幼馴染みは攻略対象2
「幹比古、櫂也も…こんなとこでモカにじゃれつくな、迷惑だろう?」
「あ、キリ兄!」
「桐斗くん、そんなこわぁい顔しないでよ」
二人にじゃれつかれ心底疲れた顔を晒していた私に、授業終わりでご飯を食べに来たらしい姉と、櫂也くんの2つ上のお兄さんで幼馴染みの1人である朝参桐斗さんが顔をだして、桐斗さんは二人の手を私から外してくれた。
昔から二人にじゃれつかれ、無駄に周りの女子に反感を受けている私を知ってる桐斗さんは、何時も私を気にかけてくれる優しいお兄さんです。
中学時代、嫌がらせで制服も着替えも切り刻まれて水着のまま震えていた私を助けてくれたのも、高校時代、櫂也くんの熱狂的ファンのストーカーまがいの女子に階段から突き落とされた時も、助けてくれたのは桐斗さんだった。
因みに、前世の記憶を思い出す前の私の初恋の君だったりします。
と、いっても桐斗さんが小学校の頃から一途に姉に想いを寄せているのは解っていたし、記憶を思い出してから、ちょっとした時に口を滑らせ、色々あって本人からは姉に対する気持ちは恋ではなくて家族愛みたいなものだ、と聞かされたりしましたが、今はもう1人のお兄ちゃんみたいに思ってます、はい。
そうそう桐斗さんは、櫂也くんと同じ赤みのある茶髪で前髪を真ん中分けにしてあるスッキリした髪型で、キリッとしたつり眉に櫂也くんより少し緩やかなタレ目で、右目の下に涙黒子がある少々無自覚な色気駄々漏れなお兄さんだ。
見た目は少々派手だけど、桐斗さんは真面目で世話好きな正に長男って感じで、中高と弓道部に所属、現在も弓道は続けていて、私が高校入学した年の生徒会長さんでもあります。
「あんたたちって、本当昔から変わらず仲良しだね」
「一花…お前な…」
「…一姉、どこ見てそんなん言えんの?」
「流石一花ちゃん、俺らのこと解ってるなぁ」
「「お前はちょっと黙れ」」
今のやり取りを見ていたはずなのに、うちの姉はかなり鈍いのでなんかズレた発言をする事が多い。
櫂也くんのチャチャ入れに、思わず桐斗さんとハモっちゃったじゃないか。
お願いだから、本当に空気よんでくれよ一姉!
えーと、今更ですが、私の前世でどハマりしてた乙女ゲーム主人公の1人である、現在の私の姉をご紹介したいと思います。
名前は、伏見一花。
双子の姉で、長女、元気いっぱいで明るく、大分大雑把で豪快な性格をしているので、よく兄に叱られている。
好奇心旺盛で、行動第一というか、口より先に身体が動いちゃうタイプ、と言えば解りやすいかな?
中学高校と輝かしい青春時代に恋愛に見向きもせず、かといって何か部活に所属するでもなく、ずっと帰宅部でバイトと友人と遊ぶのに費やした感が強い。
ただ高校時代にバイト先に選んだカフェで、コーヒーと紅茶にハマり、今はいつか自分の店を持ちたい、と経営学部に通っている。
まあその、進路に悩んでいた時に親身になって相談にのってくれた一ノ瀬先輩に現在片想い中で、どうやらこれが初恋らしく、兄と一緒に温かく見守っているところだ。
あー、序でに今はこの場に居ませんが、乙女ゲーム主人公のもう1人である兄の事も少々。
名前は、伏見十夜。
双子の弟で我が家の長男、姉とは対照的に物静かで大人しく、少し冷めてる印象が強くて、若干毒舌気味。
基本的に大雑把で突っ走り気味な姉を止める役回りな人生だったせいか、冷静じゃないとやっていけないのかもしれない、マジで。
あ、追加情報を入れると姉は体育会系で勉強はからっきし、兄は頭脳明晰で生徒会会計をしてたPCオタク、運動が苦手でインドア派、私と同じ活字中毒気味でよくお互いのオススメの本を貸し借りしている。
現在はゲームクリエイターになりたくて、そっち系の専門学校に進学した兄は日々、姉の居ない日常を謳歌しているようだ。
おまけで補足すると、この乙女ゲームは主人公を女子で始めるか、男子で始めるかでシナリオも攻略キャラ事にかわっていて、エンディングも同性間、異性間で友情エンド、恋愛エンドもあり、最初は高校生編がリリースされ、期間は高校3年間、途中で恋人関係に発展しても三角関係モード、倦怠期モード、とか略奪とかもありで、一度別れても復縁モードとかまであって本当にドキドキでしたから!
後付けで発売された追加ディスクを使えば、高校卒業時のエンディングの続き、って事で、選んだ相手と一緒に海外留学ルートとか、警察学校進学ルート、航空大学進学ルート、芸能界デビュールート、果てには夜の蝶ルートなんてのもあり、そのルート事に更に何人か攻略対象が増えるという、シナリオボリュームも半端なくて、やりこみ度がかなりヤバいと、話題になった。
ざっくり言えば、攻略対象1人あたり恋愛エンド3パターン、友情エンド3パターン、3人エンドにハーレムエンドで、8パターンはエンディングがあったので、もう選択肢選びもパラメーター上げも大変だけど、本当楽しくて仕事よりゲームする時間確保に躍起になってた前世の私がいます。
いかん、思考がぶっとんだ!
とにかく、現実としては主人公であるはずの姉も兄も、高校時代はゲームのシナリオにあるような展開には誰ともならず、大学に進学した姉がやっと続編でリリースされた大学編のルートに足を突っ込んだ感じです。
各々の進学就職もゲームとは多少違って、もう二人居る姉達と同い年の幼馴染みの女子二人はそれぞれ遠方に進学していたりする。
我が家のお向かいがミキの家で、我が家から見たらミキの右隣のお家に住んでたのが、おっとりして家庭的な黒髪お下げの眼鏡女子、二階堂椿ちゃん。
そのまた右隣のお家に住んでたのがチャキチャキした姉御肌で音楽を愛するイギリス人とのハーフで金髪碧眼の四宮菫ちゃん。
椿ちゃんは趣味だった家庭菜園がきっかけで、高校時代も園芸部に所属してたけど農業を学びたいと北海道の農業大学に進学。
菫ちゃんは、中高と軽音学部に所属しててギタリストだったんだけど、ロックを愛する彼女は母の母国であるイギリスに音楽留学している。
そんな彼女達も、攻略対象だったわけで…
「…モカ?大丈夫か??」
「ふぇあ?!え、あ??桐斗さん」
「急に黙りこんで動かなくなるから、心配したぞ…」
「あ、その…ちょっと考え事してたんだ、心配かけてごめんなさい、ありがとう桐斗さん」
「そうか…気分が悪くなった、とかじゃないならいいんだ…良かった」
あああ、桐斗さん、なんで鼻先五センチの距離まで顔が近付いてるんですか?!
そして、なんでそう慈愛に満ちた微笑みで私の頬を優しく撫でるんですか??
桐斗さん、自分がイケメンだって自覚持とうよ、貴方のファンの視線痛い!
嫌いじゃないけど、お兄さんみたいに思ってるけど!
もう少し距離感考えて下さい、無駄に心臓痛いです!
神様、私の心臓止める気ですか?!
どうか、本当に勘弁してください!!