第12話 作業前にはKY。空気読めじゃないよ?
ご覧頂きありがとうございます。
時間がない中、フランちゃん様があえてみんなを呼び止めたその理由。
今回はそのお話になります。
「はい? なんです、やらないといけないことって。早く現場に行きましょう」
「今から危険な場所に立ち入ることになるよね? 心構えをしていないと、思わぬケガにつながっちゃう。だから今からKY活動をやるよ」
「けーわい? ってなんですか、お嬢様」
うん。もう慣れた。
「災害のリスクを低減するために危険個所、危険な状況なんかを事前に話し合う活動のことだよ。その危険に対しどのような行動をとるかをみんなで決めることによって、災害を未然に防ぐことを狙った活動のこと。『危険予知』の頭の文字をとってKY」
なるほど、とおじさんたちが各々頷く。
「これから入る現場は不安全状態であることは間違いない。そんな中で何も対策せずにいると人は不安全行動をとってしまいがちなんだよね。そうすると災害発生のリスクは飛躍的に上昇してしまう。それって目隠しして歩くのと同じ」
目をつぶって手をパタパタしてみせた。「そりゃ危ないわ」と一人が漏らすと笑いが起こった。肩をすくめてから話を続ける。
「それを防ぐために事前にリスクを頭に入れておくの。そうすることによって危険に対する感受性、安全感度を高めておく。そういう狙いの活動だよ」
「ふむふむ。それならなんとかやれそうですな」
「活動は四つの区切りで進めるんだよ。一つ目の区切り、現状把握。二つ目、本質追求、三つ目、対策樹立。四つ目、目標設定。最後に行動目標を決めて終了」
指折り説明をすると、おじさんたちは軒並み慌てた様子をみせた。
「な、なんか数が多いですね」
「説明したら長いように聞こえるけれど、慣れれば五分とかで終わる内容だから、慣れていけばいいと思うの」
「そんなもんですか」
工場長はまだ不安そうにしている。まぁいくら言葉で説明したところで実践にはかなわない。とりあえず活動を見せてみよう。
「そんなもんよ。それじゃ始めよっか。まずひとつ目の区切り、現状把握。えっと、私たちは足首より上まで泥水に浸かった工場に入ります。この場合想定される災害はなにがありますか? ~して~なるという形で書き出してみてください」
黒板を指差すと、一人の華奢な技師がたった。
「泥水の中に沈んでいるものを踏んだりひっかけたりして足をケガするかもしれませんね」
「突起物に足をとられて転ぶかもしれないなあ」
「場所によっては少し穴や段差があるな。足がはまって転んだりするかも」
工場長や技師長などが次々に思ったことをいう。技師は黙々と書き取っていく。
「なるほどなるほど。じゃ二つ目、本質追求ね。今まで出してもらった意見の中で、重要な危険はなに?」
「やっぱり穴が怖いかなぁ」
技師長が別の危険を口にした。直後、書記をかって出てくれた技師が振り返り話しだす。
「確かに怖いですが、そんなに数は開いていないかと。目印をしておけば大丈夫ではないかとおもいますが?」
あれ? この声、女性だ。髪をうまく安全帽の中に入れているのか、もともとショートヘアなのか。女性だと気づかなかった。
「そうか、じゃあ竿でも立てとくか。リア、頼んだ」
「……わかりました、技師長」
しばしの間の後、リアと呼ばれた技師は頷いた。
「リアちゃん固いなぁ。お父さんなんだからさー」
「そういうわけにはいきません。仕事ですから」
「かー、やっぱ固い」
他の技師からの言葉にもピシャリと言葉を返す。というか、技師長と親子なんだ。
……全然似てないなー。
「そんなことより。泥水の中のゴミなんかで足を切ったりするのが怖くないか?」
工場長が話を戻す。そうだ、あまり雑談をしている時間はない。
「そうですねー。足をとられるっていう点は、ゆっくり探りながら歩けばいいような気もしますしね」
「お嬢様。やはり泥水の中の危険な物に足をひっかけるのが一番危険かもしれません」
工場長がまとめた言葉に、皆一様に頷いている。
「ではそれにしましょう。『泥水の中の危険物に足を取られ、切ったり転んだりする ヨシ!』はい、ご一緒に」
掛け声におじさんたちは面食らった様子だったけれど、さあさあと急かすとそれぞれ唱和してくれた。エエ子達や。
「三つ目、対策樹立。では次に、この危険ポイントに対してあなたならどうしますか?」
その言葉に呼応しておじさんたちが次々に手を挙げる。いいねいいね。
「先に泥水を流しきるとか」
「長靴を履いて歩く、ですかね」
「しっかり足を上げて歩く」
「厚手の革靴を準備する」
「長靴と厚手の革靴は同じじゃないか?」
「そうだな、なるべく革製のしっかりした奴がいいな。いや、でも長靴は脱げやすい。胴長靴を準備しよう。確か清掃用のがあったはずだ」
「ふむふむ。出てきた対策で、これを特に実施しようというのはどれかな? 四つ目、目標設定ね。今出してもらった対策の中から、これ! っていうのを選んで」
私の言葉にしばらく互いを見合っていたけれど、やがて口を開いた。
「胴長靴だな」
「そうだな」
「胴付長靴を着用して入ることにします、お嬢様」
「ん、わかった。じゃあ行動目標は、泥水侵入箇所へ立ち入る際は、胴付長靴を確実に着装する、でいいね」
皆一様に頷いた。
「では唱和をお願いします。『泥水侵入箇所への立ち入る際は、胴付長靴を確実に着装しよう、ヨシ!』」
今度は促さずにみんな掛け声をしてくれた。エエ子達や。
「では確認ポイントの呼称を決めます。『胴長着装ヨシ! 固定、ヨシ!』これはお互いに着けている状態を確認しあってね。固定している紐は、目視でわからないときは実際に触って固定状態を確認すること。いい?」
はーい、と技師の一人がのんびり言うもんだから「真面目にしろっ」と技師長からげんこつをもらった。でもまぁそれくらいで丁度いいんだけれど。
「最後にタッチアンドコール」
「なんです、それ」
「現場での実践を互いに決意を込めて誓い合う掛け声よ。ほら、円陣になって手を重ねて……いい?」
「ゼロ災で行こう、ヨシ!」
実際にKYをやってから入ったら、みんなの安全への気遣いが飛躍的に増していると感じた。よそ見をしながら歩く、話しながら歩く。そういった行動はないことはもちろんのこと、先程出てこなかった安全面での疑問点を議論するようにもなっていた。
「はいはい、議論はまた事務所に帰ってからね」
そうして私達は復旧への段取りを取るための調査を進めた。
調査じたいは小一時間で終わった。ミシンの移動は可能なことが確認できたけれど、やっぱり先に水を抜かないことには危険すぎる。建物の一部を壊してでも排水を優先するよう技師たちに指示をした。
事務所に戻るなり、工場長がさっそく話しかけてきた。
「思ったよりひどくないようでホッとしました。しかしKY、でしたか? やって正解でした。ガラスでしょうかね、長靴の足首より少し上に小さな穴を開けられました。これが普通の靴だったと思うと。背筋が凍るおもいです」
「よかった。汚れた水の中で怪我すると厄介な病気の原因になってしまうから。KY活動、役に立ったでしょ? さて、現場の様子もわかったことだし、今日は作業の手順を整備しましょう」
午後からはミシンを横において、バラしたり組み立てたりして手順書を作成する時間となった。そんなそれぞれが分担して手順書を作っているときだった。
「お嬢様。少しよろしいでしょうか」
最後までありがとうございます。
KY活動のおかげで無事故で引き上げられただけでなく、安全感度も上がったような感じがしますね。
普段の職場でも、始業前や工事前には必ず行うことだと思います。
こういう地道な活動が災害を減らしていることを少しでも実感する一助になると嬉しいです。
次回。手順書作成時に不意に掛けられた声。気になるその内容は?
お楽しみに。
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引き続きのご声援、よろしくお願いいたします。




