第10話 金のなる木、無いなら植えればいいじゃない
ご覧頂きありがとうございます。
前回とても強い口調で商人さんを怒鳴りつけたおじい様。
みんなの前での罵倒などパワハラ発言もなんのその。悲しいけどここ異世界なのよね。
事態はどう動くでしょうか。
一つ大きく息をはいたおじい様は再びおおきく息を吸うと宣言した。
「結構だ。今回の費用、すべて公爵家が負担する。商店主たちよ、みな足労だったな、下がってよい」
おじい様の迫力に一様に怖気づいてしまったようで、商店主たちは言葉少なに部屋を出て行った。
扉が閉じられると、残った土木技師たちから拍手が起こった。
「ひゃー、公爵様、しびれたねぇ!」
「よく言ったよ、あんな条件出してきやがってあいつら、ふざけやがって。わしらのフランちゃんをボンクラどもにやれるかってんだ!」
みな口ぐちにおじい様をほめたたえる。おじい様といえば、照れて顔も真っ赤だ。
「やー、言うてしまったのぉ」
頬をかきながらも、どことなく誇らしそうにしている。
部屋に残っていた一人のベテラン職人さんが教えてくれた。
「この街は、この国で一番古いからね」
おじい様のずっとずっと前のおじい様の世代からこの国はあったけれども、この街が常に中心地だったらしい。
さすがに最近は遷都した王都にその座を譲ったものの、以前の王都だったこの街には今でも王家ゆかりの物が点在しているということらしい。幼女の知識にそこまでは入ってなかった。
面白そうだから図書館で今度調べておこう。
多かれ少なかれ、この街に住む住人は、誇りを持って暮らしている。
だからこそ、商人たちの物言いはおじい様にとって我慢ならなかったんだ。
商人たちをのぞいた話し合いの結果、ラウンドアバウトについては、まずは一箇所試行してみようという事になった。あわせて車両を減速する方策として、わざと道路の一部だけ狭くする案も採択された。
基本的な交通ルールの策定は他にも同調意見が多く、急いでやろうということになったのが驚きだ。今の交通事情に思うところがある人が多い証左だろう。
話し合いは、概ね良好に推移したといえる。
ただ――
「はぁ~どうしたもんかの」
お客がすべて帰った後の広間で、おじい様は片肘をついてため息をついた。先ほど見せたかつての猛虎を彷彿とさせる姿から、再び老描に戻ってしまった。昔見たヒーロー物の主人公みたいだね。
「おじい様」
「なんじゃ、フランや」
「ごめんなさい。私なんかのために。でも嬉しかった。ありがとう」
しょんぼりしたような表情(ごめん、演技だけれど)で声をかけた私を、おじい様はやさしく抱き上げて膝にのせ、髪を撫でてくれる。
「かわいいフランを売るような真似、誰ができようか。いいんじゃよ。……けどのぉ」
おじい様は頭をひとなでしてニッコリ微笑んでくれたけれど、また暗い表情を見せた。
今回の案件。そこまで費用はかからないといっても、現在の公爵家においそれと出せる額でもない。おじい様としては、今回は商人たちに費用を負担させる算段だったらしい。
実際のところ彼らが二番目の受益者だろうから、話し合って……まぁ半分くらいには値切られるだろうけれど、お金は出してくれると私だって踏んでいた。
けれども相手は私を取引材料に使ってきた。女の人にはだらしないけれどそれ以外には高潔なおじい様は、孫娘を借金のカタに差し出すことを拒絶し、商人たちを会議から追い出してしまった。それに関しては素直にうれしい。
しかしどうしたものか。この世界の銀行はまだその業態自体が成立していない。商人が金貸しもしているからだ。けれどあれだけの啖呵を先ほど切った以上、その舌の根も乾かぬうちに「金貸してつかぁさい」というのはいかにも恰好が悪い。
家名をことのほか大切にする貴族社会。そんなみっともない手は取れない。
んー、せめて銀行がある世界だったらなぁ。商人以外には多分頭を下げてくれるとおもうんだけれど……というところまで悩んでからふと気づいた。
……借金できないなら、やればいいじゃない。借金以外の資金調達を!
「さいけん――」
「ん? なんじゃフラン」
「そうだ債券。債券を発行しましょう、おじい様!」
「また聞きなれない言葉じゃな。なんじゃそれは」
「お金を投資家――お金儲けをしたい人に、数年後に利子、ええと、すこしお金を上乗せしてお金を戻しますよ、っていう約束を書いた証書だよ」
「それをどうするんじゃ?」
「国や市民に買ってもらうの。商人も、得だと思ったら買うとおもうけれど」
「なっ、あいつらの世話にはならんぞ!」
さっとおじい様の顔に朱がさした。
「まぁ待っておじい様。お金を借りるというより、数年後お金がちょっと増える『権利』を買ってもらうって考えて」
「借りるのと、何が違うんじゃ?」
「本質的には借りた場合と変わらないわ。けれど一番違うのは、借金と違っておじい様が商人たちに頭を下げずに資金調達ができる」
「ほう……それは素晴らしいのう。じゃがそんな簡単な方法があるなら、なぜみんな活用せんのじゃ? わざわざ商人どもに頭を下げるなぞ」
「それが無理だから、みんなはやらないんだよ」
「どういうことじゃ?」
「この手が使えるのは、おじい様が公爵だから。資産をいっぱい持っていて、仮に現金がなくても土地なんかで回収が可能だと、お金を出す側が勝手に思ってくれる立場だから」
「ふむ。信用で買ってもらうわけじゃな。ということは踏み倒してしまったら手ひどいしっぺ返しが来るじゃろうな」
「そう。だから発行には中長期的な戦略が必要なんだけれど……おじい様。例の製粉工場の業績はどうかしら?」
「おおそれな。フランがあれこれ知恵を入れてくれたおかげで生産量が二倍近くになってな。すこぶる順調じゃ」
「そう! ……うーん、ちゃんと計算しないとだけれど、多分問題ないとおもうな」
「おお、それじゃ」
「うん。お金は集まるよ。工事もできる。ほかにも投資ができるだけ集められたらいいんだけれど……」
心配は杞憂だった。
普段から金の余っている商人が買うことは予想していたけれど、意外と市民も小金を持っていたのだ。どうせ寝かせているお金だということか、こぞって債券を買い求めてくれた。
結果本来必要としていた資金を大幅に上回り、今後ほかの工場などでのカイゼンに必要な資金もある程度確保することができた。上出来の結果だ。
数日後、町中に交通ルールに関する説明書きの立て札がたてられた。合わせて大きな道路に面する細い道には、あっちの世界では見慣れた「止まれ」の標識が急ピッチで設置されていった。
ルールはその意味が腹落ちしていないと充分に機能しない。それは工場だろうが交通だろうが同じだ。街のリーダーたちはそれぞれの街区で交通ルールについての説明をおこなうとのことだった。
あわせてルールを守らないものに対しての罰金を支払わねばならない罰則を作った。適切な抑止力がないとルールは機能しない。
違反者の取り締まりは自警団にお願いすることにした。彼らはもともと公爵家より治安維持の業務を請け負っているけれど、それに加え検挙するごとにインセンティブを支給することによりモチベーションを高めることとした。
やり方はかつて元の世界で大変お世話になった、白と青のパーティー券を参考にした。
若いころは車を運転していると、青い服に白ヘルメット、サングラスがとっても似合うダンディなオジサンに、よくパーティー券販売会場に案内されたものだ。
『物販列はこちらで~す』って言いそうなくらいカジュアルに数万円のチケットを売りつける。せめてアイドルとの握手権でもつけてくれてたら、課金するのにためらいは……。
おっと、脱線してしまった。
いずれはこの自警団も規模を大きく、洗練させ警察機能を担わせる必要がある。そのためにも資金源をつくり人材を確保してもらう必要がある。
新たな利権と批判する向きもあるだろうけれど、透明性をしっかりとり、外部からの目があることを十分に本人たち、またほかならぬ市民に知らしめる。相互で牽制する仕組みづくりにしていければ、大きな問題にはならないだろう。
朝食後の紅茶をいただきながら一人つぶやく。ともあれ。
「猟犬は放たれた……」
「はい? どうされましたか、お嬢様」
「ひとりごとだよ、気にしないで!」
はい、とメイドさんが一旦下がる。
「そういえばお嬢様、そろそろ雨季に入りますが」
デザートを並べながらいつもの噂話が始まった。ああ、もうそんな季節なんだ。
「今年は例年より雨の量が多いらしいですよ」
いちご? のような果物を口に放り込む。途端に口の中が甘酸っぱくなる。
「へぇ。そういうのわかるんだ」
「ええ。宮殿の占星術師が占った結果だそうです」
「あたるの、それ」
「お嬢様がたまにされる弓矢とどっこいくらいには」
ちなみに先日の戦果は、二十五本のうち二本的中。八%。
「なんだ、結構当たるのね」
「でしょう」
そうこうしているうちに、窓から吹き込む風が湿り気を運んできた。
この世界でも雨季はやっぱりジメジメした季節なのだとうんざりする。
こんな事考えていたら良くないことが起こるのってテンプレだよね、と心でわらう。
この時笑った私を、数週間後の私が恨むことになろうとは。
最後までありがとうございます。
お金は大事だよ~。
物語って、ほんのちょっぴり真面目にお金のこと考えるだけで、あっという間に
破綻しそうって思いませんか?
次回は場所を変え、別の小さな街で起こる事件をフランちゃん様が解決に導きます。
お楽しみに!
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引き続きのご声援、よろしくお願いいたします。




