそしたけれど、あとはすべて彼女たち三人でやりきってしまった。
それとなくそれぞれの職場を見回った感触からいっても、カイゼンは上手くいっているように感じられた。彼女たちの日々の成長を実感する。
けれど自工程完結の活動は一朝一夕では終わらない。むしろ毎日意識して継続していくべき活動だ。淡々と続け、変化できる組織だけが生き残っていけるのだ。それは今回の体験でも感じてくれたと思う。
どうせなら、これからも末永く活動できる組織づくりを彼女たちにはして欲しい。
袖を引っ張られるまま振り向くと、ニケがちょこんと椅子の上で膝をかかえ座っている。
「フラン……ごはん、たべた?」
首をかしげて尋ねる姿からは、出会った頃のみすぼらしさは微塵も感じさせない。
元々器量は良かったのだけれど、行き届くようになった手入れのおかげで輝きを見せるようになった。
まだ言葉はぎこちないけれど、時折笑顔も見られるようになってきている。行きていくための教育を施してあげて、魔道具販売で生計を立てられるようにしてやりたい。
「ん、まだだよ。ニケもまだ? じゃ一緒にたべよっか」
誘う言葉にほのかに笑顔をみせたニケは、椅子の上に立ち上がるとポーン、と飛び降りる。チュニックがふわりと風をはらむ。
……次からは静かに降りるように言おう。下着やらなにやらまる見えだ。
製粉工場からはじまり、さまざまな工場や農場、お店をカイゼンしてきた。おかげで税収も三倍程度まで増えた。
だけど本格的な内政――治山治水や農地確保と圃場の改善、港湾整備、ダンジョン整備に新たな鉱山の探索。エトセトラ、エトセトラ。それらを考えたらまだまだ潤沢に資金が調達出来ているとはいえない。
「ここらで一発、濡れ手で粟な産業もほしいところだけど……まぁそんな都合よくはないよね」
ん? という表情でパンを頬張るニケがこっちをみた。もうカワイイなぁ、このネコ娘は。
「そういえばお嬢様。明日半日お休みをいただきたいのですが」
カップをカチャリと置いたメイドさんが、思い出したように口を開いた。
「ん? おじい様がいいなら、いいと思うけれど。どうしたの?」
「なんでも明日、公会堂で珍しい石の展示会があるそうで。とってもキレイだそうなんです。それを見に行こうかと思って」
へえ。貴石の展示会かなにかかな? おもしろそう。
「私もいこうかな。一緒に行ってくれるなら、業務扱いでもいいよ」
「えっ、よろしいんですか?」
それからメイドさんのご機嫌なことと言ったらもうすごかった。
◇ ◇ ◇
ニケはさすがにここまではついてくるとは言わなかった。やはりまだ家の外はムリなようで、特に今回は大勢の人出が予想されたのだからなおのことだ。
しかし来るんじゃなかった……! 心の中でおのれの浅はかさに毒づいた。昨日の自分に蹴りを入れてやりたい。こんなことなら部屋でネコとニケとで戯れていたほうがよほど良かった!
少し考えれば分かる話ではないか。この辺りで宝石を産するところといえば一つしかない――
「ああら、どなたと思えばフランツィスカさんじゃありませんこと? いつぞやの馬車の一件以来ですわね。伯爵家に遊びに来ていただいても結構ですのに」
早速出くわした。この特徴的な銀髪縦ロール、忘れもしない。
ファビアナ・サマンサ……ガメトゥイ。
そう。この国で宝石が産出するのはガメトゥイ伯爵領だけ。うかつすぎるにも程がある。
「ご無沙汰しておりますわ、ファビアナ様」
ファビアナは挨拶に髪をかきあげて応える。うーん、おじょうさま。いけ好かない方の。
「これだけの宝飾品、ご覧になったことないでしょう? せっかくですからじっくりご覧になっていってくださいまし。ご購入いただければなおありがたいですけれど、まぁムリにとは申しませんので……ではごゆっくり」
そういうが早いか、ファビアナは離れたかと思えば。
「あら、ハルミッヒ商会様! ようこそいらっしゃいました~。ささ、ご覧になってくださいまし」
などと近くの商人のもとに近づき挨拶を交わす。
「あれでは貴族の娘というより、商人……あら、いけない」
メイドがボソリとつぶやいた。
ガメトゥイ伯爵も婿養子。けれど貴族の次男を迎えたウチと違い、豪商の息子を引き入れた。現ご当主はウチと似たりよったりの貧乏貴族だったガメトゥイ家を、たった十年たらずでトップランカーに引き上げた立役者。宝石鉱山を掘り当てた彼は、持ち前の商才も駆使し我が国での今の地位を築いた。
ちなみに我が家の場合、父親を選んだのは他ならぬ我が母親。周囲が権謀術数の限りを尽くすであろうことが容易に想像できる状況において、まさかの恋愛結婚を成し遂げたのだから、案外あの人もしたたかな人なのかもしれない。
閑話休題。
銀髪ドリルの少女が元気に営業をしている様子をぼんやり眺めながらメイドさんがポツリと呟く。
「公爵家も宝石が掘れればあんな感じになるんでしょうか」
「えー、あんな成金っぽくなるのかなぁ」
年端の行かぬ少女の科を作った物言いに、なにやら空恐ろしいものを感じる。
「お嬢様も、あれくらいは余裕じゃありませんこと?」
「やめてよ気持ち悪い」
そんな不毛なやり取りをしているときだった。
「おや、意外なところで意外な人と会うものです」
誰だ? と思って振り返ると、そこには芸能人がいた。
「……おはようございます、ニコラス殿下」
ちがった。見知った天上人だ。
ニコラス・ベネディクト・ウェンドランド。我が国の第一王子。そして私の幼馴染。なんでこんなところに。
「なんでこんなところに、って顔してるね、フランツィスカ。ほらあれ、いつもの王族のお仕事。恒例行事への参加ってやつさ。へへー、おどろいた?」
こいつはよく心を読んでくるからドキリとさせられる。
「ええ、すこし。えーっと、ご機嫌うるわしゅう」
つい、とスカートをつまんで膝カックンする。
「やだなぁ、君とボクの仲じゃないか。水臭いなぁ。ね、たまには王都に遊びにおいでよ。馬もちょっとは乗れるようになったんだよ。最近ちっとも来ないから嫌われたのかと思ったけど。あ、そんなことより活躍! 色々聞いてるよ! スゴイね、今度遊びに行くからさ、ゆっくりきかせてよ!」
相変わらずだけれど、圧がすごい。更にマシンガントークする王子様ってそれだけで既につよい。見えないなにかに押されるように身体が傾くのを感じていると、背後から例の声が。
「あら!! ニコラス殿下、お越しくださっていらしたのですね! もう、一言お声がけをいただければよろしいのにぃ。このファビアナ、いつも王子のことを想っていましてよ」
「あー、うん、こんにちはファビアナ。今日もそのー、華やかだね?」
「まぁ! 嬉しい、ありがとうございます! 王子がお見えになるということで、頑張ったんですよっ。お気に召していただけて、感激ですわ!」
わー、褒めてないー。でもファビアナ嬉しそうー。
「しかしどれも見事な宝石ばかりだね。これはすべて伯爵様の領地で?」
「そうですの。ここにある宝石はすべて我が父所有の鉱山で採掘されたものですわ」
「採れる宝石って、みんなこんなに素晴らしい輝きなの?」
「とんでもない。ここまで上質なものとなりますと、百個に一つあるかないかですわね。なのでとても貴重とされていますわ」
1%以下か。なるほど確かに高級品なのかもしれない。
「それはたしかに貴重だ。ちなみに残りの石はどうなるんだい?」
「それ以外の石ですか? 観光のお土産用とかでタダ同然に売るくらいでしょうか。えーっと……」
そういってファビアナは手に持ったポーチをさぐる。「あった」といって取り出したのは赤みがかった無骨な石。
「これが宝石の原石を荒削りしたものなんですけれど、色が悪いのでお土産用なんです。……ねえ、フランツィスカさん」
ふいに名前を呼ばれて「はい?」とマヌケな返事をしてしまった。
「せっかくなのでこれ、お持ちなさいな」
「え、でも悪いです」
こんなのうっかりもらったら何言われるかわかんないよ。
「大丈夫ですわ、タダ同然なんだから。せめてこれだけでもお持ち帰りなさいな」
ああ、そういうこと。
「ありがとうございます、いただきますね」
あっさりした反応に面白くなさそうな感じだったけれど、すぐ興味を失ったようで王子様王子様と彼にやたらに絡んでいく。
もらった石をしげしげと眺める。荒削りされた赤い石。けれどかなり暗い色だ。これではキレイに光りを反射し輝かないかもしれない……ん? ちょっと待てよ? もしかしてこれ。
思索の水底に沈んでいる間に外野では話が進んでいたようで、
「ささ、あちらにお部屋をご用意しておりますのでこんな」
などというファビアナの声に気づき顔を上げると、鋭い眼光を閃かせ彼女が睨んでくる。こわい。あれは猛禽の目だ。
「下々の者がたむろする中では危のうございます。さ」
「あ、や、今はフランツィスカと話して」
「ニコラス殿下? お部屋をご用意しておりますので」
「ああ……わかった。じゃ、フランツィスカ、残念だけれど、またね」
名残惜しそうにチラチラとこちらを見ながら遠ざかっていく王子様。「今度遊びに行く」と口でパクパクやったのでニッコリと手を振ってやると、満面の笑みでパタパタと手を振り返してきた。
「よし、早速試したいことがあるから、もう帰ろ!」
「ええー、もう帰るんですかぁ?」
メイドは不満そうに声を上げた。
◇ ◇ ◇
帰ってすぐリアに声をかけ、坩堝をはじめ加熱用の機材を準備をお願いしたら、「そんなこともあろうかと!」と屋敷の裏に連れて行かれた。
そこにはなんと、登り窯があった。
「で、お嬢様。こんなものなにに使うおつもりです?」
「今日はこれで遊びます」
取り出したのは荒削りされた宝石。
「宝石……ですか? しかしまだカットの途中のようですね。それになんだか」
「色もいまいち、でしょ?」
「ですよね」
色からしてルビーかガーネット、はたまたスピネル。
あまり詳しくはないけれど、たしか千℃以上の高温で十数時間加熱すれば発色がよくなる。『エンハンスメント』という加工技術だ。ガメトゥイの連中は色の良い石以外は宝石として販売していないといった。つまりこの世界に、宝石を加熱する発想や技術は存在しないと見ていい。
エンハンスメント自体は前の世界では一般的な技術だ。流通している貴石の実に95%が何らかの加工が施されているというなか、石そのものの性質を変えるものではないため、天然石として扱われている――などと若い頃に付き合っていた彼女がそういって宝石店に行っては、店員が一所懸命に説明していたことを唐突に思い出したのだ。
「これを焼くの」
「……マジっすか」
「マジです」
「もったいなくないですか」
「や、燃えないし。それにこれ、ガメトゥイさんとこのファビアナさんからタダで貰ったやつだから」
「あ、ならいいですね。……でもなんで?」
「それはやってからのお楽しみ。磁器を焼く温度まで上げたいんだけれど」
「なんだか楽しそうな話になってきましたね」
リアがニヤニヤしだした。興味を持ってくれたようだ。
「でも良かった。どうやって高温を長時間持続させるかが難問だったのよ」
「ちょうど明日から磁器を焼き始めるところでしたから、一緒にやっちゃいましょう。一緒に作業するので、取り出せるのは一週間後になりますけれど」
一週間後。結果はあっけないものだった。
「どれどれ、ってすっご! めっちゃキレイになってませんこれ!?」
石を布で軽く磨いたリアは驚きの声を上げた。
くすんだ赤黒い色は、随分明るい赤に変化していた。これはどうやら。
「成功ですね、お嬢様」
「うん、案外とあっさり上手くいったわね。これ、研磨できる職人はいるかしら」
リアは身を起こし、アゴをなでた。
「うーん、確か工場長の知り合いに貴金属の研磨職人が居たような。でもどうするんです?」
そんなの決まってる。
「決まってるじゃない。ウチでも売り出すのよ、宝石を」
最後までありがとうございます。
幼馴染の王子様登場! イケメン臭ただよう彼を巡って、一波乱あるかも?
それに加工貿易をやろうという腹づもりのフラン様。うまくいくとよいのですが。
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引き続きのご声援、よろしくお願いいたします。




