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推定年齢120歳、顔も知らない婚約者が実は超絶美形でした。  作者: シロヒ
仮面魔術師と新たな婚約者

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第三章 4


「アマネ……さん……?」


 仮面を着けなおしたユージーンに連れられて、港の一角にある倉庫を訪れたメイベルはぽかんと口を開けた。


「メイベル、無事だったか」


 そこに座っていたのは、明朗に笑うアマネだった。

 上着は脱いでおり、褐色の肩と脇腹に白い包帯が巻かれている。メイベルは腰が抜けたのかへたりと跪き、手のひらでそろそろとアマネの体に触れた。

 高い体温と、しっかりと跳ね返る筋肉を確認して、メイベルはじわりと涙を浮かべる。


「生きてる……」

「積極的だな。やはりオレの方がいいと気づいたか」

「ち、違います! でも、無事で、本当によかった……」


 結局堪えることが出来ず、泣き笑いのような表情を浮かべるメイベルを見て、アマネは穏やかに目を細めた。愛し気にメイベルの頬に手を伸ばす――途中で、がしりとユージーンに手首を掴まれた。


「それ以上は許可してない」

「……こいつ……」


 ばちりと火花を散らす二人の様子に気付かないまま、メイベルは零れてくる涙を拭うと、改めて顔を上げた。


「海に落ちた後、一体どうやって助かったんですか?」

「ああ、それはな――」

「――俺が手助けしたんだよ」


 奥から誰かが立ち上がる気配がし、メイベルはその姿に再び目を丸くした。

 赤い髪に赤い仮面――ロウが手に煙草を携え、微笑みながら歩いて来たからだ。


「ロウさん? どうしてここに……」

「まあ、意気地のない幼馴染に、喝を入れてくれた礼というのかな」


 どこか不機嫌そうなユージーンをちらと一瞥し、ロウは白い煙を吐き出す。何が何だかわからない、と首を傾げるメイベルの様子に、アマネが助け舟を出した。


「魔法でな。助けてもらったんだ」

「魔法って……ロウさんの?」

「そ。ああ、まだちゃんと見せたことはなかったね」


 そう言うとロウは、先ほど吐き出した白煙の残滓にそっと指を伸ばした。するとロウの手の中に吸い込まれるように煙が消えていく。


元型(アーキタイプ)『トリックスター』。得意な魔法は――偽物づくりだ」


 ロウが手を開く。すると白い小花がはらはらと溢れてきた。

 王宮の出し物で見た奇術によく似ていたが、これには種も仕掛けもない。きょとんとするメイベルが面白かったのか、ロウは楽しそうに再び吸い口を咥える。


「彼が海に落ちる寸前に、偽の体を作りだしたんだ。あとは視界から消えた一瞬ですり替えればいい」


 確かにメイベルが見たのはアマネが海に落ちた後で、はっきりと確認できたわけではない。水面に沈んだと思った体は、ロウが作った魔法の産物だったというわけだ。


「そ、そうだったのね……」

「ああ。まったく凄まじい技術だ」


 はっはと元気に笑うアマネの姿に、メイベルは少し呆れたように微笑んだ。

 でもなあ、とロウが紫煙を燻らせながらつぶやく。


「君の兄さんたちは、間違いなく君が死んだと思っているだろう……しかし、事情を説明して、無事に済む相手じゃないんだろ」

「ああ……」


 ロウに尋ねられたアマネは、一人何かを考えこむように押し黙っていた。だがゆっくりと顔を上げると、真っすぐな眼差しで告げる。


「オレはもう、キィサには戻らない」


 そう答えるアマネの表情は、憑き物が落ちたように晴れ晴れとしていた。それをみたロウとメイベルは、最初こそ少し驚いていたものの、やがて嬉しそうに笑ったのだった。



 やがて、扉や窓から差し込む光が次第に明るくなってきた。

 魔力を消費したユージーン、そしてアマネとロウの二人も、しばらくこの倉庫に身を隠しておきたい様子だ。しかし出て行くにもタイミングは重要だろう。

 メイベルは周囲の情報を探るべく、こっそりと表に出てみることにした。すると離れた倉庫の一角に、何やらがやがやとした人だかりが出来ている。


「何かあったのかしら?」


 近寄ってみると、ずらりと並んだ倉庫のうち、一番端にあるものが半壊していた。その元凶であろう、黒々とした鋳鉄の玉が転がっている光景に、メイベルは思わず声を上げそうになる。


「明け方にすごい音がしたと思ったらこれだ。おまけに小火もあったらしい」


(そ、そうだった……)


 原因を知っているメイベルは一人青ざめた。

 おまけに、中に収められていた荷物も酷い状態になっていた。火矢の影響か、焦げて原形をとどめていない燃え滓ばかりが眼前に広がっている。

 一体何が、とかろうじて燃え残っていたものを見て、メイベルはさらに絶句した。


「もしかしてこれって、……今日の祭典に使う予定の……」


 それは紙で出来た造花だった。まもなく街中に配られ、祭りを彩るためのもの。

 しかしほとんどが燃えてしまったらしく、無事なものは両手で数えるほどしかない。


「まいったな……今年は花無しでやるしかないか」

「しかしなあ、せっかくの花の祭典だというのに……」


 本来であればカイリたちに責任をもって直させるのが筋だ。しかしあの様子ではいつ回復するかわからない。一方であと数時間後にお祭りは始まってしまう。


(どうしよう、な、なんとかしないと……!)


 ちょっと待ってください、とメイベルは急いで倉庫に戻った。



 

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